「……も、もしもし、ですけど!」

夕ご飯を食べた後……
頃合いを見計らって電話を掛けると、間を空けずして相手が出る。

思っていたより早く繋がったことに驚いてしまい、どもってしまったけど……
そのことで彼が笑いをこらえているのが電話越しに解り、かなり恥ずかしかった。





「あ、あの!
 真太郎くんに、聞きたいことがあるんだけど……」

「聞きたいこと?」

「うん」

いつまでも恥ずかしがっていても仕方がないと思い、あたしは本題に入る。
単刀直入に切り出すと、案の定彼は不思議そうにした。





「えーと、その……
 今度の日曜日は部活がお休みって聞いたんだけど……空いてるかな?」

「日曜は……ああ、大丈夫だ、何も予定は無いのだよ。
 だが、部活が無いなんてよく知っていたな」

真太郎くんは自分からそう聞いてきたものの、すぐに理由が解ったようだ。
小さな声で「そうか……」と独り言のように言った。










「…………高尾だな」

「うん…ご名答です」



  
 『あっ、もしもしちゃん? オレ!』

   『高尾くん、お疲れさま。
    急に電話なんてどうしたの?』

   それは、ついさっき……
   部活が終わった後らしい高尾くんから、まずメールが入ってきた。



     “ちゃーん!
      ちょっと話があるから、電話してもいい〜?”


   そんないつもの内容のメール対し「了解」の返信をした後
   かかってきたのがその電話なのだ。

   内容としては、「今度の日曜部活が休みになったから、真ちゃんを誘って出かけたら?」
   ……ということだった。










「全く……
 アイツはオレの知らぬ間に、お前と電話やメールをしていることが多いな」

今度、一度注意してやらねば。
少し怒った様子で言う彼が、なんだか微笑ましかった。










「……すまない、話の腰を折ってしまったな」

「ううん、大丈夫だよ」

黙り込んだあたしを気遣ってくれたのか、そんなことを言う。
そうやって言葉を掛けてくれるということが、あたしはいつも嬉しかった。





「それで、日曜はどこかへ出かけるのか?」

「うん、まあ、そのつもりなんだけど……
 まだ場所は決めてないの」

真太郎くん、行きたいところある?

そう問いかけると、「特にない」と即答されてしまう。





「え、えーっと……どこでもいいんだよ?
 何か買い物したいものがあれば、そこに行ったりとか」

「いや、特に済ませなければならない用は無いな」

うーん……

出かけたい場所をさりげな〜く聞き出せそうかなと思ったんだけど……
これはけっこう難題かもしれない。










「オレよりも、お前が行きたい場所で構わないのだよ」

「え?」

「お前が行きたい場所は無いのか?」

いや、それは……
一緒に出かけたい場所ならいくらでもあるけど、今回はそれじゃダメっていうか……

だってそれじゃ、真太郎くんの誕生祝いにならないよ。


……いや、確かに去年は成り行きであたしの行きたい場所に行ったけど。
今年こそは、真太郎くんの希望を叶えてあげたいし……。





「……? どうしたのだよ?」

「…………」

でも……
あたしが遠回しに聞き出そうとして、成功するとも思えないな。

あんまりやりたくなったけれど、ここはもうネタばらしをして聞いちゃおう……。










「真太郎くん、あの……」

「何だ?」

「日曜日って、6日でしょ?
 一日前だけど、真太郎くんのお誕生日をお祝いしようと思って」

だから、行きたい場所はあなたに決めてもらいたかった。

そこまで言ったら、彼はあたしの考えをおおよそ理解してくれたらしい。
「そういうことならば行きたい場所があるのだよ」と言った。





「図書館なのだが」

「図書館?」

「ああ。
 宿題に関することで、調べたいことがあってな」

その宿題自体はおおよそ終わってるんだけど、
しっかり確認する意味で調べたいということらしい。

人事を尽くすことが信条の、彼らしい考えだと思った。










「構わないか?」

「うん、もちろん!」

あたしも図書館けっこう好きだしね。





「では、そうだな……
 6日の10時頃、迎えに行くのだよ」

「うん!」

じゃあまた日曜日に、と言って、あたしは電話を切った。










「……そうだ、プレゼントも用意しておかないと」

楽しみだな――……






























「この辺りにするか」

「うん」

日曜日になって……
迎えに来てくれた真太郎くんと一緒に、あたしは図書館に来ていた。

使いたい本を探し出した彼は、手近にある席に座る。





「オレはここで、例の調べものをするのだよ」

「解った。
 じゃああたしも、何か適当に読んでるね」

そう言って、あたしはいったん席を離れる。










「うーん……」

何か文庫本を読んでてもいいんだけど……
途中で帰ることになったら、続きが気になっちゃいそうだしね。

となると……





「やっぱり、あたしが好きなのって言ったら日本史か日本文学……」

そう言いながら、ひとまず日本史関係の本が置いてある通路へ行ってみる。





「……あ! これおもしろそう」

よし、これにしよう。

そう思いつつ、あたしは席に戻った。















「…………」

「……」

席に戻ると、真太郎くんが(かなり)調べものに集中していた。
あたしが戻ってきたのも気づいているか怪しいくらいだけど……

でも、彼らしいな…なんて思ったりもする。





「よし……」

あたしも取ってきた本を読んでみよう!




















「…………あ、」

この記述はおもしろいかも!

純粋に歴史が好きなわけだけど、こういう裏話みたいのも好きなんだよね……
よし、メモっておこう。




「えーと……」

確か、メモ帳を持ってきてたはず……
……あ、あった!





「うん、なるほど……」

そうつぶやきながら、あたしは本を読み進め
おもしろいと思ったところをメモしたりしていた。

























「そっか、それで……」

「…………」

「……?」

本を読み始めてから、しばらくして……

ふと視線を感じたので、向かい側に目を向けてみると。
真太郎くんが微笑んでこちらを見ていた。





「えっ……あれ!?
 真太郎くん、調べもの終わったの……?」

「ああ、つい先ほどな」

だったら声かけてくれればいいのに…!
慌ててそう言うと、彼はその表情のまま答える。





「お前が楽しそうに本を読んでいたからな……
 邪魔しては悪いかと思ったのだよ」

「そんな、邪魔なんて……」

でも、気を遣ってくれたんだよね……





「…………ありがとう、真太郎くん」

「いや、気にしなくていい。
 オレもお前の楽しそうな表情が見れて良かった」

「し、真太郎くん……」

その表情でその言葉は反則だよ……

そう思ったけど、口にはしないでおいた。















「でも、調べもの終わったならもう出ようか?」

「ああ、そうだな……
 そろそろ昼時だ。何か食べに行くか」

「うん!」

持ってきていた本を戻して、あたしたちは図書館を出た。










「しかし、日本史が好きだとは聞いていたが……
 あんなに熱中するほどとはな」

非難する感じではなく、ちょっと驚いたといった感じで彼は言った。





「えっと、うん、まあ…
 でも、全部の時代が好きってわけでもないんだけど」

近現代は苦手だしなぁ……。





「だが、今日は図書館に来て正解だったのだよ」

「……?」

言葉の意図が解らず、あたしは黙ったまま彼を見つめる。
すると、さっきみたいにまた微笑んで……










「お前の楽しそうに笑うところを、たくさん見ることが出来た。
 お前の笑顔が、オレにとっては最高のプレゼントだからな」

そう言ってくれたのだった。




















それはあたしも同じだよ



(あなたが微笑んでくれることが、あたしにとっても最高の――……)

























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 ただ緑間と一緒にゆっくり過ごしたいという私の願望です。
 そして今気づいたけど、緑間が名前呼んでない……!orz