気づいたら、走って逃げていた。
わたし以外は、みんな敵だった。
『お前を殺せば大金が手に入るんだ!
悪く思うなよ』
『今まで死なずに済んでいたのは、
お前がヴァリアーだったからだ』
『ヴァリアーの仲間に助けられてたんだよ!』
『ヴァリアーでも何でもなくなった今のお前は、
かっこうの獲物だな!』
『俺の仲間を殺した恨み……ここで晴らす!!』
そう言って、さっきから何人もの刺客がわたしを殺しに来た。
そんな雑魚どもに負けるようなわたしではないが、
さすがに追われ続けていると体力も消耗するわけで。
一言で言えば、「絶体絶命」というやつを迎えていた。
『この人数ならば、さすがのお前にもどうにもできまい』
決め付けられて腹が立ったが、事実ではあった。
いくらわたしでも、所詮は女。
限界は早くにやってくる。
『くっ……』
これまで、か……
『最後に会いたかったよ……』
わたしの、大切な人――……
その人は、わたしと同じヴァリアーに所属していた。
幹部という地位につき、それに相応しい実力も持っていた。
『オレが叩き切ってやるぜぇ!』
銀色の綺麗な髪をなびかせて剣を振るう姿……
その姿に見とれていたと、
今なら素直に言えるだろうか。
『よぉし、あらかた始末できたなぁ』
斬ることが好きな、酔狂な人だと思っていた。
だけど、本当は優しくて……
いつもわたしを心配してくれていたこと、
知ったときはとても嬉しかった。
『どうしたの、その顔!?』
『い、いや……なんでもねぇ』
わたしが任務でヘマをしたときには、
わたしの代わりにボスに殴られに行ったらしい。
まぁ、もともとボスは、
わたしを怒ってなどいなかったと言うが……。
『ごめんね……それから、ありがとう』
『……別に、お前のためじゃねぇ』
そう言いながらも、不器用な優しさを見せてくれる。
そんな彼を、わたしは愛していた。
彼もわたしを『あいしてる』と言ってくれた。
わたしなりに幸せな日々を過ごしていた。
そう……あの日が来るまでは。
急にボスの部屋に来るよう言われた。
その日は任務も完璧にこなしたし、
怒られる要素など何も無かったはずなのに。
『ヴァリアーから去れ』
突然言い渡された言葉。
それは解雇を意味していて……
理由を聞き出そうとしたが、それは叶わなかった。
『待って……待ってください、ボス!』
わたしはわけも分からないまま、
半ば強引にあの場所を追い出された。
『……』
そのとき、なぜかあの人の姿は無かった。
『なんで……』
なんでなんでなんで。
なんでわたしを追い出すの。
女だから? 使えないから?
『お願い……』
お願いだから、理由をおしえて。
何も聞かされずに追い出されたって、納得できないよ。
何も分からないまま、おしまいなんて嫌だ。
誰か、何でもいいから、おしえてよ……
『どうして……ここにいないの……』
ねぇ、あなたは今どこにいるの?
いつもみたいに、わたしのそばに居てよ……。
お願いだから――……
そうしてヴァリアーを後にしたわたしを待ち受けていたのは、
今まで始末してきたやつらの仲間。
わたしがひとりになったのをどこからか聞きつけ、
徒党を組んでやってきたらしい。
『……はは、』
さすがのわたしも、もうダメみたいだ。
残ってる力がない。
わたしはここで、一生を終えるんだ。
『……』
ああ、なんて短い人生だったのだろう。
こんなことなら、
もっと好きなことをやっておくべきだったかな。
『…………』
でも、仕方がない。
この状況を覆す策など、
わたしは持ち合わせていないのだから。
『でも、』
一つだけ、心残りがあるとするならば。
最期にあなたの顔をみたかったよ……
『スクアーロ……!』
「……!!」
ハッとなって目を開ける。
「すく、あーろ……」
そこには、心配そうな顔をするわたしの大切な人がいた。
「わたし……」
「お前、うなされてたぜ。
なんか悪い夢でもみてたのかぁ?」
「夢……?」
気づいたら、走って逃げていた。
わたし以外は、みんな敵だった。
『……はは、』
限界を迎えたわたし。
それを囲む数多くの刺客。
なぜか姿がみえないあなたと……
もはや味方ですらないヴァリアー。
すべてが……
すべてが、わたしを亡き者にしようと動いていたのだ。
「…………」
でも、それは……わたしの見ていた夢。
目を覚ましてみると、スクアーロはわたしのそばにいて。
それだけのことで、ひどく安心した。
あなたには、それが……伝わっているだろうか。
「……大丈夫かぁ?」
彼があまりにも心配するから、躊躇いつつも夢の内容を話した。
改めて思い返してみても、怖い夢だった。
ほんとうに……ほんとうに怖い夢。
「っ……」
怯えるわたしを抱きしめ、スクアーロが耳元でささやく。
『たとえ世界のすべてがお前の敵になったとしても、オレは……
オレだけはお前の味方だから安心していい』
たとえ、ありきたりの言葉だとしても
(今のわたしが、いちばん欲しかったものだ)