本当にお前が物覚えが悪いな!」

「っ……」


そう言った男は、いつものように私に平手を食らわせる。





「全く、人をいらつかせることだけは一流だな。
 今日はこれで仕舞いにする!」


別に頼んでないじゃない。

そう思いながら、ズカズカと部屋を出ていく男を見つめる。





「……のん気に苛ついていられるのも今のうちよ」


そのうち「」はいなくなるのだから。















そして、その日の夜……

辺りが静まり返った時間に、彼はやって来た。





「……!」


突如、部屋の窓ガラスが割られる。





「どーも♪」


金髪の男――ヴァリアーのベルフェゴールが、
窓から私の部屋に侵入してきたのだ。










「何事だ、……
 ……!」


その直後、あの男が慌てて部屋に飛び込んでくる。





「何事もクソも無いんだよね〜。
 ちょっと依頼でさ」


おたくの娘、殺しにきたよ♪





「なっ……そんな事させてたまるか、
 せっかく手に入れた金づるだぞ!!」


そう言った男は、
所持していた拳銃でベルフェゴールを狙う。





「こんなもので殺せると思われたなんて、
 嫌になっちゃうよなぁ、ししっ」


だけど、ベルフェゴールは男の放つ銃弾を難なくかわして、
逆に自身のナイフで男を少しずつ追い詰めていく。





「ナイフと冠に、その装束……
 貴様、ヴァリアーのベルフェゴールか!!」

「お、よく分かったじゃん♪」


でも、分かったところでどうしようもないけどね。

そう言ったベルフェゴールは、
いとも簡単に男の動きを封じ……

壁にはりつけのようにしてみせた。










「さてと」

「ベルフェゴール、早く私を殺して!
 早く……早く私を……!」


振り返ったベルフェゴールのもとまで駆け寄り、
私は必死になってそう言った。

けど、しばらく無言になって……





「……やっぱりな」


そして、そう言った。





「えっ、やっぱりって……どういうこと?」

「お前、自分で依頼したんだろ」

「……!」


どうして、それを……。





「声で分かった。
 あんときは、声色を変えてたみたいだけど?」


声には出さなかったのだが、
私の考えていたことは聞きたいことが分かったらしい。

意外とすぐに答えてくれる。





「お前みたいな子どもが依頼とか、
 それ相当のワケがあると思ってさ」


少し調べさせてもらったよ。





「…………」


そうか……さすがヴァリアーだわ。

報酬さえ払えば何でもしてくれると思ってたけれど、
そういうわけでもないのね。





「なんかこのジジイ、最悪っぽいじゃん?」


どこか楽しそうに、ベルフェゴールが言う。





「……そうよ、この男は本当に最悪なの」


だから、早く私を殺して。










「まあ、そんな慌てんなって。
 それより先に一つ聞きたいんだけど」


聞きたいことって、いったい……。





「なんでジジイじゃなく、自分を殺すよう依頼したワケ?」


口元は笑っているのに、どこか有無を言わせない。

そんな雰囲気を感じ取った。
だから私は、ひとまず素直に答える。




「私が死んで金づるがいなくなって、
 焦るアイツを想像したら、」


思いのほか面白かったからよ。





「なるほどね〜、お前けっこう性悪だな♪」

「あんたに言われたくないわよ」


でも、これは本当のことだ。

ただあの男を殺してもらっただけじゃ、気が済まない。
もっと屈辱を味わわせてやりたいと思った。










「しししっ、気に入った。
 お前、その性格ならこっちでもやっていけるよ」

「こっちって……どういうこと?」

「こーゆーこと!」


そう言ったベルフェゴールはナイフを取り、
はりつけにされている男に向かって迷いなく投げた。

そして……





「ぐあああぁぁぁ!!」


そのナイフは、寸分の狂いもなく男に突き刺さり……
一瞬にしてその命を奪ったのだ。





「そんな、……」


ベルフェゴールは私を殺さず……
代わりにあの男を殺した。





「なんで……コイツを殺したの……?」

「お前を解放するためだけど?」

「私は私を殺せって言ったのよ!?」


なのに、どうして……!





「一番は、お前のことが気に入ったから。
 あと、お前の依頼は気に食わないし」


ベルフェゴールの顔から、スッと笑みが消える。




「自殺も出来たはずじゃん。でも、それをしなかった」

「…………」

「怖いんだろ、本当は。死ぬことがさ」

「……!」


そう、かもしれない……





「そうかも……しれないわね」


確かに、それもできたはず。
それなのに、しなかったのは……

結局私は、死ぬことが怖かったんだわ。
覚悟もないくせに、殺しの依頼をするなんて……。










「じゃあ、この話はこれで終わり」

「え?」


再びベルフェゴールに笑みが戻り、そして……





「お前は今日からヴァリアーの一員だから♪」


唐突にそんなことを言い出した。





「ちょ、ちょっと、何を言って……」

「だって性悪だしさー、向いてんじゃん?」

「そういう問題じゃないわよ!」


依頼のことを考えたら、本来私は殺す相手だったのよ?
そんな人間を、仲間に入れようだなんて……










「お前マジで考えすぎ……ほら、さっさと行くよ」


あーもうっ!





「私は『』よ!!」

「ハイハイ」

「こうなったらヴァリアーでも何でもなってやるわよ!
 ただし、あんたが私の名前を呼ばないと……」



「なっ、何?」

「行くよ」


何なのよ、これ……
もう完全に、コイツのペースに飲まれちゃってるじゃない。





「……でも、」


でも、こんな人生も案外いいかもしれないわね。



















そして、ここから


(救い出してくれたのは 他でもない君だったよ)















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ベル夢です。
当時のわたしは正直なところ、ベルが好きではなくて
夢を書くなんてありえない事象でした。

でも書いてたので、ものすごい進歩?だなと思っちゃいましたね。
今はベルも好きです。
団体としては、ヴァリアーが最推しですね。