「黒子っち、黒子っち!
      ここでしばらく合宿するんスよね?」

     「ええ、その予定ですが」

     「じゃあ時間できたら試合しましょーよ!
      絶対楽しいっスよ!」

     「はあ……」


     黄瀬くんにタオル運びを手伝ってもらいながら、
     再び体育館に戻ってきたあたし。

     そこには黄瀬くんと待ち合わせをしていた
     笠松くんの姿もあったんだけど……


     あたしがお手伝いしている学校が誠凛と解ったとたん、
     (とゆうか黒子くんの姿を見つけたとたん)
     黄瀬くんは一直線に、黒子くんのもとへ向かっていってしまった。

     そしてそこから(主に黄瀬くんが一方的に)ずっと話をしていて、
     黒子くんは練習を中断せざるを得ない状況になっている。










     「と、とにかくみんなは練習を続けて!」


     しばらく呆気に取られていたけど、すぐに我に返ったカントク。

     同じようにぼーっとしていたメンバーに声を掛け、
     自分は黒子くんと黄瀬くんのもとへ。






     「ちょっと黄瀬くん!
      話に花が咲くのも解るんだけれど、今は練習中だから……」

     「カントクさんもいいっスよね!
      練習試合やりましょーよ!」

     「え? 何? 何の話!?」


     唐突にそんな話題を出されたからか、珍しくカントクは慌てている。

     黒子くんも黒子くんで必要以上に口を出そうとしないし
     (面倒だと思っているのかもしれない)

     テンションあがりまくっている黄瀬くんの対応に、
     カントクはたじたじになっていた。











     「……悪いな、うちの馬鹿が」

     「あ、ううん」


     あたしの隣でげんなりしている笠松くんが、ふと口を開いた。

     確かに思わず苦笑してしまう状況だけれど……

     黄瀬くんの黒子くんに対する感じはなんとなく解っていたので、
     (みんなはともかく)あたしはさほど気にしていない。





     「それより、ずっとタオル持たせててごめんね。
      ひとまずそこに置いといてもらえればいいよ?」


     本当は受け取って体育館の中まで運びたいところだが、
     あたしの手にも既にタオルの山が乗っかっている。

     なので、ひとまず笠松くんが持っている分はそこに置いてもらって、
     後で運ぼうと考えての言葉だった。





     「いや……中に、運ぶんだろ?」

     「うん、そうだけど」

     「じゃあ、……このまま持ってく」

     「えっ!?」


     ちょっと邪魔するぜ、と言いながら、笠松くんはタオルを持ったまま
     体育館へと足を踏み入れた。

     一瞬動けずにいたあたしだけれど、すぐに気を取り直し
     慌てて笠松くんのあとを追いかける。





     「この辺か?」

     「う、うん、そこで大丈夫。
      ありがとう!」


     お礼を言うと、「大したことじゃない」と言ってうつむいてしまった。
     表情はうかがえないけど、耳が赤いし単に照れているみたいだ。

     女子が苦手らしい、ってのは知ってたけど……
     いざ目の前でその様子を見てみると微笑ましいとゆうか、かわいいなぁ。











     「……何かおかしいか?」


     思わず笑ってしまったのを、悪い意味にとらえてしまったらしい。
     笠松くんが不機嫌そうな顔をしてそんなことを言う。





     「ご、ごめんね!
      別に馬鹿にしたとかじゃないんだけど、」

     「……」

     「笠松くん、かわいいなぁって思って」

     「……!?」


     言葉にならない叫びをあげ、笠松くんは再び顔を赤くさせた。
     どうやら、また照れてしまったようだ。





     「か、かわいくなんかねぇよ……
      つーか、オレの名前……」


     自分の名前をあたしが知っていることが気になったのか、
     そうつぶやいた笠松くん。

     不思議そうする彼に「黄瀬くんがそう呼んでいたから」と答えれば
     なるほどというような顔をした。





     「それにあたしも誠凛のみんなを手伝っているくらいだし、
      他の学校のこともちょっとは勉強してるよ」


     正直ポジションとか、そういうのはまだ詳しく解ってないんだけどね。

     その人がその学校でどんな立ち位置、役割を担っているのか、
     それくらいは知っていたいと思うんだ。






     「……それで、十分だろ」

     「そうかな」

     「ああ」


     そいつがそのチームの中で何をしている奴なのか、
     それさえ知っていれば十分だ、と、笠松くんは続けた。












     「最近マネージャーになったのか?」

     「あーうん、まあ……」


     正確にはマネージャーじゃないんだけど、と加えると
     笠松くんはまた不思議そうな顔をする。





     「ちょっと訳あって、カントクの家でお世話になってるの。
      それでお世話になりっぱなしなのも、っていうのがあって
      出来るだけバスケ部のお手伝いをしてるんだ」


     今回の合宿も、カントクに運転手を頼まれた関係で
     他のことも手伝えないかなと思ってやって来たわけだし。





     「そもそも、あたしはもう高校とっくに卒業してる年齢だしね」


     苦笑しながらそう言うと、今度はびっくりしたような顔をする笠松くん。
     どうしたのかと聞いてみると、黄瀬くんを一瞥して言う。





     「いや……
      あいつが『っち』なんて呼んでたから、同級生なのかと……」

     「高校1年ってこと?
      さすがにそれは、サバ読みしすぎだなぁ」


     てか、あたしを見ても笠松くんは、
     ずっと「高1のマネージャー」だと思っていたのだろうか。

     さすがにそんな幼くはないだろう……

     まあ、実年齢よりも下に見られるのは日常茶飯事だから、
     気にしてないけど。











     「そもそも、ちゃんと自己紹介してなかったもんね。
      あたしは、高校どころか大学もとっくに卒業してるんだけど……
      まあ、年齢で言うと24歳です。よろしくね」

     「24……」


     いや、そこまであからさまに驚かなくても。
     まあ高1だと思い込んでいたわけだし、仕方ないのかな。

     苦笑しながら笠松くんを見ていると、
     今度はだんだん表情を険しくさせていった。





     「笠松くん?」


     どうかしたのかと心配になって声を掛けてみると、
     笠松くんが勢いよく頭を下げた。





     「え? ちょっと、」

     「すみませんでした!」

     「ええっ!?」


     突然謝ってきたので何事かと思い、今度はあたしが驚いてしまう。





     「年上だと知らずに、言葉遣いとか態度がなってなかったので……」

     「あ、いや、いいよ!
      そんなに気にしないで」


     黄瀬くんなんて、年上だと知ってて「っち」なんて呼んでるんだから。





     「すみませんでした」

     「大丈夫だよ。
      それにそんなに気にされると、逆に困っちゃうし。ね?」


     あたしがそう言うと、笠松くんはやっと顔を上げてくれた。

     まだちょっと、納得いかないような顔してるけど……
     ええと、何か話題をそらすには……











     「……あ、そうだ。
      笠松くん、のど渇かない?」


     良かったらどうぞ、と言いながら、
     あたしは余っていたスポーツドリンクを差し出す。

     この暑い中で黄瀬くんを待っていたためか……

     やっぱりのどは渇いていたらしく、
     おずおずとあたしの手からドリンクを受け取ってくれた。





     「黄瀬くんが落ち着くまで、それ飲んで待ってるといいかもね」


     あたしは今のうちにタオルを畳んじゃおう、と、
     今しがた運んできたタオルを袋から取り出す。

     すると、手にしていたドリンクを置いた笠松くんが、
     同じようにタオルを取り出し始める。

     どうしたのかな、と思いつつ笠松くんを見やると、
     また黄瀬くんを一瞥して言う。





     「あいつが落ち着くまで手が空くんで……手伝います」

     「え、でも、」

     「……手伝わせてください」


     そんな真剣に言われてしまっては、断るに断れなくなってしまい……
     結局あたしは、黄瀬くんのときと同様お言葉に甘えることにした。

















     「あーーーっ!!」


     もう少しでタオルが畳み終わるな、というところで、
     突然黄瀬くんが叫んだ。

     何事かと思って彼のほうを見てみると、
     彼は真っ直ぐこちらに走ってくる。





     「笠松センパイ、ずるいっス!」

     「何の話だ」

     「だってっちと一緒に仲良くタオル畳んでるじゃないスか!」

     「誰のせいだと思ってんだ!!」


     いいなーいいなーと繰り返す黄瀬くんに、
     笠松くんはまた蹴りをお見舞いした。





     「ヒドイっス!!」

     「うるせー」


     なんだかんだ言って仲がいいんだよね、このふたり。

     そんなことを思いながらやり取りを見ていると、何かの音が鳴った。
     笠松くんがあっという表情をしたとから、どうやら彼のケータイらしい。





     「……とりあえず旅館に戻るぞ、黄瀬」

     「えー! なんでっスか!」

     「森山たちが着いたらしい」


     今メールで連絡がきた、と、笠松くんは言う。





     「センパイたち、やっと来たんスね」


     どうやら、このふたり以外のメンバーは、
     揃いも揃って遅刻していたのだという。

     で、その遅刻組が到着したので、とりあえず全員で集まって
     今後の練習メニューについて相談するんだそうだ。












     「そういうわけなんス、黒子っち、っち。
      名残惜しいけど、今日のところは退散するっス!」

     「はい」

     「うん、またね、黄瀬くん」


     あたしがそう言うと、黄瀬くんは嬉しそうに笑って
     体育館から出て行った。





     「あ、笠松くん!」


     黄瀬くんに続いて体育館を出ようとしていた彼に、
     あたしは慌てて声を掛ける。

     振り返って不思議そうにする彼に、あたしは言った。





     「タオル畳み、手伝ってくれてありがとう」


     おかげで助かったよ。





     「い、いえ……
      じゃあ……失礼します」


     あたしの言葉に、また笠松くんは照れていたようだった。




















やっぱりかわいいと思う


(そう言ったら君はまた かわいくなんかねぇよって言うのかな)


















   +++++++++++++++++++++++++++++++++++

       第6Qは笠松センパイでした!
       まじで笠松センパイも好きすぎるわたし。

       黄瀬の回は、割と前々から「こんな感じにしよう」と思っていたのですが、
       笠松センパイはどう動かそうか考えていなかったんですよね。
       
       それなのに、けっこう勢いで書けちゃった珍しい回です。
       さすが笠松センパイだ!