「おい、藤崎……君に話がある」
「奇遇だな、椿……俺もお前に話がある」
「「……………………」」
……ある日の放課後。
スケット団の部室にて、二人の男が睨み合っていた。
一人はスケット団の部長・ボッスンこと藤崎佑助。
そしてもう一人は、生徒会副会長・椿佐介である。
「……おい、なんやねんアイツら」
『さてな』
そんな二人のただならぬ様子を、
同じスケット団の部員であるヒメコとスイッチが遠巻きに見ていた。
「オレの予想だと……たぶんオレたちは、おんなじことを考えてるはずだ」
「ああ……ボクもそう思う」
何か、もったいぶったような会話をする二人。
「いいから、はよ用件言い! ほんまイラつくわぁ」
『まあまあ落ち着きなさい、ヒメコ』
「そんでお前のそのキャラなんやねん!!」
そんな二人に、ツッコミ気質のヒメコは若干キレ気味である。
が、ヒメコに対するスイッチのキャラもおかしいため、
ヒメコは二重にツッコミをする羽目になった。
「よし、せーので言うぞ」
「解った。 せーの……」
「「最近、()先生と安形(会長)の仲が良すぎると思う!!」」
「…………はあ?」
『あの前置きの割に、内容なあまりシリアスではなさそうだな』
だが面白そうだな、と、スイッチは内心思った。
「やっぱお前もそう思ってたか」
「そういう君もな」
「ちょ、ちょい待ちぃ!
アンタら、一体なんの話をしようとしてん?」
『(とても面白そうなので)俺たちも混ぜてくれないか』
遠巻きに見ていた二人であったが、ボッスンと椿の会話が気になったらしく
とうとう話に割って入ることにした。
「ヒメコ、スイッチ……
それがだな……」
「最近、先生と安形会長がやけに親密そうにしているんだ」
ヒメコの問いかけに答えたのは、椿だ。
「へえ〜、そら良かったやないの!
センセーあないええ人やのに、そういう相手おらん言うてたからなぁ」
「「いいわけあるか!!」」
「あ、……あー! そーいやお前ら……」
『二人揃って先生に惚れているんだったな』
「もーなんやの? 双子ってこういうとこまで似るん?」
……そう。
実はボッスンと椿は実の兄弟――双子なのであった。
「だあー! 今はそんなことどーでもいいんだよ!」
「そうだ! 今、重要なのは、先生と会長がどういう関係なのかだ!」
「どういう関係って……そらたぶん、」
『ヒメコ』
「ああ……すまんすまん」
付き合うてるんとちゃう? と言おうとしたヒメコだったが、
スイッチに止められその言葉は飲み込むことにした。
「とにかく、だ!
先生と安形がどういう関係なのか、調べないとな」
「ああ、そうだな。
だが一体どうすれば……」
こんな話題で真剣に考え込んでしまう二人。
「やっぱり双子なんやなぁ」と思いながら、ヒメコはその様子を見ていた。
『当人の居ないところで考え込んでいても、仕方ないだろう。
ここは、先生に直接聞いてみるのが一番じゃないだろうか』
考え込む二人に、少し間を開けてスイッチがそんな提案をした。
「そ、そんなこと出来るか!」
すぐさまそう言ったのは、顔を真っ赤にした椿。
「まあ、ちょっと聞きづれぇけど……
確かに、一番確実ではあるな」
対するボッスンは、スイッチの提案に割と乗り気である。
「だ、だが、藤崎!
そんなことを聞いて、先生が気を悪くしてしまったらどうする」
「うーん……
先生は、そういうタイプじゃねぇと思うけど」
「そやな……あの先生は、そないなこと気にするタイプやないで」
『ああ』
ボッスンの言葉に同意する、ヒメコとスイッチ。
椿は、しばし悩んだものの……
最終的に、「直接聞いてみる」作戦をボッスンと共に実行することにした。
「じゃ、ヒメコ、スイッチ!
オレらちょっと、先生のとこ行ってくるわ」
「邪魔をしたな。失礼する」
「おー、頑張ってきぃ!」
『報告も頼むぞ』
そうして、二人はスケット団の部室を出ていった。
「……にしても珍しなぁ、スイッチ。
お前があない直球な意見出すやなんて」
『ハハハ、一番面白そうな案だと思ってな』
「自分が楽しむことしか考えてへんのかいな!」
ヒメコのツッコミに対し、スイッチは「ハハハ」と機械的な笑いで返すのだった。
『それより、俺たちも行くぞ、ヒメコ』
「は?」
『決まっているだろう、ボッスンと椿の尾行だ』
「おお! ほなら行こか!」
「……あっ! 居た!
先生〜〜!!」
「…………ボッスン? と、佐介くん?」
廊下を歩いていた彼女を見つけ、ボッスンが声を掛けた。
「突然申し訳ありません、先生」
「いや、それは大丈夫なんだけど……どうかした?」
「ちょっと先生に質問があってさ〜」
ここじゃ何だから、と言って、ボッスンは近くの空き教室に彼女を誘導する。
「それで? 聞きたいことって?」
「それが、ですね……
先生は、その……」
空き教室に入り、適当な席についた三人。
彼女に問われ答えようとするものの、やはり聞きづらくて椿は口ごもってしまう。
「単刀直入に聞くけどさ……
先生って、安形と仲いいよな?」
「ふ、藤崎……!」
だが、葛藤する椿をよそにズバッと質問するボッスン。
いざというとき頼りになる彼らしいと言えば、らしいのかもしれない。
「え? 安形くん?」
「そ。なんか先生、最近よくアイツと一緒に居るな〜って思って」
ボッスンにそう言われたが、当の彼女は「そうかなぁ」などと言っている。
「そ、そうですよ、先生!
ボクも藤崎と同様、先生が会長と一緒のところを最近よく見ます」
ボッスンに負けじと、椿も続けた。
「おー! 偉い偉い!
椿もよう聞けたやないか!」
『さて、対する先生の答えが気になるところだな』
……そしてこちらは、覗き見・二人組である。
「うーん……よく一緒に居るって感覚は無いんだけど、
頼りやすいって思ってるところは、あるかなぁ」
「頼りやすい……ですか」
「うん!
もちろん安形くんのほうがだいぶ年下なんだけど、『お兄ちゃん』って感じ!」
「お、お兄ちゃん?」
彼女の言葉に対し、困惑気味のボッスン。
言葉にはしていないが、隣に居る椿も同じような反応だ。
「あたし、お兄ちゃん気質の人ってホッとするから
一緒におしゃべりするの好きなんだよね〜!」
「え? 何なの?
もしかして先生が、最近よく安形と一緒に居るのって……」
『どうやら、これが理由のようだな』
彼女に聞こえないように、二人は小声でそう言い合った。
「なんや〜、期待しとった分ちょい物足りひんなぁ」
『もう少し「波乱」が欲しかったところだな』
「聞きたいことって、それだけ?」
「あ、ああ! まあ、そうだな」
「じゃあ、あたし人を待たせてるからもう行くね」
「お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」
大丈夫だよ、と笑った彼女は、空き教室を出ていった……のだが。
「おう、。こんなところに居たのか」
「安形くん!
ごめん、もしかして待たせた?」
「「…………ん?」」
「いーや、そこまで待ってねぇよ。
ただ、時間に正確なあんたが集合時間に来ないってのが引っかかってな。
捜しに来たんだ」
「そっか……
ごめんね、わざわざありがとう」
「おい、今の声は……」
「会長……!!」
即座に気づいた二人が、慌てて廊下に出ると。
「気にすんな。それじゃ、図書室に行くか」
「うん!」
そう言い合った二人が、歩き出すところだった。
「会長……」
「あいつ、また先生と……」
ただ彼女と安形の背中を見送るしかない二人。
そのまま、二人は図書室に行くのかと思いきや……
“残念だったな”
「「…………!!」」
顔だけこちらを振り返った安形が、口パクでそう言ったのを
ボッスンも椿も見逃さなかった。
「安形ぁぁぁーーー!!!!!」 「会長ぉぉぉーーー!!!!!」
「え、何やの、この展開!」
『これはこれで面白そうだな』
ボッスンと椿の二人が悔しさのあまり叫びだす中、
ヒメコとスイッチはこれからの展開を想像し楽しまずにはいられなかった。
双子の奮闘物語はここから始まる……かも
(そもそもアイツ、なんで先生のこと呼び捨てにしてんだ!?)
(ボクが知るか! だが羨ましい……!!)