……あっ、来た!
「勝己くん!」
――翌日、午後1時の少し前。
外に出て自宅のすぐ前で待っていると、
向こうから歩いてくる勝己くんの姿が見えた。
「お前、なんで外で待ってんだよ」
「え? いや、なんとなく……
なんか、家の中で待ってると落ち着かなくて」
まだかな、そろそろかな、なんてワクワクしてたら
なんとなく外に出てきてしまったとゆうか……。
「ガキじゃねぇんだから、大人しく家ん中で待ってろ」
「ガキ!?」
ちょっと、その発言はひどくない!?
勝己くんも同い年じゃん!
「風邪引いても知んねーぞ」
「……!」
あっ、そっか……
言い方はアレだけど、心配してくれたんだ……。
「勝己くん、ありがとう」
「……いいから、行くぞ」
「うん!」
そそくさと歩き出した勝己くんに続き、あたしも歩き出した。
「それで、これからどこ行くの?」
「テキトーにその辺」
「ふーん、そうなんだ」
特に目的地があるってわけじゃないらしい。
でも、こうして2人で一緒に居られるんだし、
あたしはそれで十分かな……。
「ここは……」
勝己くんについていく形でやって来たのは、
あたしがよく来るショッピングモールだった。
お気に入りの雑貨屋があったり、
服も好みのものがたくさん売っていたりで……
個人的には、すごく使いやすい場所だったりする。
「何か買うの?」
「買わねぇ」
「ええっ?」
何も買わないのにショッピングモール?
なんか、よく解らないな……
けど、けっこう勝己くんってそういうとこあるし
あんま気にしないほうがいいのかも。
「テキトーにその辺」が目的地みたいだし、
思いついたところに来てみたって感じだろう。
「おい、あそこ入んぞ」
「えっ?」
そう言って勝己くんが指さしたのは、なんと、
あたしのお気に入りの雑貨屋だった。
何かの間違いでは、と思って躊躇っていると……
「何してんだ、早くしろクソが」
若干(いや、けっこう?)イラついた勝己くんが、
立ち尽くしていたあたしの手を引いて歩き出す。
導かれるまま歩いていくとやはり、
例の雑貨屋に入っていった。
「…………」
勝己くんと雑貨屋さんって、ちょっと違和感……
とゆうか、違和感しかない。
そう思いつつも、お気に入りのお店なので
あたしの意識は自然と店内に向いていく。
「あっ、これかわいい」
ニワトリがモチーフの、フワフワのぬいぐるみだ。
来年の干支だからってことなのかな?
「このマグカップいいなぁ〜」
ずっと使ってたやつ、かなり古いからなぁ。
そろそろ新しいのを買ってもいいのかも。
「……あっ!」
しまった、勝己くんを放置して夢中になっちゃった……!
そばに居た彼に、慌てて向き直る。
「ごめん、勝己くん!
ここ、あんまおもしろくないよね」
もう出よっか、と言うと、
勝己くんは不思議そうな顔をして言う。
「そんなに急ぐ必要ねぇだろ。
パーティの時間には、まだ早えーぞ」
「えっ? あ、うん、それはそうだけど……」
えーと、これは……
まだこのお店を見てていいってこと? だよね?
「えっと、じゃあ……
向こうのコーナーも見ていい?」
「おう」
即答してくれた勝己くんにお礼を言って、
あたしは向こうのコーナーに向かった。
「…………」
なんか……
なんて言ったら解らないんだけど、何かがおかしい。
何かって何が?
と聞かれても答えられないんだけど、何かが……
『次行くぞ』
『うん!』
雑貨屋さんを一通り見て、欲しいものを買った後。
再び勝己くんに手を引かれ、
別のお店に移動したんだけど……
そのお店というのが、あたしのお気に入りの服屋さんで。
初めは「ただの偶然かな?」と思ったものの……
その次もよく行く文房具店だったり
毎回必ず立ち寄る本屋だったりで、
完全にあたしの「いつもの買い物コース」だった。
「…………」
でも、勝己くんにその「いつもの買い物コース」の話は
したことなかったと思うし……
やっぱり偶然? だよね?
「おい、次はあの店で休憩するからな」
「えっ!?」
次のお店に移動するたびに、
こんな感じのやり取りをしてるんだけど……
さすがに今回は、オーバーリアクションをしてしまった。
だって、勝己くんが指さしたのって……
「あたしが気になってたカフェだ……」
ずっと改装してて、最近オープンしたんだよね。
今度入ってみようって思いながら、
タイミングがなくて行けてなかったんだ。
「勝己くん、あの……」
「あ?」
「あそこのカフェ、辛い物は無いと思うよ……?」
ケーキがおすすめって謳ってるくらいだし、
甘い物メインな気がする。とゆうか、メインだ。
「何だよ、行きたくねーのか」
「い、いえ、行きたいです!
……でも、いいの?」
「俺が行くっつってんだろ。
お前も行きたいなら素直に来いや」
「う、うん」
本当に、今日の勝己くんは何かがおかしい、けど……
あのカフェは本当に気になってたし、嬉しいな。
偶然だろうけど、勝己くんのチョイスはさすがだ!
なんてことを考えながら……
その後もピンポイントなチョイスの勝己くんのおかげで、
あたしは夕方までの時間を楽しく過ごすことが出来た。
「……あっ、けっこう時間経ってたね」
ふと時間を確認すると、パーティ開始時間が近づいていた。
「めんどくせぇけど、そろそろ行くか」
「うん!」
ショッピングモールを出たあたしたちは、
そのまま百ちゃんちへ向かった。
「勝己くん、今日はありがとね」
「何の話だ」
「お店のチョイスが、さすがだったから」
たぶん偶然だろうけど、
あれ完全にあたしの買い物コースなんだよ。
「いつもは1人でさっさと済ませるんだけど、
2人で見て回ったら、すごく楽しかった!」
もちろん、相手が勝己くんだからってのも
あると思うんだけどね……なんて。
「偶然であんな店選ぶかよ、クソが……」
「えっ?」
「何でもねー」
何か言ってたと思ったんだけど、気のせい?
まあ、必要なら後で教えてくれるだろうし、
今はあんまり追及しないでおこう……。
「……あっ、百ちゃんち、あそこだよ!」
昨日も準備のために訪ねていたので、
やって来るのは2回目だった。
「デケェ」
「ね、あたしもそう思った」
あたしも昨日思った感想を、勝己くんも口にする。
そんなことを言い合いながら、玄関まで回り込むと……
「いらっしゃい、さん、爆豪さん!」
百ちゃんがちょうど、迎えに来てくれていたようだった。
「昨日に引き続きお邪魔します、百ちゃん!」
「ええ、どうぞ。爆豪さんもこちらですわ」
彼女のあとに続き、昨日飾り付けをした広間に入ると、
すでにみんな集まっていた。
「おっ、来たな、お2人さん!」
「そんじゃ、始めようぜ!」
あたしたちを見つけた上鳴くんと切島くんがそう言って、
クラス全員参加のクリスマスパーティが始まった。
「……あら? 爆豪さん、どちらへ?」
「便所」
「場所はご存知ですか?」
「切島に聞いた」
「そうですか、でしたら心配ご無用ですわね」
「ねえねえ、ー!
爆豪とのデート、どうだったの!?」
「えっ!?」
切り分けてもらったケーキを食べていたとき、
三奈ちゃんが急にそんなことを言いだした。
「てゆうか、デートって……!?」
それは、さっきのお買い物のことなの?
とゆうか、三奈ちゃんなんで知って……
「元々は、爆豪くんから聞かれたんよ」
「え?」
三奈ちゃんに問いかける前に、
向かいに座っているお茶子ちゃんがそう言った。
「あれは確か……このパーティについてのLINEが
切島から送られてきた日だと思うけど」
「そうそう、確かその日の放課後だったよね〜!」
『おいテメェら、ちょっとツラ貸せや』
「ちゃんが居ないのを見計らって、
爆豪ちゃんがそう言ってきたのよね」
「えっ……」
っていうか勝己くん、その呼び出し方は完全に不良……
なんて、一瞬どうでもいいことを考えてしまう。
「ちゃんがよく行く場所や、好きな場所、
知ってるところ全部教えろってね」
「そーそー。だから、前にが言ってた
お気に入りの雑貨屋を教えてやったの」
なるほど確かに、三奈ちゃんには話したことあるな……。
「私は、あなたが気になってるカフェを教えてあげたわ」
「ウチはいつも本屋に寄るらしいって言ってやった」
「えっと私はね、服屋さんを教えたんよ」
「文房具店によく行くらしいって情報を提供した〜!」
みんなが勝己くんに教えたらしい「あたしの好きな場所」は、
そのまま全部、さっき行ってきた店だ。
ってことは……
勝己くんのチョイスは偶然じゃなくて、
調べた上であたしのためにしてくれた、ってこと……?
「昨日パーティの準備をしているとき、さんおっしゃっていましたわね」
『切島くんと上鳴くん、あたしが落ち込んでることに気づいて
パーティしようって言ってくれたみたいなんだ。
こうやって百ちゃんが場所を提供してくれて、
みんな準備を手伝ってくれて……
本当に素敵な友だちと出逢えたなぁって思っちゃった』
「さんは、『素敵な恋人』とも出逢えましたわね」
「……!」
優しく笑って、百ちゃんがそう言ってくれた。
何も言わないけれど、他のみんなも同じような顔をしている。
「みんな……ありがとう!!」
あたしは本当に……本当に幸せ者だよ。
「それは爆豪くんに言ってあげなよ、ちゃん」
「うん!」
あれ?
でも、勝己くんはどこに……
「先ほど、お化粧室に行かれましたわ」
「あ、そうなんだ……」
じゃあ、待ってたほうがいいのかな……
で、でも、今すぐお礼を言いたいし……!
「ちょ、ちょっとあたしも行ってきます!」
「行ってらっしゃい、ちゃん」
梅雨ちゃんがそう言ってくれたのを合図に、
あたしは広間を飛び出した。
「を元気づけるつもりが、結局最後は爆豪かよ〜」
「まあ、そこはしょうがねぇよな」
「切島はともかく、上鳴あんた割といいやつだね。
ウチ、ただのアホかと思ってたわ」
「耳郎、てめぇ! もっと言い方あんだろ!」
「あはは」
「それにしても、大丈夫?
爆豪くん、ちゃんには言うなって言ってたけど」
「まあ、そこはいいんじゃなーい?
ってゆーか、むしろに教えてやるべきだって」
「私もそう思う!」
……あっ! 居た!
「勝己くん!!」
素敵な時間を、本当にありがとう。
(勝己くんと出逢えて、本当に良かった!)
(は? なんだ、突然)
(今日のこと、みんなが教えてくれたよ)
(…………あいつら殺す)
(ええっ! なんで!?)
※1−Aメンバーは「ちゃんと爆豪くんを見守り隊」を結成している。
※特に女子メンバーと、切島くん、上鳴くんはちゃんに甘い。