「そーいや、今週末ってクリスマスだよな」


切島くんが、スマホをいじりながらそう言った。
どうやらスケジュール帳を見ていたらしい。



……――放課後・1−A教室にて、
相澤先生に呼ばれた勝己くんを待っていると。

なんとなく残っていた切島くん、上鳴くんが
話し相手をしてくれることになったのだ。










「おー、言われてみれば!」

「つっても、なんも予定ねぇけどな」

「悲しいこと言うなよ、切島!
 まぁ、俺もねーけど……」


勢いよくツッコミを入れたあと、
上鳴くんはそう言って落胆した。





「それに比べてはいいよなー!」

「えっ?」

「いや、だってさ!
 クリスマスはデートすんだろ!?」


うらやましいよな〜!
と、上鳴くんがニヤニヤしながら言う。





「あたしも、特に予定入ってないけど」

「はぁ? なんで!?」

「なんでって、そんな約束してないし」

「いや、意味わかんねーよ!!」


約束をしていないから、予定は何もない。

当たり前のことを言っただけなのに、
上鳴くんから大ブーイングが起こった。










「まぁ、『意味わかんねー』は言い過ぎだけどさ。
 は、クリスマスに爆豪とデートしねぇのか?」


隣でブーイングを続ける上鳴くんを軽く無視し、
切島くんが問いかけてくる。





「えっと……」


確かにあたしは勝己くんと付き合っているから、
クリスマスにデートをしてもおかしいことじゃない。

でも、勝己くんは出かける時間があるなら
トレーニングしたりしそうだ。……とゆうか、してる。


結果、普通のデートだって片手で数えるくらいだけど、
それが不満というわけじゃない。

見た目は不良ぽいのに、そうやって努力を惜しまないところ
あたしは勝己くんの魅力だと思っているから。










「クリスマスだからって改めて出かけないよ、たぶん。
 勝己くんの性格的にもさ」

「あー……確かに爆豪ってそんな感じな」


うんうん、と切島くんは頷いている。





「いや、けどさー!
 はクリスマスデートに憧れたりしねーの!?」


一方の上鳴くんは納得がいかないのか、
(自分のことじゃないのにかなり必死だ)
未だに食い下がってくる。

でも、確かにそうだなぁ……






「そりゃあ、すごく憧れてるけど……
 でもいいよ、それはまたの機会で」


きっと次の機会があるだろうから、今回はいい。
クリスマスにこだわらなくても、大丈夫だよ。










……お前ほんっといい女だな」

「上鳴、俺も今、同じこと考えた」

「えっ? 2人とも、突然なに!?」


急に褒められると、怖いんですけど……!





「爆豪にはもったいねぇな」

「そうだ! 爆豪なんかにはもったいねー!
 つーわけで俺にしない?」

「しない」

「即答かよ!」

「あはは」


ちょっとしんみりしちゃいそうだったけど、
上鳴くんのアホ発言で少し元気出たな。

……というか、そう思ってる時点で
やっぱクリスマスに期待してたんだな、なんて。

他人事のように思った。










ガラッ!


「……!」


ちょうど話がひと段落したとき、教室のドアが勢いよく開く。
驚いて目を向けると、そこには待ち人である勝己くんの姿があった。

勝己くんは無言のまま自分の席までやって来て、
置いてあったカバンを乱暴につかみ、あたしを見やる。





「おい、帰んぞ」

「うん!」


あたしも慌てて自分の席に向かい、カバンを手にとる。
その間にも勝己くんは、すでに歩き出していた。





「…………」


切島くん、上鳴くんの隣を通り過ぎるとき、
何故か一瞬、2人のほうを見てたみたいだけど……

こちらからは後ろ姿だったので、
どんな顔をしていたのかは解らなかった。


まあ、特に何も話しかけてないし、
大した用でもないんだろうな、たぶん。










「切島くん、上鳴くん、
 話し相手になってくれてありがと!」


また明日ね、と言って、すでに廊下に居る勝己くんに続き
あたしも急いで教室を出た。










「…………爆豪のやつ、と俺らの話ぜってー聞いてたよな」

「…………そうだな、あの顔は聞いてた顔だな」






















「なーなー、
 クリスマスの予定、まだ空いてるか?」


翌日の朝、教室に入ると。
挨拶も早々に、上鳴くんが問いかけてきた。





「うん、特に無いけど……」


とゆうか、昨日の今日で予定入ってるわけないよ。

なんて思いつつ、まぁ何か続きがあるんだろうなと
ひとまずは黙っておく。





「昨日あれから切島と話してたんだけどさ……
 クラスの奴らで集まって、パーティしねぇ?」

「パーティって……クリスマスの?」

「そう!」


みんなでクリスマスパーティかぁ……





「なんか楽しそう!」

「だろ!?」

「うん!」














「おう、上鳴。
 例の話、にしたか?」

「ああ、たった今!」


上鳴くんとの話が盛り上がっているところに、
切島くんも入ってきた。

……そういえば2人で考えたって言ってたっけ。





「そっちはうまく頼み込めたのかよ、切島」

「ああ、バッチリだ」


そういえば……

切島くんが百ちゃんに向かって両手を合わせ、
お願いするような仕草をしていた気がする。





「もしかして、今さっき百ちゃんとしてた話って、
 パーティ関係のこと?」

「おう、ちょっと会場の相談をな」

「会場の相談……?」


切島くんによると……

クラス全員で集まるには広い場所が必要だけど、
そんな場所を借りたらお金がかかってしまう。

どこか使わせてもらえそうなところは無いか……
考えた末、候補に挙がったのが百ちゃんの家らしい。


確かに彼女の家ならば、広い部屋の一つや二つありそうだ。
とゆうか、ある。たぶん。










「そっか、場所を貸してもらえるよう頼んでたんだ」

「おう!」

「それで、百ちゃん何だって?」

「そういうことなら、場所を提供してくれるってさ!」

「おー、マジか!」

「やったね!」


嬉しくなって、あたしは上鳴くんと一緒にガッツポーズする。





「いろいろ決めていかねぇとな」

「うん!」


まだあたしたちで言ってるだけだろうから、
みんなことも、ちゃんと誘わないと!

それにしても……





「友だちと一緒にパーティって、ずっと憧れてたんだよね。
 準備は大変そうだけど、でもすごく楽しみだなぁ……」

「そうか、それなら良かった」

「ああ。たぶん爆豪も来るだろーしな」

「え、」


もしかして……

クリスマスのことであたしが落ち込んでるって、
2人は気づいていたのかな。

だから急に、みんなでパーティなんて……。


そこまで考えて2人のほうを見ると、
とても優しい顔をしてあたしを見ていた。





「上鳴くん、切島くん……」


こんなに気遣ってもらって……
あたしは本当に、素敵な友だちに出逢えたな。










「爆豪と2人じゃないけど、そこは許せよ!」

「そんな、十分だよ! ありがとう、2人とも……」


その前に、勝己くんも参加するか解らないけど。





「何言ってんだ。お前が参加するのに、
 あいつが来ねぇはずないだろ」

「それに、もし来ないっつったら
 俺らにも奥の手があるからな!」

「奥の手?」

「おう!」


その「奥の手」って何なんだろう……
そう思ったものの、2人は教えてくれなかった。










「でさ、当日に準備して当日にパーティじゃ
 忙しいだろうって八百万が言ってくれてな」


どうやら百ちゃんは、準備がしやすいよう
前日からお部屋を貸してくれるらしい。





「確かに、それなら助かるかも」

「だよな」

「けど、準備どーする?
 さすがに俺らだけじゃ限界あるっしょ」

「うーん……」


だったら……





「先に、だいたいの流れを決めちゃうのは?」


たぶんこれから、みんなに「パーティやろう!」
っていうLINEを飛ばすんだろうし。





「そのとき一緒に、

『準備はこんな感じでやるので可能な方はご協力お願いします』

 みたいなことをさ」

「おー、それいーじゃん!」

「それならみんなも解りやすいな」


なんて言い合いながら、休み時間のたびに話し合い……

お昼休みに、切島くんがみんな一斉にLINEを飛ばしてくれた。















、ちょっといいか?」

「うん」


――お昼休みが終わる少し前。

席に戻って次の授業の用意をしていると、
切島くんが声を掛けてきた。





「もしかして、さっき飛ばしてくれたLINEのこと?」

「さすが、話が早いな」


なんて言いながら、切島くんは自分のスマホをいじる。
どうやら、LINEの画面を開いているらしい。





「みんなけっこう、ソッコーで返事くれてな。
 全員参加だ」

「全員? すごいね!」


確かに女子メンバーには、さっきお昼食べてるとき
「ぜひ参加してね」ってアピールしておいたけど。

男子も全員参加するとは、思わなかったな……。





「轟くんとか、あんまり興味なさそうだけど」

「あー、轟はたぶん、お前が参加すれば……」

「え?」

「あ、いや! なんでもねぇって」


うまく聞き取れなかったので聞き返してみたけど、
切島くんは「なんでもない」としか答えてくれなかった。










「と、とにかく!
 そういうわけで、全員参加だからさ」

「うん、了解!」


前日の準備を手伝ってくれるっていう人も
何人かいたみたいだし、その辺も大丈夫そうだ。





「当日が楽しみだね」

「そうだな」


あっ、でも、当日もだけど準備も楽しみかも。
本当に、切島くんと上鳴くんには感謝しないとね。

それに、何より……





「……」


自分の席についている勝己くんを、こっそり見る。





「勝己くんも参加してくれるし……」


2人は来ないはずないって言ってくれてたけど、
やっぱりちょっと不安だったんだよね。

でも、良かった……。





「本当に、楽しみだな……」


準備も当日も、みんなが楽しめるように頑張らないと!



















「おい」

「あっ、うん」


放課後、カバンを手にした勝己くんが声をかけてきた。

帰るぞ、という意味だとすぐ解ったので、
あたしもカバンを手に取り、先に歩き出した彼に続く。





「ねえ、勝己くん!
 明後日のパーティ楽しみだよね!」


隣を歩く勝己くんは「大げさ」と言って呆れてるけど、
でも楽しみなものは楽しみだし、それに……

勝己くんと一緒に居られるし……。





「お前、明日はずっと準備すんだろ」

「うん、そう。勝己くんも来る?
 今からでも参加オッケーだよ?」

「誰が行くかよ」


まぁ、そうだよね……。

当日来てくれるだけでも奇跡なのに、
準備まで手伝ってくれたら何事かと思うよ。










「……

「なっ、何?」


ビックリした……
急に名前で呼ぶんだもんな。

あ、いや、別に前から名前で呼ばれてるんだけど。


でも、いつも「お前」とかそんなんだから、
たまに呼ばれると、必要以上にビックリするんだよね。





「お前、明後日の昼間は空いてんのか」

「昼間?」

「そのパーティとやらが始まる前だよ」

「あ、うん、その前はずっと空いてるよ」


大掃除でもしようかなって思ってただけだし、
特に外せない用があるわけじゃない。





「なら、昼過ぎに迎えに行くから待ってろ」

「えっ?」

「俺が行くまでに出かける準備しとけや」


待たせるんじゃねぇぞ、とだけ言って、
勝己くんは話題を終わらせようとする。










「ま、待って、勝己くん!
 あの、それって……どっか行くってこと?」

「それ以外にねぇだろが」

「あ、うん、まぁそうなんだけど」


でも、なんか唐突っていうか、
24日に一緒に出かけるって、まるで……。





「とにかく、お前は言う通りに待ってりゃいいんだよ」

「う、うん。
 じゃあ、ちゃんとした時間だけ決めてくれる?」


昼過ぎってアバウトすぎるから、
どのタイミングで出かける準備するか迷うし……。





「……じゃあ1時」

「1時だね、解った!」

「ん」


あたしの返事を聞いた勝己くんは、短くそう言って頷いた。











「じゃあ勝己くん、また……明後日の1時にね」

「おう」


他愛もない話をしているうちに、自宅に着いた。

いつもなら「また学校で」と言うところが、今日はちょっと違う。
それが嬉しいけど、なんだか照れくさくもあった。





「……楽しみがひとつ増えちゃったな」


小さくなっていく勝己くんの背中を見送りながら、
あたしはそうつぶやいた。