「日向くん、殺す♪

     「うわああああああ!!!!!」


     休憩に入ったと同時に、火神くんがカントクに連れ出された。

     その火神くんに続き、今度は日向くんまで体育館の外へと消えていった。
     (ちなみにまだ火神くんは戻らない。少し怖い気がする…)










     「……あれ、さんだけですか?」

     「あ、……伊月くん」


     そう言いながら体育館に入って来たのは、伊月くんだった。

     休憩に入ってすぐ他のメンバーと一緒に外へ涼みに行ったはずだが、
     どうやら戻ってきたみたいだ。

     でも一人で戻ってきたみたいだし、まだ休憩中ではあるよね。
     そもそもカントクも居ないし……。





     「確か、日向がシュート練するって言ってたはずだけど」

     「あー、うん……
      日向くんはその、ちょっと……カントクに連れていかれて……」


     その後に何があるのかは解りかねるので、あたしは言葉を濁した。
     だけど、伊月くんはそれだけで何かを察したようで。





     「ああ……なるほど」


     そう言って、合点がいったような顔をしたのだ。





     「と、ところでさ!
      まだ休憩なのに、伊月くんはもう戻ってきたの?」


     これ以上考えたら何かいけない気がして、
     あたしは慌てて話題を変える。





     「体が冷える前に戻ってきたんですよ。
      確かに涼みには行ったけど、また体が冷えたら意味ないですから」


     休憩が終わった後もまだ練習するのに、
     せっかく温まった体が冷えたらもったいない。
 
     そんな伊月くんの言葉に、あたしは「なるほど」と思った。


     やっぱり運動してる人って違うよね……

     あたしなんか、暑くなったらすぐ涼しいところに行ったりして
     今度は冷えすぎて寒いとか言い出すしね。

     自分で言うのもあれだけど、
     まったく学習してない気がする……。











     「……あ、そういえば伊月くんに聞きたいことがあったんだけど」

     「何ですか?」


     あたしの唐突な言葉に、伊月くんは不思議そうな顔をした。
     それがちょっと幼く見えて、可愛いなぁと思いつつ言葉を続ける。





     「あのさ……ネタ帳って、普段ずっと持ち歩いてるの?」


     あ、しまった。
     何のネタ帳なのか言わなかったな……。

     けど、あたしのそんな心配も必要なかったようで。
     伊月くんはとたんに目を輝かせて言う。





     「ネタ帳はいつも持ち歩いてますよ!
      もしかしてさん、ダジャレに興味あるんですか!?」

     「え、あ、いや……どうだろう……」


     ダジャレの話になったら、
     突然伊月くんのキャラが変わってしまった。

     そんな彼に戸惑っているあたしだったけれど、
     それには気づかず彼はハイテンションのまま続ける。





     「特別にネタ帳をお見せしますよ!」

     「えっ、いいの?」

     「他でもないさんなら」


     いいのかなぁと思いつつも、ネタ帳の中身は気になっていたので
     お言葉に甘えて見せてもらうことにした。











     「えーと、なになに……?

      『朝はあっさりアサリのスープ

       昼はひるまずヒルズデート

       ここ、超ロココ調

       ナイスなイスじゃないスか ナイスチョイス』

      …………」





     「どうですか、さん!」


     自信作なんですよ、と、伊月くんが言う。

     いや、てゆうかこれ……





     「これ、すごくない!?」


      いや、だって……
      ダジャレって、最低二ヶ所くらい掛かってたらいいわけでしょ?

      それがこれは三ヶ所とかすごい掛かってるじゃん!
      (ナイスな〜のところに至っては、五ヵ所掛かってるんですけど!)





     「すごいよ、こんなダジャレ初めて見た!
      伊月くん、天才だよ!!」


     あたしも変にハイテンションになってしまい、
     半ば叫ぶようにして伊月くんに言う。

     そうしてふと伊月くんのほうを見てみると、
     彼は反対にテンションが下がってしまっていて。





     「あ、あの、伊月くん……?」


     遠慮がちに声を掛けてみるも、伊月くんは黙ったまま。

     どうしよう、何か気に障ることでも言っちゃったかな!?
     ダジャレにはこだわっているだろうし、怒っちゃったのかも……

     どうしよう、どうしよう!

     と、とにかく謝ったほうがいいのかな……!?











     「…………。
      (今までオレのダジャレを褒めてくれた人が居ただろうか……
       いや、そんな記憶はない。さんが初めてだ)」


     ――やっぱり、この人しか居ない。












     「あ、あの、伊月く「さん」

     「は、はい!」


     謝ろうとしていたはずなのに、
     急に真剣な声で名前を呼ばれたので思わず返事をしてしまった。

     そして伊月くんは、自身の両手で
     あたしのをぎゅっと握って、じっと見つめてくる。





     「あ、あの、伊月くん……?」


     どうして黙っているんだろうか……

     ……てゆうか、こんな風に男の人に手を握られたことないから、
     すごく恥ずかしいんですが……!





     「さん」

     「は、はい」

     「オレと結婚してください」

     「は、……
      …………えええ!?」


     な、何言ってるの、この人……!?





     「オレのダジャレを褒めてくれたのは、あなたが初めてなんです。
      だから、あなたしか居ないと思いました」

     「なんでそうなるの!?」


     ちょ、意味解んない!
     意味解んないよ、伊月くん……!!





     「さんは、オレじゃ嫌ですか?」

     「え、あ、あの、嫌とかそうじゃないとかその前に……
      本気、なの……?」

     「本気です」


     この人、言い切った!





     「で、でも!
      結婚なんて、唐突すぎるよ……」

     「それもそうですね……」


     あ、良かった。
     なんとかこの状況を抜け出せそうな……





     「じゃあ、結婚の前に交際を挟めばいいですか?」


     はずもなかったですね!
     甘かったですね……!





     「そういうことじゃなくて、その……」


     てか、ひとまず手を放してくれないだろうか……!





     「さん、オレは……
      ……!」


     何か言いかけた伊月くんだったけれど……、
     急に体育館の入り口を一瞥したあと、そっとあたしの手を放した。





     「い、伊月くん……」


     よく解らないけれど、やっと冷静になってくれたみたいだ。
     さっきまでのは、ただの悪戯だった……と思いたいんだけど。













     「あら?
      まだみんな戻ってきてないの?」


     あたしの心中も少しずつ落ち着いてきたとき、カントクが戻ってきた。





     「あ、カントク……お帰りなさい」

     「ただいま、さん!
      遅くなっちゃったわね」


     さっさと練習再開しなきゃ、と言いながら、カントクは準備を始める。





     「伊月くん、悪いけどみんなを呼んできてくれる?」

     「ああ、解った」


     カントクに返事をした伊月くんは、もういつもの伊月くんだった。
     やっぱり、さっきのは何かの間違いだと思ったんだけど……

     すれ違いざま聞こえた伊月くんの言葉に、
     その考えは覆されてしまった。





     「返事は後で聞かせてくださいね……さん」

     「……!」




















やっぱり本気だったんだ


(で、でも、突然プロポーズなんて、どうすれば……!?)




















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       第4Qは伊月先輩でした! 
       親父ギャグとか、あんま笑わないタチなんですが、
       伊月先輩のやつに関してはものすごく笑える。何故か。

       ちなみに、ネタ帳が見たいと思っているのはわたしです^^