あなたは今、どこにいるの?

私はずっと、待ってるんですよ――……















〜!
 お父さんとお母さん、出掛けてくるわね〜」

「はーい」


今日は12月25日、クリスマス。

恋人や友達と出掛ける人が多い日だけど、
何の予定もない私は、未だ布団にくるまったまま。





『せっかくだから、二人で出かけてきたら?』


お父さんとお母さんにそう言ったのは、
他でもない私なんだけど……





「……いいなぁ」


でも、私が一緒にクリスマスを過ごしたかった人は……

ある日突然、いなくなってしまったのだ。





「どこに行っちゃったんだろう……」


骸さん……

あなたに、会いたいです……





「むくろ、さん……」


その人を思い浮かべて、目を閉じる。

私はそのまま、まどろみの中に沈んでいった。




















――……


――――…………





「……?」


何?

誰かが私を……呼んでる?










「起きてください、

「……!」


その声に気づき、私は勢いよく起き上がる。





「骸さん!?」

「やっと起きてくれましたか」

「なんでここに……」

「あなたに会いたくて、来てしまいました」

「……」


それならもっと、早く会いにきてほしかった……。










「……遅くなってしまいましたね」

「いえ……もう、いいんです」


だって、こうやって来てくれたんだもの。





、これから出掛けませんか?」

「え?」

「せっかくのクリスマスなんですから」

「は、はい!」


骸さんと一緒にお出掛けできるんだ……
すごく嬉しい。

急いで出掛ける支度をしないと……!















「お待たせしました!」

「いえ、そこまで待ってないですよ」


思ったより準備に時間がかかってしまったけれど、
骸さんは笑顔のままだ。

少し、ホッとしてしまった。





「では、行きましょうか」


そう言った骸さんは、自然な動きで私の手を取る。





「……」


こうやって手を繋いでもらうのも、
本当に久しぶりだな。

やっぱりこうしていると、すごく安心する……










「どうかしましたか?」

「えっ、あの……なんでもないです!」

「クフフ……あなたは本当に可愛い人ですね」

「……!」


からかわれていることには気づいたけれど、
言い返すのはやめてこう。

――せっかく会えたんだから、今日は楽しく過ごしたいし。

そう思い直して、繋いだ手に少しだけ力を込めた。















「わあ……!」


綺麗なイルミネーション!





「さすがクリスマスですね」

「はい!」

「クフフ……その笑顔が見れて良かった」


ここへ来て正解でしたね。

そう言って、骸さんはまた笑った。





「……」


笑ったと言っても、本当に微かにって感じんだけど……
でも、なんでかこの笑顔が、私は大好きなんだよね。





「…………」


このお出掛けが終わって、家に帰ったら……
また会えなくなるかな。

この笑顔も、また見れなくなっちゃうのかな……










「……どうかしましたか?」

「あ、いえ! なんでもないです」


私は骸さんに気づかれないように、努めて明るく見せた。

――せっかく一緒にお出掛けしてるんだもん。
今は、暗いことは考えないようにしないと。










「……ああ、そうです、
 何かほしい物はありませんか?」

「ほしいもの、ですか?」

「クリスマスプレゼントに、と思いまして。
 何かほしいものがあるのなら」

「いいんですか!?」

「ええ」


わあ、何にしよう?





「クフフ……何でもいいですよ」


きょろきょろして回りのお店を物色する私を、
どこか楽しそうに見ている骸さん。





「どうしようかな……」


あんまり高いものだと申し訳ないし……


……あっ!









「決まりました!」

「そうですか。
 それで、何にしましょう?」

「あれをお願いしたいんですが……」


私の指差す方向にあったのは、
雑貨屋さんのディスプレイに飾られたリングだった。





「……なるほど」


シンプルなシルバーのリングに、
赤と青の装飾が施されている。

この色は……骸さんの、瞳の色だ。





「では、さっそく買ってきましょう」

「えっ……ホントにいいんですか?」

「もちろん」


なぜか機嫌の良さそうな骸さんと一緒に、
その雑貨屋さんへと入っていく。

私が少し離れたところで待っている間に、
お会計を済ませてきてくれた。










「お待たせしました……さあ、どうぞ」

「ありがとうございます!」


ラッピングもかわいい……





「綺麗に包んではもらいましたが……
 せっかくですから、付けてみてください」

「え?」

「嫌ですか?」

「い、いえ!」


でも、なんとなく照れるような……










「では、ちょっと貸してもらえますか?」

「は、はい」


骸さんはそのラッピングを丁寧にほどいていく。

そして、買ったばかりのそのリングを、
そっと私の指にはめてくれた……

私の、左手の薬指に。





「よく似合っています。
 やはり君はセンスがいい」

「あ、ありがとうございます……」


私は、もごもごとお礼を言いながら
リングのはめられた薬指をじっと見つめる。





「おや、ここではなかったですか?」

「い、いえ!
 ここで……大丈夫です」

「それは良かった。
 さあ、そろそろ行きましょう」

「はいっ!」




















「骸さん、今日はありがとうございました」

「いえ、僕もとても楽しかったですよ」


出掛けた時間が遅いこともあって、
あれからまもなく私たちは帰路に着いた。





「それでは、また」

「はい」

「体調には気をつけてくださいね」

「はい、骸さんも」


――今度はいつ会えるんですか?

そう聞きたかったのをぐっと我慢した私は、
骸さんの後ろ姿が見えなくなるまでその場から動かなかった。























「……ん?」


もしかして、私……今までずっと寝てたの?





「それじゃあ、今までのは全部……夢?」


せっかく会えたと思ったのに……





「骸さん……」


その名を呟いたとき……
指に何か違和感があることに気づく。










「これって……!」



『お待たせしました……さあ、どうぞ』



骸さんが買ってくれたリングだ!










「夢じゃ……なかった」


骸さんに会えたのは、夢なんかじゃなかった。
このリングが、何よりの証拠だ。





「骸さん……」


――久しぶりに会えて、すごく嬉しかったです。

そう小さく呟いて泣きそうになったけれど、
なんとなく今ここで泣いてはいけない気がして。





「……!」


だけど、机の上に置いてあったメモを見つけて
私はもう涙をこらえることができなくなってしまった。












何も言わず、突然姿を消してしまい……
そして、zyっと連絡ができず本当にすみませんでした。

詳しい事情は話せませんが、僕は今
自由に動くことのできない場所にいます。

……僕は、あなたのことを忘れた日は無かった。
どうにかしてあなたに連絡を取りたかったのですが、
全てを取り上げられた僕にはそれさえも難しく……

今日やっと、会いに行くことができたのです。


あなたはこんな僕のことなど、
忘れてしまっていると思っていましたが……

あなたは、ずっと待っていてくれたのですね。
それがとても嬉しかったですよ。


きっと、もう少し待っていてもらうことになるでしょう。
こんな僕ですが、あなたは待っていてくれますか?

いえ……できれば、待っていてほしいと思います。


また必ず、あなたの元へ。

愛してますよ、……”









「骸さん……私はずっと、待っています……」




















聖なる夜に、強く誓った。


(ここに居ないその人へ届くように、強く。)




















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どの時間軸なのかは曖昧なまま書いた覚えがあります。
黒曜編のあとに居なくなった、という設定では
あるかと思うのですが。

この話の骸さんだけ骸さんっぽくなかったので、
口調とかいろいろ変えてみました。
前よりはいくらか近づいたと思うのですが、
どこか違和感……もっと精進します。