自動ドアが、無機質な音を立てて開いた。

そこから出てきたのは、
オレがこの寒い中ずっと待っていた奴で。





「ったく、遅せぇよ」

「え、ちょ……隼人!?」

「……何だよ」

「いや、なんでここに!?」


こいつは今までバイトだった。

店の前で待っていた俺を見て、ひどく驚いている。





「なんでって……迎えに来たんだろ」


そう、俺たちは……
特に待ち合わせなどしていなかったのだ。





「来ちゃ悪かったか」

「いや、悪くはないよ……
 むしろ、嬉しいな」

「……そうかよ」


笑顔でそう言ったこいつは、オレには眩しい。

赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、
さっさと歩き出した。





「あ、ちょっと待って!」

「……寒いからさっさと帰るぞ」

「じゃあ迎えに来なければいいのに、もう〜」


最もなことを言われる。

――まあ、確かにそうだな。

だけど、仕方ねぇだろ。
急に、会いたくなっちまったんだから……










『はあ〜、明日も明後日もバイトかー』

『連日バイトなんて、いつものことじゃねぇか』

『いつもと全然違う! 
 だって、クリスマスとイヴだよ!?』


そんな素敵な日に、両日ともバイトだなんて
なんかあたしが可哀想な人みたいで嫌だし!

けど、散々文句を言いながらも
こいつは必ずバイトに行くんだ。

サボったり、急に休むなんてことは絶対にしない。





『だって、任せてもらってるんだから。
 その信頼には応えたいよね』

そういう芯の通った考え方も、
オレがこいつに惹かれた理由の一つなんだろう。





『まあ……ほどほどに頑張れよ』

『うん!』



オレはクリスマスだなんて興味なかったし、
バイトがあるこいつと、わざわざ出掛けるつもりもなかった。

だけど……


クリスマスもイヴもバイトだと言ったときの、
こいつの顔を思い出したら。

居てもたってもいられなくなって、
こうしてバイト先にまで迎えに来てしまったわけだ。










「それにしても、本当に寒いね〜〜」

「そりゃあ冬だしな」


ましてや、今は夜の10時過ぎ。
真冬のこんな時間では、寒いのも無理はない。





「……!」


なんとなくこいつ手を見ると、寒さのせいで赤くなっていた。

――バカか。
手袋くらいして来いよ。


だけど、今だけは……

こいつが手袋を忘れてくれて、
そして、冬が寒くて本当に良かったと思った。





「……!」


オレは、何も言わずにこいつの冷えた左手を、
自分の右ポケットにつっこんだ。

突然のことだったから驚いたようで、
オレの方をまじまじと見ている。





「……こうすれば、少しはマシだろ」

「う、うん……!」


そう言ってこいつはまた、嬉しそうに笑う。


いつもだったら、こんな恥ずかしいこと出来ねぇけど。

だけど、今日は……
なんとなく、気が向いたから。


「冬が寒い」というのも、この上ない程の理由になったしな。










「せっかくなんだから、雪が降ればいいのにね」

「そんな思い通りにはいかねぇよ」

「それもそうだけどさ〜」


少し不貞腐れながら、
その辺に散っている落ち葉を蹴飛ばす。





「何やってんだ、また転ぶぞ」

「ふふっ、大丈夫だよ〜」


ったく、何で怒ってるのに
そんなに楽しそうなんだよ……。


だけど、彼女の嬉しそうな顔を見ていると、
それ以上怒る気も失せて。

――思ったよりは、元気そうだな。


迎えに来て正解だった。





「あっ、そういえばさ……
 今日バイトでビックリしたことがあって」


そんな、何でもない話をしながら、
オレたちは家まで続く道を歩いてゆく。










「……あっ!」

唐突に、が走り出した。





「お、おい!」


不意を突かれ出遅れてしまったが、
オレも慌てて後を追う。





「見て、隼人! 
 すごーい、大きなクリスマスツリー!」

「確かにデカいな……」


リアクションがオーバー気味なこいつだけど、
確かに感動するくらいの大きさはあった。





「ライトアップもされてて、綺麗だね」

「そうだな……」


しばらく、二人でそのツリーに見とれていた。

話をすることもなく、ただ、黙って。











「…………」


……だが、時計を見ると既に11時。

さすがにこいつを家に帰さないとまずいと思い、
オレは何も言わずに歩き出した。





「ちょっと隼人、待ってよ〜!」


それに気づいたこいつは、オレを引き止め……

名残惜しそうにもう一度ツリーを見、
そして駆け寄ってきた。





「いい加減帰らねぇと、明日寝坊するだろ」

「大丈夫だよ、もう冬休みだからね」

「バイトだよ、バイト」

「バイトは夕方からだから大丈夫!」


そう言って遅刻するところを、オレは数回目撃している。

別に遅刻魔ってわけじゃねぇんだけど……
寝不足だとそのまま寝坊する傾向があるんだよな。










「はあ〜……
 でも本当に綺麗だったなぁ、あのツリー」


そう言いながら、はオレの後をついてくる。


――こいつと歩くには、少しコツがいる。

こいつの歩幅は狭いから……
オレが普通に歩いていたのでは、小走りになってしまう。





「…………」


だから、出来るだけ時間をかけて、
オレは景色を見ておくんだ。

振り返るとこいつがいる、この景色を、いつも。





「ねー、隼人」

「なんだよ」

「あたし、クリスマスのバイトなんて
 嫌だーって言ってたけどさ」


隼人が迎えに来てくれて……
一緒にツリーも見れたから、まあいっかって思えよ。





「……明日も見れるだろうが」

「えっ……明日も迎えに来てくれるの!?」

「まあ……そういう事だ」

「ありがとう、隼人!
 あたし、もうそれだけで十分だなぁ」


オレにとっては、お前のその言葉だけで十分なんだ。




















スノースマイル〜ringing version〜


(特別なことは無くても、君さえいれば それだけで)















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クリスマス夢でした。
この頃はバイトの話ばっかり書いていたみたいなので、
よほどバイト後の帰宅時間がつまんなかったんだろうなぁと。

バンプの「スノースマイル」イメージですね。
でもこの曲は悲恋ぽいので、微妙に沿わせている感じです。

やはり冬はこの曲だなって思いますね。
獄寺くんはバンプの曲が似合うので、たくさん書きたくなります。