「ルシア様!」
ああ、またこの声だ。
俺は最近いつも、この声が聞こえると身構えてしまう。
「またお前かよ……」
「またとは何ですか、またとは!」
私はルシア様のためを思って行動していますのに!
と、その女は力強く言い切る。
「別に頼んでないだろ」
「あなたに頼まれていなくとも、
マティアス様にはお願いされておりますから!」
「だから、それが余計なお世話なんだって……」
何度言っても、こいつは理解してくれない。
全く……俺の面倒を見ろ、だなんてこと、
どうしてマティアスはこいつに言ったのだろう。
こいつは、最近ファザーンの城に勤め始めた女。
名前は。
特に掃除を担当しているらしいが
(とは言っても、結局は全体的に家事をこなす)
何故か、マティアスから直々に俺の世話係を仰せつかったらしい。
それ以来、俺はこいつにガミガミ言われる毎日を過ごしている。
まぁ、こいつの言ってることは全部正しいし……
本当に俺が嫌がるような干渉の仕方はしないから、
俺もそこまで嫌悪しているわけじゃない。
だけど、一つ気になることがある。
「失礼致します、ルシア様。
マティアス様がお呼びでございます」
「あ、ああ……解った、今行く」
「では、私はこれで失礼致します」
別の使用人が、それだけを伝えて出て行った。
…………そうだ。
普通、使用人なんてのはこんなもんだ。
あまり俺らには干渉しない。
「マティアス様がお呼びとは……仕方ありませんね。
参りましょう、ルシア様」
それが、この女は全く違う。
確かに嫌悪するほどではないのだが、
明らかに他の使用人とは違い、俺に干渉してくる。
いくら世話係を仰せつかったからって、普通王家の人間に
こんな積極的に近づいたりしてこないはずなのに。
「で、何の用だよ、マティアス」
「ああ、のことなんだが」
そう言ってマティアスは、
俺の隣に居る気の強い(自称)世話係を指差す。
「こいつのこと?」
「ああ……。
お前、先日隣国で開かれたパーティに出席しただろう」
「パーティって、エリクと一緒に行ったあれだよな」
「そうだ」
別に俺は行きたくなったけど、仕方なくな。
隣国との付き合いも大事だからと、
マティアスに言われて参加したんだ。
「お前、そこで一人の王女と踊ったのだろう?」
「なっ、なんでそれを……!」
って、エリクしか居ねぇよな!
あいつ余計なことを……!
「珍しくお前が女にご執心だったとエリクが言うんでな……
気をきかせて、その女をお前の世話係にすることにした」
「へえー……
…………って、何だって!?」
俺がこの間一緒に踊った王女を、俺の世話係に……?
「ま、まさかこいつが!?」
「こいつとは失礼じゃないですか、ルシア様!」
「だってこんな気の強い口調じゃなかったぞ!」
そう言った俺の後ろで、部屋の扉が開かれる音がした。
「全く、この人の正体も見抜けないなんてね、ルシアは」
「エリク!」
俺の視線も軽く無視し、エリクはつかつか歩いてくる。
「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございません。
姫、よろしければお手をどうぞ」
「……!」
エリクのそのセリフは、俺がこの間言ったものだった。
「……ファザーン王国のエリク殿下とお見受け致します。
あなたのようなお方からのお誘いなんて……断る理由もござません」
「お前……!」
が答えたそのセリフも、俺がこの間返されたものと同じ。
違ったのは、名前が「エリク」ではなく「ルシア」だったことくらい。
「お、お前が、あの王女だって……?」
「私の顔をお忘れになっていただなんて……
ルシア様、ひどすぎます!」
「あ、いや……」
つーか前半と後半で話し方が違いすぎるだろ!
俺はつっこみたい衝動をなんとか抑えた。
「というわけだ。
こいつには引き続き、お前の世話係をやってもらうからな」
「なっ、なにが『というわけだ』なんだよ!」
説明になってねぇだろ!
俺の訴えも虚しく、マティアスとエリクに軽くあしらわれ
俺は部屋に戻ることになった。
けど……
「これからもよろしくお願い致しますね、ルシア様」
「あ、ああ……」
だけど、あの王女がこいつ……だったのか。
正直驚いたけど、納得は出来た。
『ルシア様、お飲み物はいかがですか?』
『あ、ああ……ちょうど喉が渇いてたんだ』
『かしこまりました、すぐにご用意致しますね!』
よく気を配れるし、さっきも言ったけど、
こいつは人が嫌がるようなことを絶対にしない。
俺が本当に嫌がるところまでは、干渉してこないから。
『あちらの方に、お酒をお持ちして。
それから、あちらの方にはお水を』
『かしこまりました、王女』
『へえ…………』
よく見てるもんだな、と思った。
確かに前者は持っているグラスが空になっているから、
そろそろ酒を欲しいと思い始める頃だろう。
そして後者は青い顔をしているから、具合が悪いのだろう。
なるほど、水を持っていった方が良さそうだ。
おそらく本人は、決して目立とうとしていたわけではないのに。
俺には、その王女が光を放っているようにさえ思えた。
だからなのだろうか。
パーティなんて興味のない俺が、その王女に声を掛けたのは。
だからなのだろうか。
珍しくも俺が、女に惹き付けられたのは……。
「ルシア様? いかがなさいましたか?」
ご気分が優れないようでしたら、お水をお持ち致しますが。
そう言いながらは俺の顔を覗き込む。
「あ、いや……別に何でもねぇって」
「そうですか、それはようございました」
その笑顔を見て思った。
ああ、確かに
(あの王女は お前だったんだ)
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最初は断然エリク推し! って思ってたのですが、
ルシアじわじわ来て、今はルシアが一番推しかもです。
過去に一度会っていたという設定、好みなんですよね。
あとは、ティアナのために、健気にがんばるところがいいですね〜。
ティアナのお父さんには、あんま認めてもらえてないですけど……(笑)