「ごめん、お姉。、江戸に行くよ」

          「えっ……なんで……?」

          「真選組に入隊することになった」

          「…………」


          幕臣になることは妹の夢だった。

          そうやって、誰かのためになる仕事をしたいんだって
          いつもいつも言っていた。





          「お姉も江戸に来れればいいんだけど、
           残念ながら今のうちらにはそんなお金がない」


          そう、あたしたちの経済状況は良くなかった。

          数年前に両親を亡くしてから、それはずっと続いている。
          幕臣だとお給料もいいと、そういう考えも妹にはあったようだ。






          「だから、お姉はここに残って」

          「で、でも……!」

          「お給料が出たら送るよ。
           きっと、そのうち経済状況も安定してくる」

          「でも、あたしは……!」

          「…………ごめん」

          「……!」


          その“ごめん”には、色々な意味が含まれていると、
          そのときのあたしは理解できたのだった。
























          「行って、らっしゃい」

          「お休みが取れたら、帰ってくるね」

          「うん……待ってる」


          そうして妹は行ってしまった。


          ……本当は一人にしてほしくなかった。

          強がっているけれど、
          あたしは一人だと淋しくて仕方がない人間なのだ。






          「だから、行ってほしくなかったのに……」


          でも、妹の夢を潰すなんて、あたしには出来ない――……




















僕の前に現れた君――第一話 僕の前に現れた君































          「こんにちは、おばさん」

          「やあ、ちゃん、いらっしゃい」

          「今日の依頼は何ですか?」

          「今日はね、ちょっとうちの店番をしていてほしくて」


          妹が江戸に行ってからおよそ二年が経った。

          あたしは、前々から万事屋として働いていて、
          今もそれで生計を立てている。

          最近やっと経済状況も安定してきたのだ。
          (もしかすると、妹は自分が出て行くことで
           あたしの生活を安定させようとしたのかもしれない)






          「お店番ですか、解りました!」

          「悪いねェ。ちょっとの間だけでいいんだよ。
           今日、うちの子の担任の先生と面談しなきゃならなくて」

          「学校の先生とですか……
           それは、ちゃんと参加しないとダメですよ」

          「そう言ってくれると助かるよ。じゃあ、すぐ戻ってくるからね!」

          「はい!」


          あたしは、悪事以外のことならば、大抵はこなしていた。

          報酬も、もちろんお金が一番いいのだけれど、
          それ以外のものを頂いたりもした。
          (八百屋さんなら野菜とか、魚屋さんなら魚とか、
           みんないろんなものを報酬としてくれるのだ)






          「でも、それはそれで嬉しいかな……」


          新鮮な食材ががもらえるんだものね。






          「……さて、お店番、頑張らなきゃ!」















          「あ、ちゃん!」

          「八百屋のおじさん! こんにちは」

          「こんちは! 今日はここの店番かい?」

          「はい! 
           おばさんが、お子さんの学校の先生と面談するそうです」

          「なるほどねェ」


          万事屋としてみんなの手伝いをすることもあってか、
          今では大抵の人とは顔見知りになっていた。

          年齢層は幅広いけど、仲良くしてくれる人もたくさんいる。







          「今度うちの店番も手伝ってくれよ」

          「はい、ぜひ!」

          「はは、いい返事だ。
           じゃ、俺も店に戻るとするかァ」

          「頑張ってくださいね」

          「ちゃんもな」


          一人だと淋しいという思いはまだあるけれど、
          今ではこうして仲良くしてくれるみんながいるから
          そこまで淋しさは無い。






          「だけど……」


          やっぱり、1年前に江戸に行ってしまった妹に
          会いたくなってしまうこともあるんだ……



          今は何をしているの…………?








          「…………」


























          「ちゃん、こんにちは」

          「郵便屋さん、こんにちは!」

          「はい、これ。郵便だよ」

          「あたしにですか?」


          何だろう……


          ……!



          から……?







          「じゃ、確かに届けたよ」

          「は、はい、ありがとうございました!」


          からの手紙……







          「どうして、突然……」


          二年間、何も無かったのに……


          そんなことを思ったけど、
          あたしはその手紙を開いてみることにした。















          “お姉へ

            二年も、何も連絡しなくてごめん。
            真選組に入って初めの頃だから
            仕事に集中したかったんだ……。

            二年経って、ようやく慣れてきたよ。
            真選組のメンバーは色々と濃いけど
            それなりに楽しいし。”















          「そっか……」


          良かった、ったら上手くやれてるみたいだね。




          “それとさ、こっちで面白い奴を見つけたんだ”




          「面白い……やつ?」


          どんな人なんだろう……。




          “そいつもお姉と同じ万事屋なんだ。
           名前は坂田銀時っていうんだけど”




          「へぇ……」


          あたしとおんなじ万事屋やってるんだ……。

          あのが興味持つくらいなんだから、
          きっと何かを持ってる人なんだろうな。










          「ちょっと会ってみたいかも…………」


          坂田……銀時…………





















          「よォ、君がちゃんだよな?」

          「えっ……?」


          誰……?







          「あなた、は……?」

          「あっれ〜、から聞いてなかった?
           俺は江戸で君とおんなじ万事屋やってるんだけど」

          「え…………」


          
名前は坂田銀時っていうんだけど



          ……あっ!







          「もしかして……坂田、さん?」

          「嫌だなァちゃん、銀さんでいいって。
           これから一緒に住むんだしな」

          「は、はい……」


          …………ん?
          これから一緒に住む……?







          「って、どーゆーことですか、一緒に住むって!?」
 
          「どーゆーことって……から連絡来てるっしょ?」

          「えっ?」


          から?
          そんなの何も……












          「んだよ、の奴、連絡入れとくとか言ってたくせによォ……
           間違って来ちゃった人みたいで、銀さん恥ずかしいじゃねーかオイ」


          と、坂田さんが何やら言っているけど、
          でも、ほんとにから連絡だなんて……


          ……!
          そうだ、さっきの手紙、まだ最後まで読んでなかった……!







          「…………」





          “お姉も銀時に会ってほしくてさ、
           、そいつに依頼しといたよ。

           故郷でお姉と一ヶ月一緒に暮らしてくれって
           言っといたんだ。そのうち来ると思うから、
           そんときはよろしく。”















          「ええっ!?」


          ー!
          そういうことは、もっと早くに連絡してよ!!
          (てか、それだけはメールしてくれても良かったじゃん!)



















          「なァ、ちゃん」

          「は、はい?」

          「ちゃんも知らなかったみたいだし、
           からの依頼はあるけど俺もう帰った方がいい?」

          「あ、いえっ……
           からの連絡は、この手紙にちゃんとありました!」

          「マジか! 良かったよォ、連絡来てて」


          その連絡するタイミングがズレていますけどね……。


          でもあのがこの人を認めて、
          そしてこの人に依頼までしたんだ……

          きっと何かを持っているのは違いないと思う。







          「……あの、」

          「ん?」

          「その……これから一ヶ月、よろしくお願いしますね、坂田さん」

          「あァ、よろしくな。
           それと、さっきも言ったけど“銀さん”でいいから。
           敬語も堅っ苦しいから使わないでオッケー」


          何だか、ほんとに面白い人かも……







          「解った、よろしくね、銀さん!」

          「……! 
           お、おォ、よろしくなァ〜」


          まだ銀さんのこと全然つかめないけれど、
          がよこした人だもの。

          どんな生活になるのか、楽しみだね!


















          To Be Continued...「第二話 あの日の思い出と今この時