「おっ、戻ってきたな、」
「はい!」
迷いながらも食べたいものを取ったあたしは、
木吉先輩が座っている場所に戻った。
「それにしても、ここの飯は美味いよな」
「はい……って、そっか。
ここのご飯、木吉先輩は初めてですもんね」
「ああ」
今日のお昼はファミレスになっちゃったし。
「好きなものを好きなだけ食べられるのもいい」
「確かに……」
でも逆に、食べ過ぎる可能性も高いってことで……
とりあえず、昨日の二の舞にはならないよう
食べたいものを少しずつ取ってきたけど。
「お前の好きなデザートもたくさんあったな」
「そうですね。
昨日初めて見たとき、テンション上がりました!」
主食やおかずを選ぶのにも相当迷うのに、
デザートもあんなにあったら迷いっぱなしだよ。
「それ食べ終わったら、デザートも食うのか?」
「い、いえ……今回はやめておきます」
お昼にパフェ食べちゃったし、
さすがに夜もっていうのはちょっと……。
「はは、やっぱりお前も気になるんだな」
「そりゃあ、まあ」
「そうだよな、女の子だもんな」
「えっと……はい」
木吉先輩は、いつも通りにこにこしてそう言った。
「けど、そうか……それはちょっと残念だ」
「残念?」
何が残念なんだろう、という思いを込めて
先輩のほうを見てみると。
その意を汲み取ってくれたのか、
再びにっこり笑って言う。
「がデザートを美味そうに食べてるところ、
見てるの好きなんだよなぁ、オレ」
「え!?」
「だって、かわいいだろ」
「…………!!!???」
ななな、何言ってるの、この人……!?
「ははは」
「わ、笑わないでください……!」
「悪い悪い、つい」
きっとまた、「表情ころころ変わってる」
とか思ってるんだろうなぁ、もう……。
「ほら、せっかく取ってきた飯が冷めるぞ」
「いったい誰のせいだと……」
「ん?」
「何でもないです」
ファミレスのときと言い、ほんとタチ悪い……。
でも、だからって嫌いになれないんだよね。
そこは先輩の人徳ゆえとゆうか……
仲間想いで優しいってことを知ってるし、それに……
「…………」
あたしがこうして居られるのも、
木吉先輩のおかげだし……。
「……あ、そういえばリコから聞いたぞ」
「……?」
「お前昨日、秀徳の緑間に拉致されたんだって?」
「拉致!?」
あながち間違ってはいないけど、
すごい表現してるな、リコちゃん……。
「えっと、あたしも最初びっくりしましたけど……
緑間くんにも、いろいろ事情があったみたいで」
「そうらしいな」
「はい。でも仲良くなるキッカケになったので、
今は得しちゃったかなと思ってます」
何かあったら、力になるって言ってくれたし……
ここでは知り合いが少ないあたしにとって、
ほんとに嬉しかったんだよね。
「お前の周りには、人が集まるな」
「そう、でしょうか」
「ああ」
どうやら、あたしが黄瀬くんに懐かれたこと、
あーちゃんとお菓子仲間?になったこと……
青峰くんやさつきちゃんと出会ったことなどを、
主に黒子くんから聞いたらしい。
「お前に、何か惹かれるものがあるんだろう」
そう、なのかな……
『こんなことを言うのは、非現実的ですが……
まるでキセキのメンバーが、
あなたに吸い寄せられているみたいですね』
そういえば……
黒子くんにも、似たようなこと言われたっけ。
あのときは、ほとんど冗談だったみたいけど……
「オレも、お前に惹かれてる一人だぞ」
「えっ?」
それって……
「人として」惹かれてる、ってことだよね?
「……お、これも美味いな」
そんなことを言いながら、
木吉先輩は再びご飯に手を付け始める。
「……はぁ」
木吉先輩のことだし、深く考えないまま言ってるのかも。
そう思ったあたしは、同じように
再びご飯に手を付け始めるのだった。
「いやぁ、ホントに美味かったな。
明日からは飯も楽しみだ」
「良かったですね」
ご飯を食べ終えたあたしたちは、
部屋に戻るためロビーを歩いていた。
「……あ、」
ふいに、外のほうへ視線を向けると。
ガラス越しに、まんまるの月が見えた。
「…………」
すごい……
今日って、もしかして満月?
「外に出てみるか?」
「えっ?」
「月が気になるんだろう」
よく解りましたね、っていうのは愚問かな……
思いっきり見てたわけだし。
「でも、あの……いいんでしょうか?」
「なんだ? 何かまずいのか?」
そうだ……
木吉先輩は、昨日のやり取りを知らないんだった。
そのことにすぐ気が付いたあたしは、
リコちゃん・高尾くんとのやり取りを簡単に説明する。
「なるほど、そういうことか」
「はい」
まあ、確かにあたしも不用心だったかもだけど……
2人とも、ちょっと心配しすぎな気がする。
「リコはともかく、高尾もお前に過保護なのか」
「そう、ですか?」
高尾くんは基本的に優しいんだけど、
ときどきすごく意地悪だし……
過保護にされてるのとは、ちょっと違うような?
「まあ何にしろ、今日は大丈夫だろ。
オレが一緒だし」
「えっ……一緒に行ってくれるんですか?」
「リコや高尾の話を聞かされて、
お前を一人で行かせると思うか?」
「い、いえ……」
確かに、そうだよね……
木吉先輩的に、そこは一緒に行くところだよね。
「えーと、あの……
それじゃあ、お願いします」
「ああ。それじゃあ、行くか」
「はい!」
「わあ……!」
ほんとに、まんまる……!
やっぱり今日は、満月で間違いないね。
「空気が澄んでるからか、星も綺麗に見える」
「そうですね」
満天の星空って、こういうことなのかな。
昨日は、夜は少し曇ってたから
あんまり気づかなかったけど……
「綺麗……」
こんなに綺麗だったんだ……
今日、こうして見れて良かったな……。
「…………」
「……木吉先輩?」
ふと視線を感じて、先輩のほうに目を向けると。
優しく微笑んで、こちらを見ていた。
「あの……?」
不思議に思って声を掛けたあたしに、
その優しい笑みのまま、先輩は言う。
「良かったな、と思ってさ。
お前が今こうして、笑っていられることが」
「……!」
それは……
「それは……先輩のおかげですよ」
「オレは大したことしてないぞ」
そう言って笑い飛ばしていたけれど……
『行くところがないんだよな?』
この世界に来た直後……
どうしたらいいのか解らなくて不安だったあたしに、
そう言ってくれたのは先輩だった。
リコちゃんの家に居候できていることも、
誠凛のみんなと仲良くしてもらっていることも……
全て、この人のおかげなのだ。
「ほんとは、ずっと……
ちゃんとお礼を言おうと思ってたんです」
ありがとうございます、木吉先輩。
「……」
「あたしが出来ることは、限られていると思います」
でも……
「先輩やリコちゃん、それに……
みんなの力になれるよう、がんばりますね!」
そう言うと、先輩はまた優しく微笑んだ。
「ああ……改めて、これからもよろしくな」
「はい!」
あなたに返していきたいんです
(救ってもらった分くらいは、せめて)
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さんがトリップしてきたときの話もちゃんと考えてあるので、
番外編みたいな形で補足していこうと思っています。