『ごめん、あたし……引っ越すことになったの』

『はぁ!? なんで突然……』

『お父さんの仕事の都合だって……』

『……そうかよ』


本当はあのとき、君を引き止めたかったんだ――……
















「獄寺は休みなんだな」

「うん……今朝は俺んちにも来てなくてさ」

「もしかして、あいつ……」

「たぶんね。
 ちゃんが、転校したからだと思う……」















「くそ……」


オレにもっと力があったら、
をそばに置いておけたかもしんねぇのに……





「っ……」


ホントに情けねぇよな……
泣くことしか出来ないなんて。


そう考えていたとき、
ふいに、部屋のドアをノックする音が聞こえた。





「……こんな時に誰だよ」


誰かに会えるような顔じゃねぇのに……。

そう思ったものの、なんでか無視する気になれなくて。










「…………誰だ?」


しょうがねぇから、ドア越しに声を掛けてみる。





「ハロー! こんにちは!
 名乗るほど大した名前じゃないんだけどね〜
 誰かさんは『ラフ・メイカー』って呼んでるよ!」

「はぁ?」


誰かさんって誰だよ。

だいたい、「ハロー」と「こんにちは」って同じ意味だぞ?
2回繰り返してんじゃねーか。





「……で? 
 その『ラフ・メイカー』がオレに何の用だよ」


あいつの……
の声に似てるなんて、そんなことあるはずねぇ。

あいつは今頃、飛行機の中にいるはずだ……。










「泣いているアンタに笑顔を持ってきたよ」

「はあ?」


何言ってんだよ、こいつ……。





「とりあえず、寒いから入れてくれない?」


誰かお前みたいな怪しいやつ入れるかよ。
声があいつに似てるから、余計にムカつくし……





「…………」


ラフ・メイカーなんて冗談じゃねぇ……
そんなもん呼んだ覚えはねぇぞ。





「オレに構わず、さっさと消えろ」


そこに居られたら、泣けないだろうが……。














……それから少しして。

ラフ・メイカーと名乗ったやつの、声が聞こえなくなった。





「……どうやら、行ったみたいだな」


何だったんだ……

よく分かんねぇけど、これで静かになった。
そう、思ったのに。

大洪水の部屋に、再びノックの音が響く。




「あいつ……」


まだ居やがったのかよ……!










「おい……消えてくれって言っただろうが」


人の話、聞いてたのかよ。





「そんなこと言われたの……生まれて初めてだよ」

「だから何だ」

「非常に悲しくなってきました……
 どうしよう、泣きそう……」

「はぁ?」


おい、冗談だろ? 
アンタが泣いてちゃしょうがねぇよ!

泣きたいのはオレの方だってのに……





「こんなもん、マジで呼んだ覚えはねぇよ……」


それからしばらく、二人分の泣き声が響いた。















「ひっく、ぐすっ……」

「っく……」


ドアを挟んで、背中合わせ……
オレもあいつも、相変わらず泣いていた。

しゃっくり交じりの泣き声で、膝を抱えて。





「……はあ」


なんか疲れてきたな……。





「……おい、ラフ・メイカー」

「何……?」

「今でもオレを笑わせるつもりか?」

「……『ラフ・メイカー』はそれだけが生きがいなの。
 笑わせないと、帰れないよ……」


そうかよ。










「なあ……
 今では少し、アンタを部屋に入れてもいいと思ってる」

「……」

「だけど、困ったことにドアが開かねぇんだよ」


溜まった涙の水圧、か。





「そっちでドアを押してくれねぇか?」

「……」

「カギなら既に開けたからよ」


なんで黙ってんだ……?
ウンとかスンと言えよ。





「おい、どうした……?」


まさかあいつ……!

オレは慌てて立ち上がり、ドアに手を掛ける。

さっきまでびくともしないと思ってたのに、
今になって何故か、それはすんなりと開いた。





「誰もいない……」


冗談じゃねぇ!

あいつ、今さらオレ一人置いて
構わず消えやがった……!





「信じた瞬間、裏切りやがって……」


ラフ・メイカーのやつ、マジで冗談じゃねぇぞ!

そう思った直後……
向こうの窓が、思いきり割れる音がした。





「なんだ……!?」


とりあえずドアを閉めて、音のした方へ向かう。
すると、そこには……










「ラフ・メイカー、参上!
 アンタに笑顔を持ってきたよ」


そこには、鉄パイプを持った泣き顔のが立っていた。





「お前……なんでここに……!?」

「隼人、これ見てみ?」


はオレの質問には答えず、
ポケットから小さな鏡を取り出した。

そして、それをオレにつきつけて……





「『アンタの泣き顔、笑えるぞ?』」


こう言った。





「何言ってんだよ、ったく……」


オレはそんなの言葉に呆れたけれど、
なるほど……これは確かに笑えた。




















ラフ・メイカー


(今度はオレが お前を笑わせるか)















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ずっと書きたかった「ラフ・メイカー」ネタでした。
これはかなり歌詞通りに書いてしまったので、なんか……
ちょっと、こんな言い回しするかな?
っていうのはあるかもしれないですね。

いや、ほんと……修正を加えつつ読み返しても、
そのまんますぎでビックリしました;
本当に楽曲が大好きで、尊敬を意を込めて書いていますので
そちらはご理解いただけますと幸いです。

それにしても……
ちゃんは知ってたんですね、「ラフ・メイカー」……。