「ちょっと、緑間くん!?
さんをどうするつもり!?」
誠凛のカントクさんが慌ててそう叫んだが、
真ちゃんは聞く耳も持たずさっさと体育館を出て行った。
「……どうしてくれるんですか、高尾くん」
「え、何? これってオレのせいなわけ?」
そう言い返したら、黒子が無言ですげー睨んでくる。
ぶっちゃけ表情があんま無いっつーイメージだったから、
まさかこんな顔をされるとは思ってなくて、ちょっと驚いた。
「緑間くんは、高尾くんの相棒でしょう。
責任を持って、あなたがさんを連れ戻してきてください」
「マジかよ」
真ちゃんが他校のマネージャーを連れ去ろうが構わねーが、
オレまで面倒事に巻き込まれるのはちょっと困るな。
そう思ったが、黒子がずっと無言の圧力をかけてくるので
「解ったよ!」と答えるしかなかった。
「待ってよ、黒子くん!
やっぱり、私たちもさんを迎えに行ったほうが……」
オレが体育館を出ていこうとしたとき、
カントクさんが慌てて黒子にそう言った。
だが、黒子も黒子で頑なに「高尾くんにお任せします」と言い張る。
「さんが戻ってきたとき、
自分のせいで練習が中断されたと知ればどうなるでしょうか」
「……!」
「きっと、悲しむと思います」
だから、僕たちは練習を続けているべきです。
「っ……そう、ね」
仕方ないと言いながら、カントクさんも折れた。
「高尾くん……さんを、必ず無事に連れ戻してちょうだい」
「了解っす」
「もしさんに何かあったら……
覚悟しておいてよね」
「は、はい」
マネージャー一人のために大げさな、と思いつつも、
カントクさんの笑顔が怖いので、オレはそそくさと体育館を出た。
「……体育館以外で練習するっつったら、あそこだよな」
駅からこの体育館に来る途中で見かけた、
ゴールのある広場みてーなところ。
体育館以外でゴールがあるのはいいよなーなんて、
さっき言っていたばかりだ。
「とにかく、あのマネージャーを連れ戻さねーと……」
このままでは命がないかも、と思いながら、
オレは広場を目指した。
「もうちょっとかな……」
緑間くんは休憩後に練習を再開し、
それからまたしばらくシュートを打ち続けている。
ポケットに入れていたケータイで時間を確認すると、
やはりそれなりに時間が経っていた。
……結局体育館から連れ去られた形になってしまったけれど、
カントクたちは心配しているだろうか。
「大丈夫かな……」
……そうだ、ケータイがあるんだから連絡すればいいんだ。
なんでもっと早く気付かなかったんだろう。
そう思いつつ、ケータイで電話を掛けようとしたとき。
「お、居た居た!」
誠凛マネちゃん! と言われ、
たぶんあたしのことだなと思って顔を上げると……
先ほど体育館に置いてきてしまった高尾くんの姿があった。
「やっぱここに居たんだなー」
良かった良かったと言いながら、
高尾くんはあたしの隣に座る。
いまいち状況が理解できないため、
あたしは何も返せず黙ったままだ。
「いやぁ、黒子に君を連れ戻すよう頼まれ(脅され)ちゃってさー」
高尾くんは、ここに来ることになった経緯を簡単に説明してくれた。
「そうだったんだ……
ごめんね、わざわざありがとう」
けっこう時間も経ってるし、
たった今カントクに連絡しようと思ってたところなんだよね。
「みんな、大丈夫だった?
ちゃんと練習再開してたかな?」
「ああ、それなら心配いらねーって」
渋々練習再開してたから、という高尾くんの言葉を聞き、
あたしはほっと胸をなでおろした。
あたしのせいで練習が中断されたなんてことになったら、
すごく嫌だもんね……。
「でも、ここに来るまで時間がかかったね」
あれからすぐ体育館を出てきたってわけじゃないのかな。
「いや、すぐ出てきたけど」
つーか、追い出されたって感じ?
おどけたように高尾くんが言う。
……けど、おかしいな。
体育館からこの広場はそれほど離れていないんだし、
もっと早くここに着いてもいいんじゃないだろうか。
あたしの言いたいことが解ったのか、
高尾くんは緑間くんを見やりながら言う。
「うちのエース様はツンデレで我が侭で、
マイペースでいろいろ気難しいけど……」
「…………」
「バスケに対しては、人一倍真剣だからな」
練習の邪魔は、あんましたくねーんだわ。
そう言った高尾くんの声は、とても真剣だった。
きっと緑間くんのことを認めていて、それでいて尊敬しているんだろうな。
「……そっか」
それ以上は言わなかったが、どういうことかは解った。
たぶん、どこかで時間を潰してきたんだろう。
……いつもおちゃらけているように見えるが、
本当は周りをよく見ていて、気遣いができる。
そんな高尾くんだからこそ、
「鷹の目」というスキルを生かせるのだと思った。
「……さっき休憩したときに緑間くんが、
『もう少し練習するから、その間は付き合ってくれ』って言ってたんだ」
だから、もう少しでいったん切り上げるんだと思う。
「それまで、ここで待ってようね」
「え? けど……
君を早く連れ戻さねーとだし」
「大丈夫だよ」
まだ戻らないって、あたしが駄々こねたことにするから。
そう言うと、高尾くんは一瞬きょとんとしたが
すぐ笑顔になって「悪いな」と返してきた。
「あ、そういえば高尾くん」
「んー?」
実は、さっきからそうだったんだけど……
緑間くんを待っている間は、どうしても手が空く。
今は高尾くんも居るし変に黙っていてもアレなので、
あたしは話をすることにした。
「高尾くんの、『和成くん』って名前、かっこいいよね!」
実を言うと、これはずっと考えていたことだった。
「そーか?」
「うん!」
自分じゃ解んねーなーと言いながら、
高尾くんは変に熱弁するあたしを見て笑いをこらえている、のだと思う。
「そんなに気に入ってんなら、呼んでもいーけど?」
「え?」
なんとか笑いをこらえたらしい高尾くんが、ふいにそんなことを言う。
「よ、呼んでもいいって……高尾くんを、名前で?」
「それ以外にねーじゃん」
何言ってんだよーと言いながら、高尾くんはもうこらえたりせず
普通にけらけらと笑っていた。
いや、でも、こんなチャンス(?)めったに無いだろうし……
ここはあえて、呼んでみたほうがいいのかも?
本人も了承してるんだし!
「じゃ、じゃあ、えーと……
か、か、か、かず……か、かず……」
あ……あれ?
「か、か、かず……か、かず…………」
よ、呼べない――――――――――――――!!
「ぶはっ……!
ごめん、オレもう限界!!」
そう言った高尾くんは、先ほどと違い大爆笑している。
……よくは解らないが、何かがツボったらしい。
「そ、そんなに笑わなくたって……!」
「だってさー、『かず』まで言ったらあと二文字じゃん」
なんで言えないかなーと、高尾くんは未だに笑い続けている。
(ずっと思ってたけど、笑い上戸なのだろうか……)
「だいたい、自分で話ふってきたときに
一回『和成くん』って言ってんだろ?」
「それはそうなんだけども……!」
でも本人に向かって呼びかけるのとは、全然違うんだよ!
気持ち的に!
必死にそう返したんだけど、さらに高尾くんを笑わせるだけだった。
「ははっ……いやぁホントかわいーわ」
「え、……何が?」
「何が、って……え、君がなんなの。天然?」
正直なところよく解らなかったが、なんとなく馬鹿にされている気がしたので
「天然じゃないよ!」とだけ言い返しておいた。
「んでさ、結局名前は呼ばないわけ?」
「え、あ、えーっと……」
呼ばない、ではなく「呼べない」というほうが正しいんですけど……!
「あ、あの、……ほら!
やっぱもう少し仲良くなったらのほうが、呼びやすいし!」
苦し紛れで言ったこと、きっと高尾くんにはバレていると思う。
「ふーん?
じゃ、君が『仲良くなったな』と思ったら呼んでよ」
だけど高尾くんは、あたしの言葉に乗っかるようにそんなことを言った。
緑間くんに対する接し方もそうだけど、高尾くんってほんと優し……
「けど、オレは先に呼ばせてもらうからさ……ちゃん♪」
「……!!」
ふいに距離を詰められ、そう言われた。
高尾くんは余裕の笑みを浮かべていて、
からかわれていることは解ったけれど……
あまりの距離の近さに、慌てずにはいられなかった。
――なんてゆうか、優しいのに意地悪だこの人……!
やっぱ君かわいーわマジで
(そんなことを言うから さらに慌てるしかなかった)
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第8Qは高尾でした!
もちろん今でも大好きですが、これを書いた当初は
高尾が好きすぎてどうしようかと思ったくらいでした。
あと、「和成くん」って呼びたいだけですね(笑)
いや、だって、名前かっこよすぎますもん。