『明日は数年ぶりに、先生たちと会ってくるね』
彼女が電話越しにそう言ったのは、昨夜のこと。
少し気になった俺は、仕事帰りに迎えに行こうと思い
そのときさり気なく店の名前を聞き出していた。
「あー、かるまくんだぁ〜。
どうしてここにいるのぉ?」
そして店に着き、目的の人物を探すと。
今までに見たことがないくらい、酔っ払っていた。
……元々、酒はそこまで飲めないはずだから、
自分からこんなに飲んだとは考えられない。
「ねぇ、ビッチ先生さぁ……
どういう理由でこうなったわけ?」
「別に、どうもこうもないわよ」
原因は何かと考えれば、この人しか居ない。
そう思った俺は、すぐに問い詰めたけれど。
当のビッチ先生は、しれっと言い放つ。
「この子が最近よく眠れないって言うから、
そういうときは酒の力に頼ればって言ったのよ」
「最近、眠れない……?」
そんなこと、昨日は言ってなかった……。
電話越しの声も、普通に元気そうだったし。
「何よ、あんた気づいてなかったの?
あたしたちなんて、この子の顔色見てすぐ解ったわよ」
「…………最近、会ってなかったから」
……そうだ。
最近仕事で慌ただしくなって、彼女と会えてなかった。
電話は頻繁にしていたけど、
もちろんそれじゃあ顔色は解らない。
それに彼女は……ムカつくけど、
元気なふりをするのが得意だった。
「……ああ、カルマくん。
俺がついていながら、すまなかった」
「烏間先生」
俺が来てから、ずっと姿が無かった烏間先生が戻ってきた。
どうやら、会計を済ませに行っていたらしい。
「ここはもう大丈夫だから、君は彼女を送ってやってくれ」
「解りました。
……ほら、先生。立てる?」
「う〜ん……」
俺が差し伸べた手をとって、彼女はゆるゆると立ち上がった。
どれだけ飲んだのかと思ってたけど、足取りはしっかりしている。
……やっぱり元から強くないから、少し飲んだだけみたいだね。
「タクシーを呼ぼうか?」
「いえ、この足取りなら歩いて帰れそうなんで」
彼女の家はここから近いし、タクシーを呼ぶまでもない。
そう思って、俺は烏間先生の申し出を断った。
「それじゃ先生方、失礼しまーす」
「ああ、気を付けてな」
「カルマ」
そのまま歩き出そうとした俺を、ビッチ先生が引き留める。
「その子がちゃんと意識のあるときに、
話を聞いてあげなさいよ」
「…………解ってますよ」
ビッチ先生の言葉に、俺は彼女を一瞥してからそう答えた。
「からすませんせー、いりーなせんせー、さよーなら〜」
「ゆっくり休むんだぞ」
「また飲みましょうね、」
「はぁ〜い」
「行こう、先生」
「はぁ〜い、かるまくん」
「先生、家に着いたよ。鍵は?」
「う〜ん……かぎは、ばっくのなか〜」
相変わらず呂律は回っていないけど、
俺の言葉はちゃんと伝わっているらしい。
バックの中から、迷わず家の鍵を取り出した。
「じゃあ、ここに座ってて。
今、水持ってきてあげるからさ」
「はぁ〜い」
他のやつ相手だったら、
こんなかいがいしく世話してやらないんだけど。
相手が彼女だから、仕方がない。
「全く……」
そんなことを言いながら、俺はきっと
ずっと彼女には敵わないんだろうな、と思った。
「はい、先生。水ね」
「ありがと〜、かるまくん」
笑顔で水を受け取った彼女は、それを少しずつ飲む。
「……えへへ」
「何? なんか嬉しそうだね」
「うん。だって、かるまくんにあえたから」
「……!」
あーあ……
やっぱ、それが寝不足の原因だったか。
「……ごめんね、先生。
でも、今日までで仕事もひと段落ついたから」
これからは、もっと頻繁に会えるよ。
「ほんとう?」
「ホントだよ」
「そっかぁ……えへへ」
そうしてまた、彼女は嬉しそうに笑った。
「明日は仕事も休みだし、今日はずっと一緒にいるから」
「うん!」
というか、仕事だったとしても
こんな状態の彼女を一人にできないしね。
「また明日……ゆっくり話をしようね、先生」
「うん、あしたも、かるまくんといっしょ」
そう言って、先生は夢の中へと落ちて行った。
〜翌朝〜
「ぎゃあーーー!!」
彼女の叫び声が、部屋に響き渡る。
「何? どうしたのさ、先生。
朝からうるさいんだけど」
「いや、『どうしたの』じゃないよ!
なんでカルマくんがうちに、というか隣で寝てるの!?」
「もう何言ってるの?
昨日一緒に帰ってきたじゃん」
「え、一緒に? いや、昨日は……
烏間先生とイリーナ先生と飲みに行って、
いろいろしゃべって……」
…………。
「……あれ? その後、どうしたんだっけ!?
全然記憶がない……!」
「ふうん……
じゃあ先生、あのことも忘れちゃったんだ」
「あのことって何!?」
「朝からそれ聞いちゃう? 先生のエッチ」
「ええっ!?」
こういう反応するから、かわいくて仕方がないんだよね。
「ごめん、冗談だよ、先生」
「えっ!」
「それより……」
「……?」
俺は先生の顔に手を伸ばし、そっと頬に触れる。
「顔色良さそうだね。よく眠れた?」
「……!
……イリーナ先生に聞いたの?」
「うん」
一瞬「しまった」という顔をしたものの、
彼女はすぐ笑顔になる。
「カルマくんの、おかげかもね」
「そうかな」
「うん!」
そう言って本当に嬉しそうに笑うものだから、
俺もつられて笑ってしまった。
やっぱりそろそろ ちゃんと考えようかな
(彼女とずっと、一緒に居ることを)