「じゃあ、みんなちょっと休憩入れるわよー!」


     カントクのそんな声が体育館内に響き渡り……
     みんなそれぞれの練習を中断して、こちらに集まって来た。

     あたしは用意しておいたタオルとドリンクを、
     やって来たみんなに渡す。





     「火神くんはちょっとこっちに来て♪

     「え!? なんでだ!? です!」

     「問答無用!!」


     ……が、火神くんだけは何故かカントクに呼び出されて
     体育館から出ていってしまった。





     「どうしたんだろう……
      火神くんの練習もなんとかうまくいったんだし、
      お褒めの言葉があってもいいんだけど」


     あれは明らかに「これから説教します」みたいなオーラだった。
     知らないうちに、火神くんが何かやってしまったんだろうか……?





     「気にすることないっすよ、さん。
     いつものことですから」

     「え?」


     ドリンクを受け取りながらそう言ったのは、日向くんだ。

     どうやら何か知っているみたいなんだけど、
     それ以上は答えてくれなかった。
     (ただ、ものすごく顔を青くさせていた)









     「……あれ? そういえば、みんなは?」


     体育館内を見回すと、
     いつの間にか日向くん以外のメンバーの姿が無い。





     「こん中は暑いからって、外に行ったみたいっす」

     「あー、なるほど」


     確かにムシムシしてるもんね。
     窓が開けてあるとは言え、ずっと居ると暑いし……

     練習のときは集中してるから、気にならないんだろう。





     「でも、日向くんは外に行かないの?」


     そう問いかけてみると、オレは少しシュートの練習をします、
     という答えが返ってきた。





     「え? せっかくの休憩なのに……?」


     ただでさえハードな練習だと思うのに、
     休憩のときまで続けるなんて……。

     少し心配になり、きちんと休んだ方がいいのではないかと
     言ってみたんだけど。





     「大丈夫ですよ、そこまでガッツリやらないんで」


     ちょっとした調整を兼ねて、今のうちに少し練習をしたいのだと言う。

     そういう言い方をされてしまったら、
     なんだかこれ以上とやかく言うのも気が引けてしまい。





     「そっか……うん、解った」


     そう答える以外は無いような気がした。





     「……ねえ、日向くん。
      その練習、ここで見ててもいい?」

     「別にいいっすよ」


     何も面白いことないかもしれないっすけど、と苦笑しつつ、
     日向くんはボールを手にしてシュート練習を始めた。





     「…………」


     集中している日向くんの近くで、あたしは黙ってその姿を見つめる。

     整ったフォームから放たれたボールは、
     真っ直ぐリングに向かっていき、ネットをくぐり抜けた。





     「すごい……」


     やっぱり日向くんのシュートはすごい。

     確かに他にもすごいシューターはたくさん居るけれど、
     日向くんはすごいぞ! と、あたしが威張りたいくらいだ。


     それに、なんてゆうか……
     バスケがすごく好きなんだろうなぁっていうのが伝わってくる。

     別にすごい笑顔だとか表だって楽しそうにしてるんじゃないけど、
     ただ、なんとなく。そんな感じがした。











     「それにしても……」


     こうやって練習を見てると、こっちまでバスケしたくなってくるよね。

     まあ、あたしはほぼ初心者だから、
     ほんとに簡単なことしか出来ないけれど……

     ……けど、シュートの練習くらいなら出来ると思うな。
     ボールもたくさんあるし、ひとつ拝借して
     向こうのリングのところで打ってみようかなぁ。





     「よし!」


     思い立ったら即行動、だ!

     そうしてあたしはボールを持ち、
     日向くんが居るところとは逆側のリングのもとへ向かう。





     「ええと……ここがフリースローのライン、だっけ」


     さすがに3Pは無理だと思うから、ここから打ってみよう。





     「それっ!」


     そうして放ったボールは……





     「うっ……」


     なんと、リングにかすりもせず床に落ちた。

     さすがに、これは無い……。


     こんなヘボいシュートを日向くんに見られていたらどうしよう。

     でもシュートを打つことは知らせていないし、
     ギリギリ見られていないかも……?


     そんな淡い期待を抱きつつ、後ろを振り返ってみると。

     さっきまで自分の練習に集中していたはずの日向くんが、
     バッチリこちらを見ていた。





     「さん、今の……」

     「あっ、いや、ごめん!
      せっかく真剣に練習してる近くで、今のは無いよね!!」


     すると、日向くんは黙ってこちらに歩いてくる。

     どうしよう……もしかして怒ったかな……?

     変に緊張して動けずにいたとき、
     そばまでやって来た日向くんが口を開く。





     「今のはフォームが悪いせいっすね」

     「え?」

     「少し修正すれば、届くようになりますよ」


     ボールを持って構えてみてください、と言うので、
     あたしは頭に?マークを浮かべながらも素直に従う。





     「それだとちょっと……
      まず右手はこう、左手はこんな感じで」

     「う、うん」


     日向くんはあたしの背後に回り、
     自身の両手であたしのをとってフォームを修正してくれた。

     それはすごくありがたいんだけど、なんてゆうか……
     これだと、後ろから抱きしめられてるみたいな……。

     とにかく、すごい恥ずかしい……!












     「……と、じゃあそのまま打ってみてください」

     「う、うんっ!」


     そう言いながら、日向くんはあたしから一歩離れた。
     けど、なんだかまだ恥ずかしさが残っていて……





     「あっ……!」


     変に力んでしまったあたしのボールは、
     先ほどとは違いボードに思いきり当たってしまった。

     そして、ボールはその勢いのままこちらに戻ってくる。





     「……!」


     思わず手でかばったけど、勢いがついたままのボールが当たって
     あたしはバランスを崩してしまった。





     「っ……!」

     「さん……!」


     どうしよう、ここままじゃ床に激突する……!

     そう思い、これからくる衝撃を覚悟していた……












     ……はずなんだけど。
     いつまで経っても、その衝撃はやってこない。





     「……?」


     一体どうなったんだろう、と思いながら、そっと目を開けてみると。





     「……大丈夫すか、さん」

     「あ、……」


     日向くんが下敷きになるような形で、
     あたしをかばってくれていたのだ。

     ……って、そんなのんきに状況を説明している場合じゃない!





     「ご、ごめん、日向くん……!!」


     かばってもらってすごく助かったけど、
     今はそれどころじゃないって!


     大事な選手に何させてんだってのもあるし……

     何よりあたしみたいな重たい奴なんかの下敷きだなんて、
     日向くんが潰れちゃう……!


     そんな考えから、慌てて上からどこうとしたんだけど。





     「さん、急に起き上がると危ないっすよ」

     「で、でも……!」


     あたしの心中が伝わっていたのか、「そんなヤワじゃないっすから」と
     いつもより少し優しい声色で言ってくれる。





     「とにかく、ゆっくり起き上がってください」

     「う、うん……」


     言われた通り、あたしはゆっくり体勢を整えようとする。
 
     ええと……まず両手を床について、
     日向くんにのしかかってる体を浮かせて……










     「……?」


     そのままゆっくり上体を起こせば、いいはずだと思ったんだけど。
     床についた手に力を入れても、あたしは上体を起こせずにいる。

     それは何故かって……





     「あの……日向くん……?」


     何故かって、日向くんがあたしの腰あたりに手を回して、
     それを邪魔しているからだ。

     びくともしないところからするに、それなりの力を入れているとみえる。





     「さん…………」

     「あ、…………」


     なに!?

     この体勢は、何!?
     まるであたしが、日向くんを押し倒しているみたいじゃない!

     さっきの、シュートのフォーム見てもらったときよりも
     すごい体勢なんじゃ……!?


     絶対、今すごく赤い顔してると思う……
     てゆうか、このままだと心臓が持たない……!





     「日向、くん……離して……」

     「……嫌だと言ったら?」

     「え、あ……」


     どうしよう、どうしよう、どうしよう!

     ふざけてるのかと思ってたのに、
     試合のときと同じくらい真剣な顔してる……!

     何か言わないと、と、混乱する頭で考えだしたそのとき……















     「オイ何してんだコラ」


     すごくドスのきいた声が横から聞こえた。
     ……言わずもがな、我らがカントクの出した声である。
     (普段可愛らしい声なのに、どこから出てるのだろう……)





     「かっ、カントク!?
      いや、違う、これは……!」


     突然のカントクの登場に、慌てふためく日向くん。

     そのとき腰に回されていた手も外れたので、
     あたしもようやく起き上がることが出来た。





     「さん、大丈夫だった?」

     「う、うん……
      転びそうになったのを、日向くんが助けてくれたから」


     怪我がなくて良かったわ、と、満面の笑みでカントクは言う。

     そうして、くるっと日向くんに向き直り、
     今度は夜叉のような顔(のちに日向くん談)で言い放った。





     「日向くん、殺す♪

     「うわああああああ!!!!!」


     そうして日向くんも、火神くんのように
     体育館の外に連れていかれてしまった。


















だけど、まだ


(心臓はばくばく言っています、日向くんのせいで)


















   +++++++++++++++++++++++++++++++

      修正するため読み直したんですが、何度読んでも
      このシチュが一番おいしいですよね。お互い(?)に。

      途中までは本当にただのハプニングだったのに、
      それを利用しようと考えたキャプテンだったが、
      結局リコちゃんに見つかってしまい制裁を食らうハメに……

      というのが、あらすじです(何