『ハヤトくん、こっちだよ!』
『おい、!
そんなに走ると転ぶだろ!』
『平気だよ!』
そう言っては転んで、君はいつも泣いていた。
『どういうことだよ、引っ越すって!』
『ごめんなさい……もう、決まったことなの』
『行くなよ!
オレと……一緒にいるって言ったじゃねぇか!』
『……て……よ……』
『え……?』
『あたしだって……行きたくなかったよ!!』
「――……! ……くん!」
ん……なんだ……?
「……くん! 獄寺くん!」
……!
「10代目……」
「お、やっと起きたな」
「良かった……
獄寺くん、もう授業終わったよ」
10代目の声に気づいて、思いきり顔を上げると。
山本と二人で、オレを起こしてくださったようだ。
「すみません、オレ……」
10代目の呼びかけにも気づかずに眠りこけて……!
「い、いや、それは大丈夫だから」
お優しい10代目は、そんなことを仰った。
「とにかく、もう昼だし屋上行って食おうぜ」
「そうしようよ、獄寺くん」
「はあ……10代目が、そう仰るなら」
正直、山本はいけ好かないが仕方ねぇ。
「…………」
それにしても、昔の夢か。
久しぶりに見たな……。
「みんなー!」
屋上に向かおうとしたところで、
一人の女がオレたちの方へ駆け寄ってくる。
クラスメイトのだ。
「これからお昼?」
「……ああ」
「じゃあ一緒していいかな? ね、ツナくん!」
「あ、うん、もちろんだよ」
「ありがとー!」
この騒がしい女……
オレは昔、イタリアでこいつと一緒に過ごしていた。
『初めまして、あたしは! あなたは?』
『……ハヤト』
『わあ、カッコいいお名前ね!
ねぇハヤトくん、一緒に遊びましょ』
『別に、いいけど……』
親父が開いたパーティで、オレたちは偶然出会った。
どういうわけか、それ以降いつも一緒に遊ぶようになって……
『ハヤトくん、見て!』
『なんだよ』
『お花よ! かわいいね♪』
『……ああ』
こいつはいつも、笑顔を絶やさなかった。
泣くとしたら、走って勢い余って転んだときくらいで。
すげぇ強いやつなんだなってずっと思ってた。
だけど、一度だけ。
転んだとき以外で、泣いたことがあった。
『あたし……ずっとハヤトくんと一緒にいる!』
『か、勝手にしろよ』
『うん!』
あいつはオレと一緒にいるって言ってくれた。
……それなのに。
急に、日本に引っ越すことになったと言いやがった。
『…………』
引っ越したら、離ればなれになってしまう。
やっと自分の居場所が出来た幼いオレにとっては、
がいなくなることは絶望を意味していたんだ。
だから、にあたった。
『あたしだって……行きたくなかったよ!!』
は引っ越しの日に、涙を見せた。
自分のことしか考えてなかったオレの心に、
その涙は……強く、強く響いた。
「ほら、獄寺!
ぼーっとしてないで行こうよ」
「……」
「何? どーかした?」
「…………別に何でもねぇよ」
後からオレが日本に来て、こいつと再会したけれど。
だけど、こいつは……オレのことを忘れていたんだ。
まだ幼かったから仕方がないのかもしんねぇ。
でも、自分でも驚くほどそれがショックで……。
「くそっ……」
は何も悪くなんかないのに。
無邪気に笑っているところを見ると、
たまにイラついてしまうことも少なくなかった。
「……」
なんで忘れちまったんだよ……。
「呼んだ?」
「……!」
いつの間にか背後にが立っている。
声を掛けられるまで、全然気づけなかった……。
「……誰もお前のことなんて呼んでねぇよ」
「あっそ。でも、あたしは獄寺に用があったのよ」
「用……?」
ったく、何だってんだよ……。
「はい、どうぞ」
「何だよこれ」
「プレゼントよ! 見ればわかるでしょう」
「いや、そうじゃなくて……」
確かにが差し出したのは、
どう見てもプレゼントの箱だった。
けど、なんで急にプレゼントなんか……。
「だって今日、誕生日でしょ?
『ハ・ヤ・ト・く・ん』」
「……!」
その呼び名は……!
「お前……!」
「懐かしいね、この呼び名。
昔は毎日のように呼んでた気がする」
「ちょ、ちょっと待てよ……」
こいつは……
はオレのこと、覚えてたのか……?
「忘れないよ……だって、大切な人だし」
「だったらなんで、」
「言わなかったのかって?」
そうだ。
なんで、何も言ってくれなかったんだよ……。
「もう、転入してきた日から気づいてたよ。
でもね、あたし怖くて言えなかったの」
怖いって、何が……。
「だって、昔と雰囲気変わってたんだもん」
だからもう、あたしのことなんて
覚えてないんだろうなーって……。
「そんなことねぇ……」
そんなことねぇんだよ。
「オレはずっと……お前に会いたかった」
日本に行く口実が出来たときは、本当に嬉しかった。
こいつに会える機会も、作れると思ったからだ。
「それなのに、お前はオレのこと忘れてると思って」
正直、つらかった。
「…………ごめんなさい」
「いや……謝んな」
もう、いいんだ。
「お前がオレのこと覚えてたなら、それでいい」
「うん……。
ねぇ、また『隼人くん』って呼んでもいい?」
「『くん』は付けんな」
「分かった。
隼人、大好きよ。また会えて嬉しい」
「……ああ」
オレも……
またお前に会えて、本当に良かった。
そうして君はまた、珍しく涙を流したけれど。
(あの日とは違って、悲しい涙ではない気がした)
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一応バースディ夢でした。
あまり触れていないですが……。
YUIの「feel my soul」を聴きながら書いていました。
リボーンにハマっていたときはYUIかバンプだったので、
刺激を受けている曲のほとんどが、どちらかでしたね。