『今だって……俺がいるだろ…………?』
今この時に誰かがそばにいてくれること……
それが、あたしにとってどんなに嬉しいことか、
それがよく、解った気がした。
新たな暮らしが始まる日――第五話 君という名の刀に
ピカッ……
「ん……」
まぶしい……朝、かな……?
「…………アレ?」
ここ……あたしが貸してもらった部屋じゃない、よね。
どこだろ…… …………ん?
「土方、さん?」
どうして……
……って、もしかしてここ、土方さんの部屋!?
「そして、
何故か土方さんの布団を奪っちゃったってこと……!?」
意味解んないんですが……!
「…………あァ、起きたのか」
「……!」
目をつぶって壁にもたれかかってたから、
眠ってるのかと思ってた……!
「よく眠れたか?」
「え、あ、ハイ……」
それはもう、ぐっすりと……。
「……なら、いい」
「……? あ、あのう、土方さん……」
「何だよ」
「あたし……何故ここに……?」
どうして土方さんのお部屋に……?
「…………覚えてねェのか?」
「え?」
「昨日……外に出ようとしてただろう」
「外に……」
“嫌だ……行かないで…………!!”
「……!」
そっか、あたし……
また嫌な夢を見て、混乱して外に出ようと……
『待てっつってんだろ!』
だけど土方さんがそれを止めてくれて……
『一人にしないで……!』
「……!!」
あ、あたし……
そのまま勢いで土方さんに抱きついちゃった……!?
「……お前は泣き疲れて寝ちまったんだよ」
えっ! また……!?
「お前が泊まってる部屋なんて知らねェし……
探すのも面倒だったから、俺の部屋に連れてきたんだ」
「そ、そうですか……」
運んでもらった上に布団を奪うとか何やってんの、あたし!!
「ごっ、ごめんなさい、土方さん!」
「別に……大したことねェよ」
「でも……」
迷惑かけてばっかりなのに……
「気にすんな。いつまでも気にされると逆に疲れる」
「えっ、すみません! じゃあ、もうこの話はやめます!!」
そっか、いつまでもグダグダ言ってる方が嫌なんだな……
「……。(バカ正直な女だな……)」
「あ、あの、土方さん」
「何だ」
「その……
あたしが泣いてたこと、誰にも言わないで下さいね?」
「は……?」
泣いてるなんてこと、本当は誰にも知られたくないから。
「昨日大泣きしてすっきりしたし、
今日は元気いっぱいで行きますから」
「だが……(せめてには……)」
「秘密にして下さい……ね?」
「…………黙ってりゃいいんだろ」
「はい」
ずっと落ち込んでなんかいられないこと、
あたしが一番解ってるんだ。
「土方さん、ほんとに色々とありがとうございました。
あたしは失礼しますね」
「あァ……」
……。
…………。
「本当に変な女だな……」
「ごちそうさまでした〜!」
朝ごはんもおいしかったな。
「そーいえばお姉、銀時はいつ来るの?」
「うん、午後だって言ってたよ」
「そう」
だから午前中は空いてるんだよね。
「ま、好きなように過ごすといいよ。
は、午前中は見回りだから行ってくるけど」
「気をつけてね」
「うん」
さ〜て、何をしようかなぁ……
「…………あっ、そうだ!」
「ありがとう、助かるわァ〜」
「いえ、あたしが言い出したことですから」
朝ごはんを食べ終わったあたしは、
お世話になりっぱなしなのも申し訳なくて
女中さんのお手伝いをすることにした。
「ちゃんもよくこうやって食器洗いを手伝ってくれるんだよ」
「も……」
「そうだよ。いい妹さんだねェ」
「そ、そうですか?」
「あァ、そうさ」
そんな風に言ってもらえるなんて、嬉しいな。
「ちゃん、
悪いんだがこっちも手伝ってもらえないかい?」
「はい、ぜひ!」
「ん……?」
あの女は……。
「あら、土方さん。どうかされましたか?」
「あァ……悪りィが茶を頼む」
「はい」
…………。
「……なァ」
「はい、何です?」
「あの女は何してんだ?」
「ちゃんのことですか?
あの子、私たちの手伝いをしてくれてるんですよ」
手伝い……?
「ちゃんといい、ホントにいい子ですよねェ」
「…………」
『あたしが泣いてたこと、誰にも言わないで下さいね?』
なんでだ……
「なんでそんなに強いんだよ……」
昨日はあんなに大泣きしていたクセに、
それを微塵も感じさせねェ……
弱いのかと思いきや、強い。いったい何なんだ……。
「土方さん、お茶入りましたよ」
「あ、あァ……悪りィ」
「いえいえ」
「ちゃん、それこっちだよ」
「え、ほんとですか!? すみません……!」
「あはは、いいよ気にしなくて」
……か。
この俺がたかが一人の女にここまで考えさせられるとは……
「…………まァ、いい」
あの女が隠していたものも、割とすぐに解った。
なんで強いのかなんて、そのうち解んだろ。
そんなことを考えながら、そのときの俺はその場を去った。
そして、仕事も一段落し湯のみを台所に返しに行くときだった……
再びあの女の声が聞こえたのは。
「退くんも大変だなぁ……
でも、真選組っていいとこだよね」
「そう……かな?」
「うん!」
「一緒にいるのは山崎か……」
「ってか、俺ばっかりグチちゃってごめんね……!」
「ううん、大丈夫」
「ちゃんは、何か悩みとか無いの?
上手くアドバイス出来るか解らないけれど、
聴くくらいなら俺にも出来るよ」
「うーん、そうだなぁ……」
あの女の悩み、か……。
『置いていかないで……』
「…………」
「たぶん、悩みは数え切れないくらいあるんだろうね」
「えっ……」
「泣きたくなるときも、いっぱいあるんだ。
でもね、それでもあたしは強くありたいと、そう思うんだ」
「ちゃん……」
「…………」
「……なんてね。今の悩みというか、心配なのは
新八くんや神楽ちゃんと仲良くなれるかなぁってことかな?」
「……大丈夫だよ、ちゃんなら」
「そうだといいな」
「強くありたい、か…………」
あの女が弱いようで強いのは、“強いから”じゃねェ。
弱いことを自覚しながら誰よりもあの女自身が
“強くありたい”と思っているからだ。
「いつ折れるとも知れねェ刀だな……」
だが、それでも“”という名の刀に
興味を持っている自分がいることを、俺は自覚していたのだった。
To Be Continued...「第六話 惹かれる僕に気が付いた」