※注:このお話のヒロインは「神はじ」の世界にトリップし
いろいろあってミカゲ社と割と近所にある「とある神社」の神様となり
いろいろな成り行きで鞍馬が神使になっちゃっている元・社会人という
やりたい放題な設定となっております(長い)
「おーい、」
「ん〜?」
「俺は仕事に行ってくるから、何かあっても呼ぶなよ?」
「呼ぶなよ、って……
まあ、いーや。行ってらっしゃ〜い」
社を出て行くその背中に向かって、「気を付けてね」と付け加える。
声は発しなかったが、一応後ろ手を上げて答えてくれた。
「……まあ、しょうがないか」
そもそも、鞍馬があたしの神使になってしまったことだって
アクシデントのようなものだったのだ。
もともと乗り気ではないし、彼のためを思って契約を解消しようと何度も試みたけど……
「結局、うやむやになって今に至るんだよねぇ……」
何だかんだ言って最終的に面倒見いいし……
仕方なく付き合ってくれてんるんだろうな。
「はあー……」
なんか自分が不甲斐ないわ……
「アイツ……
またため息ついてやがるな…………」
+++
「……ああ、もしもし。奈々生か?」
『うん!
どうしたの、鞍馬? 電話なんて珍しいね』
『ちょっとお前に聞きたいことがあってな」
『聞きたいこと?』
「ああ、実は…………」
+++
「……ん? なんか帰ってきたっぽいな」
社の中にて鞍馬の気配を感じ取ったあたしは、ふとそうつぶやいた。
――神使となったその日以来、ここの敷地内では鞍馬の気配を感じ取れるようになった。
(まあ、そんなことは絶対にしないと思うけど)例えばかくれんぼをしたとしても
すぐに見つけられるくらいには居場所を感じ取れるのである。
「ちょうどあたしもご飯食べようとしてたところだし……」
鞍馬の分も用意しちゃおう。
そんなことを考えながら、引き続きご飯の準備を続けた。
「…………って、アレ?」
敷地内には居るはずなのに、一向に入ってくる気配ないんですけど……
「このままじゃ、ご飯が冷めてしまう!」
それはちょっともったいないので、とにかくさっさと鞍馬を連れてこよう。
そう考えたあたしは、ひとまずご飯をそのままに外へ出た。
「…………あっ、居た! 鞍馬!」
外に出て鞍馬の気配を辿ってみると、鳥居のそばにその姿があった。
「もう、何やってんの?」
「別に……今、帰ってきたところだよ」
「嘘つけ。もう10分以上前から居たくせに」
「ぐっ……(そうだ、こいつ「神」の力で俺の居場所が解るんだった……)」
あたしの「力」を失念していたらしく、鞍馬はちょっと悔しそうだった。
「って、それよりさ。どうしかした?」
確かに鞍馬はあたしの神使だけど、巴衛や瑞希のように
自分の主と、社で常に生活を共にしているわけじゃない。
それでも、帰ってきてくれるときはご飯も食べて泊まってったりするし……
だから今日も、そのパターンかと思ってたんだけど
すぐ中に入ってこないのはちょっと変だった。
「…………ほらよ」
「へ?」
鞍馬はあたしの問いには答えず、ずいっと何かを差し出してきた。
「お前にやるよ」
そう言われ、わけが解らないままその包みのようなものを受け取る。
「……開けていいの?」
「ああ」
それじゃ、お言葉に甘えて……
「……!」
これって……
『わあ、これかわいい!』
『和柄の簪だね〜! ちゃん、和柄好きなの?』
『うん、好き!』
『私も! いいよね、和柄♪』
『ね♪』
「これって……」
こないだ、奈々生ちゃんと買い物に行ったとき、見た簪……。
「…………最近お前が、ため息ついてばっかだったからな。
好きなもの見れば、少しは気分が晴れるだろ」
「う、うん……
奈々生ちゃんに、聞いたの?」
「そうだよ」
そっか……
あたしのために、買ってきてくれたんだ……
「ありがとう、鞍馬…………」
すごく、嬉しい…………。
「…………やっと笑ったな」
「え?」
「何でもねぇよ。
ほら、中に入るぞ」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
さっさと行ってしまう鞍馬の後を、あたしも慌てて追いかけた。
ところで、なんで10分以上も外に居たの?
(…………秘密)(ええっ! ケチ!)(うるせーんだよ)
〜およそ10分前〜
「つうか……
これ買ってきたはいいけど、どういう流れで渡せばいいんだ……?」
「女の子にプレゼント渡すなんて、鞍馬の得意分野でしょ! がんばって!」
「そうだ、さっさとしろ天狗。
買い物に付き合ってやった上に、こうして心配してついてきてやったのだぞ」
「頼んでねぇよ!」
「変に構えなくていいんじゃないかなぁ……
お前に買ってきたから、とか言ってさ」
「いや、もうちょっと格好つけたい気がするけど……」
「『いつも頑張っているお前に、褒美をやろう』とでも言え」
「狐は黙ってろ!」
〜そして10分後〜
「…………あっ、居た! 鞍馬!」
「やべっ!」
「ちゃん、来ちゃった!
私たちはもう行くから、がんばってね鞍馬!」
「しくじるなよ」
「おっ、おい……!」