「おはよー!」


          バンッ、という大きな音を立て、部屋の扉は開かれた。
          「こんな朝から一体誰だ」と考えそうになって、すぐにやめる。

          何故なら、こんな突拍子もないことをする人物は限られているからだ。
          兄さんか、もしくはもう一人……

          今のは女性の声だったから、必然とその「もう一人」のほうだということになる。















          「……こんな朝からどうしたんです、さん」


          ドアのほうに目をやると、予想した通り
          同級生で祓魔塾では教え子でもあるさんの姿があった。







          「うん、すごいんだ、雪!」

          「は?」

          「いいから、来て! 雪、すごいからさ!」


          訳が解らず動けずにいる僕の手をとり、彼女は寮の外へ向かって走り出す。







          「ちょ、ちょっと、さん……!」


          若干強引なその行動には、慌てずにはいられない。

          ……実際僕のほうが力が強いのだから、嫌ならば手を振りほどけばいい。
          だけど、それが出来ないのは……僕が、彼女に弱いからということに他ならないのだ。

          そんなことを考えこっそりため息をつき、導かれるがまま寮の外へ出た。















          「ほら、見て! すごいでしょ!!」


          寮の外へ出ると、辺り一面に銀世界が広がっていた。







          「これは……」

          「すごいよね!」


          僕のつぶやきに、嬉しそうに返した。

          確かに、夜中から雪が降り出すという予報が出ていたな。
          どうやらその予報の通りになり、ここまで積もったらしい。

          まだ朝早く今日は休日ということもあってか、
          積もった雪はまだ綺麗な姿を保ったまま。
          ……ただ、彼女の足跡らしきものだけは残っていたけれど。















          「すごく綺麗に積もってたから、雪男に知らせようと思ってさ!」

          「そう……ですか」


          だから「雪、すごい」とずっと繰り返していたのか。
          一瞬、名前を呼ばれているのかとも思ったが……

          だが彼女は、僕を「雪男」と呼ぶのだ。
          そうではないな、と、冷静になれば解ることだった。







          「綺麗だよね」

          「ええ……」


          ――本当に、綺麗ですね。
          この銀世界を「綺麗」と言って、優しく微笑むあなたが。







          「え?」

          「え、あ、いや、その……!」


          心の中だけでつぶやいたはずが、いつの間にか声に出ていたらしい。
          少し驚いた顔をしながら、彼女は僕を見つめる。

          何か言わなくては、と思うのだが、そうするとかえって何も出てこなくなる。
          単に「ええと」とか「あの」などと繰り返すだけだった。


          ……けど、僕のこんな心中など、きっと彼女にはお見通しなのだ。
          僕がしどろもどろになっている間ずっと、その優しい笑みを絶やさず見つめてくるのだから。

          僕は観念して、その話題について何か言及するのをやめた。















          「そ、それより、さん!
           こんな寒い中を、いつまでもそんな薄着で居たら風邪をひきますよ」


          そろそろ寮へ戻りませんか、と言うと、名残惜しそうにしながらも
          「そうだね」と言って寮へ歩き出した。







          「けど、せっかく雪降ったんだからさ、あとで雪だるま作りたいよねぇ」

          「さん……そんなことしたら、ますます風邪をひきますよ」

          「じゃー雪合戦!」

          「大して変わりませんから」


          ぴしゃりと言い放つと、少し不満そうな顔をしながら「ケチ雪男」とつぶやく。










          「いーよ、もう。
           雪男は放っといて、燐と一緒にかまくら作ってやるんだ!」


          結局は雪だるまでも雪合戦でもないのか!

          そんなことを言いたくなったが、もはや自由奔放なこのひとには意味をなさないだろう。
          そう思い、僕はその言葉を飲み込むことにした。















          「そういえば、さんの言葉で思い出しましたが……
           兄さんは一体どこへ行ったんです?」


          確か、彼女が部屋にやって来たときには、既に兄さんの姿はなかった。
          だからと言って、寮の中に居るような気配もない。

          雪の降り積もる景色を見るために、寮の中と外を行き来していた彼女なら、
          兄さんの居場所を知っているかもしれない。
          そんな考えからきた問いだった。







          「燐なら、クロと一緒に雪で遊んでる」

          「遊んでる? 一体どこで……」

          「屋根」

          「屋根!?」


          まったく、何をしているんだ兄さんは……。

          心底のん気な兄の行動に、僕は頭をおさえたくなった。















          「ねえ、雪男」

          「なんですか?」


          寮に向けていた足を止め、彼女がふいに僕を呼んだ。
          そして、銀世界を振り返りながら、言う。







          「やっぱ雪だるま作るか雪合戦か、どっちかやりたいんだけど……」


          ――駄目かな。

          あまり見せることのない哀しそうな顔で言うので、僕は少し焦った。
          けど、なんとなく……彼女も無意識なんだろう、と思う。

          他人に弱さを見せるのを、好ましくないと考えるひとだから。















          「……解りました、雪だるまなら許可します」

          「ほんと!?」

          「ええ」


          たとえ無意識だとしても、これ以上彼女にそんな表情をさせたくない。
          そう思い、ためらいはあったものの了承の意を口にした。

          ちなみに、雪合戦のほうを却下した理由は簡単だ。
          万が一彼女が怪我をするようなことがあれば、悔やんでも悔やみきれないから。







          「ただし、いったん寮に戻ってしっかり防寒してきてからですよ」

          「いえっさー!」


          僕の言葉に、嬉しそうに笑ってくれた。
          ただ、それだけのことが、僕も嬉しかったのだ。
















          「ねー、もちろん雪男も、一緒に雪だるま作ってくれるよね?」

          「……そうですね。
           あなたをひとりにしては、時間も忘れてずっと雪だるまを作っていそうですから」

          「なんだと!?
           いや、でもそれは否定できないかー……」


          僕の言葉に一瞬は反抗したものの、自覚があるのか完全には否定できないでいた。

          面と向かっては言えないけれど……
          そんな風に、自分をしっかり見つめているところ、本当はすごく尊敬しているんだ。


          ……簡単なようで難しいそれを、さらりとやってのける。
          僕が彼女に惹かれる理由の、一つだった。










          「と、とにかく、あったかい格好して早く雪だるま作るよ!」

          「はい」


          彼女の言葉に返事をしながら、
          先ほどからずっと繋がれていた手に僕は少し力を込めた。






























雪が積もる寒い朝に感じるぬくもりを



(僕がこの手で、ずっと守ってゆきたいんだ)























































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            青エク書きましたよー!(何
            劇場版を見に行って、また青エク熱が来ました。やばいです。

            しかも最初ひたすら燐押しだったのに、今かなり雪男にハマってますからね。(え
            いや、なんてゆうか……キャラソンが良すぎた。歌詞がいい。
            韻を踏んでいて素晴らしいですよね。作詞家の方、素敵すぎる!

            そんなわけで、雪男で書いてみたくなりました。
            こないだけっこう雪が降っていたので、雪ネタで。雪男だし。(安易


            雪男で原作沿い書いてみたいな!
            てか、映画に沿って書いてみたいです!
            劉さんと絡みたい!全てが好みすぎる……!(そこかよ