「やっぱ君かわいーわマジで」
「な、な……!」
何を言ってるのか、この人は!
黄瀬くんと違って確信犯だから、余計タチ悪いし……
と、とにかく、さっさと離れてもらわないと……!
「うおおっ!?」
そう思った直後……
目の前を、何かがものすごいスピードで横切った。
……ちなみに悲鳴を上げたのはすぐそばに居た高尾くんで、
彼はその「何か」をギリギリで避けたようだ。
「ちょっ……真ちゃん、危ねーだろ!」
「手が滑ったのだよ」
「手が滑ったレベルじゃねーだろ、どー考えても!!」
どー考えても思いっきしボール投げつけてきただろ!
高尾くんの言葉を受けて、「何か」が向かった先を見てみる。
すると、確かにボールが転がっていたのだった。
「……すまないのだよ、。怪我はないか」
ボールを拾いに行った緑間くんが、
こちらに戻ってきて声を掛けてくれる。
「う、うん……あたしは大丈夫」
それより、危なかったのは高尾くんなんじゃ……?
そう思ったんだけれど……
緑間くんは完全に高尾くんを無視しているので、
あえて口にしないほうがいいのかも、と思い黙っていることにした。
「あーあー、せっかくちゃんのかわいー姿を見てたのにさ〜」
「そうやって意地の悪いことをしていたから、天命が下ったのだよ」
「天命って……どー考えたって真ちゃんの仕業だろ!!」
「オレは知らん」
あ、そっか……
もしかして緑間くん、あたしが困ってたから助けてくれたのかな?
気難しいとか近寄りがたいとかいうイメージだったけれど、
意外と優しいのかも……。
そう思ったあたしは、自然と笑顔になっていた。
「ありがとう、緑間くん!」
「……何のことなのだよ」
「ううん、なんでもない」
ぷいっと顔をそむけてしまったので、
心の中だけでもう一度お礼を言っておいた。
「んじゃとにかく、体育館に戻りますかー」
「ああ」
「あ、……そうだね」
確かに、いつの間にか緑間くんも帰り支度をしていた。
その様子を見て「練習を切り上げる」と高尾くんも察したのだろう。
やっぱり、なんてゆうか……
視野が広いだけあって、色々と気づく人だな。
「んー、どした?」
「え、いや、なんでもない!」
いつの間にか高尾くんのことを見ていたみたいだけど、
からかいのネタにされても困るのでさっさと目をそらす。
「てか、結局カントクに連絡入れてないし……」
なるべく早く戻らないとね……。
「……――あっ、戻ってきたわ! さん!!」
体育館に戻ると、外でみんなが待ってくれていた。
「カントク! みんな!」
駆け寄ってくるカントクに向かって、あたしも走り出す。
「さん、大丈夫だった? 変なことされてない?」
「大丈夫だよ。シュートの練習してるのを見てただけだし」
無事で良かったわ、と、
カントクが心底ほっとしたような顔で言った。
「でも、何も連絡しないでごめんね」
ケータイがあったことに気づいたのが、ついさっきだったから。
そう言うと、こわばっていた顔を少しゆるめてカントクが返す。
「もう、さんったら……」
でも本当、ちゃんと戻ってきてくれて良かったわ。
「無事じゃなかったら、緑間と高尾はあの世逝きだったろーな」
「「……!?」」
火神くんがぼそっとつぶやいた言葉に、
緑間くんと高尾くんは震え上がっていた……。
「それにしてもみんな、わざわざ外で待っててくれたんだね」
中で待っててくれれば良かったのに、と言うと、
そうしたかったのは山々なんですが、と黒子くんが返す。
「午後からここを使う秀徳の人たちが、来てしまっていたので」
だから練習を切り上げ、体育館の外で待っていたのだという。
「つーことは何? 先輩ら来てんの?」
「どうやらそのようだな」
そんなことを言い合いながら、ふたりは体育館に入っていった。
「さ、体育館も使えなくなったし……
とりあえず、いったん旅館に戻るわよ!」
戻ってお昼を食べたあとは、外でトレーニングをするらしい。
そう言ったカントクの声に従い、みんながぞろぞろと歩き出す。
「……さん?」
けど、あたしは体育館のほうを見たまま動かなかった。
それに気づいた黒子くんが、声を掛けてくる。
「ごめん……すぐ追いつくから、先に行ってて!」
「あ、さん――」
一方的に言うだけ言って、
あたしは体育館の入り口に向かって走り出した。
「あ、あの!」
入り口のところで声を掛けると、秀徳の面々が一斉に振り向いた。
そのことで一瞬たじろいでしまったが、
あたしに気づいた緑間くんと高尾くんが戻ってきてくれる。
「どうしたのだよ」
「なんか忘れもん?」
そうじゃない、とあたしは答える。
「えーと、その……これから練習、なんだよね?」
「決まってんじゃんかー」
何言ってんのちゃんは〜、と、高尾くんが面白そうに言った。
そりゃそうだよね、と思いつつ、あたしは緑間くんのほうに向き直る。
「あの、緑間くん」
「何だ」
「その……ラッキーアイテム、無くて大丈夫なの?」
今日のラッキーアイテム……もといラッキーパーソンは、
他校のマネージャーだと言っていた。
そして、それ=あたしと思ったからこそ、
彼はあたしを連れてシュートの練習をしに行ったのだ。
……でも、本格的にチームで練習するのは今から。
そんなときにラッキーアイテムが無ければ、困るのではないだろうか。
あたしは、それがちょっと気がかりだった。
「確かに、ラッキーアイテムが無いのでは話にならん」
「やっぱり……」
「だが、これ以上お前を連れ回すわけにもいかないのだよ」
お前らのカントクが許さないだろうから、と、緑間くんは続ける。
だけどやっぱり「人事を尽くせない」と思っているのか、表情は険しい。
「あの……だったら、これ」
そんな彼に、あたしはポケットの中にあったケータイを差し出した。
「これは……」
「あたしのケータイ。
ラッキーアイテムの代わりにはならないかもだけど……
無いよりはいいだろうから」
もし良かったら、貸すけれど。
「……いいのか?」
「うん。今あたしが持っているのは、これしかないし」
それに、緑間くんならば、変なことには使わないと思うんだ。
そう言うと、また一瞬驚いたような顔をしたあと
「すまない」と言ってケータイを受け取った。
「後で必ず返すのだよ」
「うん」
「……え? つーか何あの子? 緑間の彼女?」
「あははー、合宿先に女連れてくるとかブッ殺ス」
「どういうことなんだ、高尾」
「いや、それがー……」
「……――誠凛のマネージャー?」
「そうなんすよ。
で、あの子が今日のラッキーアイテムだったとかで」
「なんだよ、そーゆーことかよ」
「つまんねーな〜〜」
「……って、ごめんね、乱入しちゃって!
いつまでもここに居たら、練習の邪魔だよね」
「そんなことはないが……早く戻ったほうがいい。
誠凛の奴らが心配するのだよ」
「うん、そうする。ありがとう、緑間くん」
「礼を言うのはオレの方だ。
これはありがたく借りるのだよ」
そうしてあたしのケータイを持った緑間くんは、
体育館の奥へ行ってしまった。
「あたしも戻らないと……」
「ちゃん、またなー!」
「あ、うん、またね!」
いつの間にか向こうのほうに居た高尾くんが声を掛けてくれたので、
それに答えてあたしは今度こそ体育館をあとにした。
「良かったなー、真ちゃん♪」
「……うるさいのだよ」
「またまたー、そんなこと言っちゃって!」
「緑間! 高尾! 練習を始めるぞ!」
「ういっす!」
「はい」
「……あ、追いついた!」
そう言うと、集団の最後尾を歩く黒子くんが気づいてくれた。
「お帰りなさい、さん」
「あ、うん……ただいま!」
まさかそんな風に返されるとは思わなかったので、
一瞬戸惑ってしまった。
でも、……なんだか同じチームに居るんだと実感できて嬉しいな。
「各自いったん部屋に荷物を置いてきて、食堂に集合!
お昼を食べたら午後はトレーニングよ!」
あたしも、午後からもっとがんばらないとね!
少しでも、みんなの力になれるように
(出来ることを 精一杯がんばろうと思った)
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第9Qは若干(?)緑間寄りでした!
今までのパターンだと次のキャラに行くところですが、
あまりにも間をすっ飛ばしすぎる感じになりそうな
そんな気がしてきたので、間に入れてみたお話。
ここも、のちの伏線にしたいのですが、
それをうまいこと表現できるかは、また別な気が…。