8月のある夜。

相変わらず朝から暑くて、
普段我慢している冷房もフル稼働していた。

ただ、寝るときは体に悪いだろうってことで、
いつも冷房を消して扇風機で我慢していたから。

この日も同じようにして眠りについた。









「……暑い」


およそ2時間後。

冷房を消した部屋は、また蒸し暑くなってしまい……

そんな中でぐっすり眠れるはずもなく、
すぐに目が覚めてしまった。





「って言うより、無理やり起こされた感じだけど」


窓も全開だというのにこの暑さだ。
やっていけない。

私が一人暮らしをしているこのアパートは、
窓が一つしかなくて風通りも悪く……

仮に外が涼しくても室内は暑い、
という状態になってしまう。





「ちょっと、外で涼んでくるかな……」


現在、夜中の3時。

熱帯夜だとしても、この部屋の中よりは涼しいだろう。

そう思って、しばらく外を散歩することにした。





「一人だと危ないかな? 
 でもまぁ、こんな時間だし……」


逆に、誰もいないから大丈夫だろう。

早くこの暑さから抜け出したくて、
私は早足で部屋を出た。











「やっぱ外の方がいくらかマシだな……」


あの蒸し暑い部屋に比べたら天国のようだ……
というのは言いすぎか。

でも、気持ち的にはそんな感じだ。





「……ま、こんな時間だしね」


辺りには誰もいない。

私が立っているこの道にも、もちろん私しかいなくて。





「…………」


前を見る。後ろを見る。

でも、誰もいない。










「……まさか、」


まさか寂しいだなんて、そんな。

一人暮らしを始めて、もう1年以上経っている。
それなのに、今さら……





「…………」


夏は夜が早く明ける。

とは言っても、まだ3時では当たり前に真っ暗だ。
そんな中を、私は一人で立っている。





「誰か……」


誰か、来て……


無意識に、そんな事を言った。















「来たよ」





「え……?」


唐突に、声が聞こえた。
後ろのほうから、私以外の声が。










「君、こんな時間にこんな所で何してるの」

「恭弥……」


振り返った先に居たのは、恭弥だった。


恭弥とは、去年たまたま知り合った。

それまで全く面識は無かったけれど、
なんとなく一緒にいて話すようになった。





「なんで、……」

「なんとなく予感がしたんだよ」

「予感?」

「そう。君が寂しがってる予感」


寂しがってる? 
私が……?





「そんな、今さら……1年以上経ったのに」

「だからだよ」

「え?」

「1年目は、そんなこと考える余裕もなかったんでしょ」


だけど2年目になって少し余裕が出来て、
色々と考えられるようになったから。

――だから、寂しさを感じるようになったんだよ。

恭弥はそう言った。










「…………そっか」


去年の私は、いっぱいいっぱいだったんだ。





『一人暮らしっていいよね。自由って感じで』


そう言っていた人も少なからず居た。
でも、それと引き換えに無くなったものもたくさんある。

家族はいない。一人なんだ。
たった一人、ここで暮らしている……










「寂しいなら、」

「……?」

「僕を呼べばいいよ」

「……!」


僕を呼べばいい、って……





「なんで……」


どうして恭弥は、そんなに優しいの……?





「君のことが、大切だから」

「っ……」


――ああ、この人はいつもそうだ。

いつも、私の心を簡単に読んでしまう。

特に読まれたくないことを、
いとも簡単に読んでしまうのだ。





「大切って、」

「なに? 分からないの?」

「…………わかんないよ」


私は馬鹿じゃない。
何も考えられないほど、若くもない。

色々と、予想だって出来るよ。
だけど、そんな……

そんな都合のいいことが、あるはずがない……










「君が好き、ってこと」


本当に……?





「君のことが好きだから、寂しかったらすぐに行く。
 だから、僕のこと頼ってよ」


もっと、と恭弥は続けた。





「恭弥……」


――そうか、私は一人じゃなかったんだね。


ここに住んでるのは、確かに私一人だ。
私しか居ない。

だけど、望めばそばにいてくれる人がいた。
気づいてなかった……いや、気づけなかっただけだ。





「……ねえ、夜中でもきてくれる?」

「うん」

「忙しくても?」

「うん」

「嵐の中でも?」

「うん」


その言葉に偽りがないことは、目を見ればすぐに分かった。










「……ごめん、嘘。
 たまに呼ぶから、そのときだけでも……」


私だって、毎日寂しいわけじゃないんだよ。

ただ。たまに。
そう思ってしまうだけで。


だから、そのときだけでも……





「私のところに来て……恭弥……」


恭弥は、私を抱きしめて言った。



――どんなときでもすぐに行くよ。

だから安心して頼って、





「ありがとう……恭弥……」



















その声が本当に優しくて


(私は自然と 涙を流したんだ)















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自分が一人暮らししていたときに書いたものです。
どうやら変換が無い話だったらしいので、
最後に一個だけ入れてみました。

あえて変換を入れないパターンもたまにやりますが
このお話は一か所くらいほしいかなと。