『僕は……あなたのことが好き、なんです』
あの日から、数週間が経過していた。
未だに彼女からの返事は無いが、骸はそれほど気にならなかった。
「骸くん、おはよう」
今もこうして、彼女が隣に居てくれるから。
「おはようございます、さん」
単なる挨拶でさえも、とても尊いものに感じる。
僕にこんな感情を与えてくれたのは……
他でもないあなただ。
そんなことを思いながら、骸は彼女の話に耳を傾ける。
「それでね、昨日お母さんが……」
彼女がする話のほとんどは、日常の何でもない話。
だが、話をしている彼女も、それを聴いている骸も、
第三者から見ればとても楽しそうで。
「なぁ、柿ピー。
なんで骸さん、あんな女としゃべってるんら?」
「…………さぁね」
楽しそうな二人の様子に気づいたのは、
骸に付き従っている彼らも例外ではない。
犬の問いかけに対し、千種は曖昧な答えしか返さなかったが。
「骸様は……見つけたのかもしれない」
――何にも代えられないような、大切な何かを。
そう考えて、二人の間には入らずにただ見守ってた。
……――骸に生じた、大きな変化。
それを、も、骸自身でさえも、未だ全てを知らずにいる。
追憶
(それは、一つ目の追憶)