「ねぇ、銀さん。夕飯の材料、買いに行かない?」

          「あァ、いいぜ〜」


          一週間前、一緒に電車で出かけた日から、
          前よりもっと銀さんと打ち解けた気がする。

          でも、それもすごく嬉しいことだからね。



          先週みたいに電車で出かけるまでは無いにしても、
          ちょくちょく銀さんと出かけたりもしてるんだ。

          もちろんお仕事もあるから、一日中って訳じゃないんだけどね。




















僕の前に現れた君――第四話 君の持っているもの




























          「今日の夕飯は何にすんだ?」

          「うーん、今日はこないだのお仕事の報酬が良かったから、
           奮発して焼肉にでもしようかなって思って」

          「マジでか! 、太っ腹だな!」

          「大げさだってば」


          銀さんって、焼肉好きなのかな?




          
ガシャァァン!!









          「……!」

          「オイ、今の音……」

          「…………金物屋さんの方からだ!」


          何かあったのかもしれない!







          「行こう、銀さん!」

          「…………ったく、仕方ねェなァ」





















          「何言ってるんだい! ここはあたしの土地だよ!!」

          「残念ながら今日から俺たちの土地になったんだよなァ〜。
           つーわけだから出て行け」

          「いくら町長の許しが出たからって、あんたたち……
           どうせ町長を脅したんだろ! どうなんだい!?」

          「脅しただなんてとんだ言いがかりだな。ねェ、ボス?」

          「ハハッ、違いねェ」














          「おばさん!」

          「ちゃん!」

          「どうしたんですか、これは……」


          一体、何が……







          「どこの誰だか知らねェが、姉ちゃんは下がってな。
           今お兄さんたちはこのおばさんと大事な話をしてんだからなァ」
 
          「大事な話って……
           話をするだけで、こんなに店を荒らす必要はないはず。
           あんたたちがやってるのは、どう考えたって話し合いじゃない」

          「へェ、言うじゃねェか……素直に言うこと聞いてりゃ、
           部下として使ってやっても良かったんだがなァ……」


          こんな奴らの部下……?







          「そんなの、こっちから願い下げだよ!」

          「んだと、このアマぁ!!」

          「……!」


          すぐ殴りかかってくるのが、
          こういう奴らの悪いクセなんだよね……










         「!」

         「ちゃん!」


          銀さんとおばさんの声がしたけど、
          あたしはここから動くつもりは無い……







          「…………二人とも、伏せて!」



          ふわっ…………







          「何だこれ……風…………?(の周りに……)」




















          「…………――かざぐるま!!」




          
ビュオオオッ


          
ザザザザザッ









          「……!」





          「ぐああああ!!」


          ドサッ……














          …………。










          「、今のは……」

          「…………あたしの技なの。
           フォークを使って闘うのが、あたしのやり方なんだ」

          「フォークを……?
           (フォークであれだけの傷を付けたってのか……?)」


          こんな商店街のど真ん中で使いたくなかったのに……。






          「(フォークにこんな殺傷能力があるとは思えねェ……
            思えねェが、もしかすると神楽の傘みたいなものかもしれねーな……)」















          「……あたしに挑んでも無駄だよ。あんたたちじゃ勝てない」

          「くっ……」

          「この町から出て行って。そして、二度と来るな」


          この町の平和を、乱さないでよ……。






          「…………フッ、いきがっているのはいいが、
           この土地は既に契約して俺たちの物となっているんだ。

           お前が契約書を手に入れない限り、この契約は無効には出来ない」

          「……!」


          契約書……?
          そんなこと言われたって、一体どこに……











          「あー……契約書ってもしかしてこれのこと、お兄サン?」

          「……!」


          銀さん……!?







          「なっ……! お前、いつの間に!?

          「いつの間にって、あんたらがとしゃべってる間になァ〜〜」

          「なんで気づかねーんだ、このカス!」

          「す、すみません、ボス……!」


          銀さん……
          ここに来るまでは、めんどくさそうだったのに……







          “それとさ、こっちで面白い奴を見つけたんだ”






          やっぱり、が気にかけるだけのことはある人だ。
          会って間もないあたしにも、すごく優しいもんね……。













          「くそっ……この銀髪野郎、それを返せ!」

          「やーだねっ。これは俺からへのプレゼントだから」

          「ぎ、銀さんっ」

          「、どうする? この紙っぺら」


          …………。






          「ティッシュ代わりにしちゃっていいよ!」

          「よーし、じゃあ風邪気味だし鼻でもかむかァ」

          「なっ! やめろテメェ!!」

          「ちーん」

          
「ホントにかみやがったァァ!!!???」


          これで……










          「これで、あんたたちがこの土地の所有者だっていう証拠も無いよ」

          「ちくしょうっ…………」

          「さっさと出て行って。じゃないと、次の技をお見舞いするよ」

          「……! 覚えてろよ!」


          そんな捨てゼリフを残して、
          その人たちはそそくさと立ち去っていった。







          「…………ふぅ」


          やっと出て行ってくれた……。



















          「ちゃん、あんた……」

          「……おばさん、ごめんなさい」

          「え?」

          「おばさんのお店で買ったフォーク……
           あたし、そのフォークで闘っていたんです」


          闘うとは言っても、自分に危害が及んだときだけなんだけど……
          それでも、おばさんの大切な売り物を武器にするなんて……。







          「自分や、周りの誰かに危害が及ぶときだけ、
           フォークを使って闘っていたんです。

           おばさんの大切な売り物を……ごめんなさい」


          だから、こんな商店街のど真ん中で闘いたくなんかなかったのに……。












          「…………ちゃん」

          「……?」

          「あたしゃ怒ってなんかいないよ」

          「えっ……?」


          どうして……?







          「ちゃんは優しい子だからね。
           闘うと言っても、必要最低限のことだろう?」

          「それは……そうです、けど……」

          「だったら、あたしゃ怒る理由も思い浮かばないよ。
           ちゃんは、間違った使い方はしないだろうしさ」

          「おばさん…………」


          あたし……






          「あたし……ほんとにごめんなさいっ…………」

          「もう謝らない!
           あんまり謝ったらあたしゃそれで怒るよ?」

          「ええっ……?」


          そんな……。












          「…………もういいじゃねーか、
           土地も取り戻したんだしな」

          「銀さん……」

          「ああ、その通りだよ、ちゃん。
           ホントにありがとうねェ」

          「……!」




          “ありがとう”















          『ねぇ、! あたし、万事屋をやってみようと思うんだ!』

          『は? なんで急に……』

          『色々な仕事も体験できるだろうしさ、それに……』

          『……?』

          『あたし、みんなに“ありがとう”って言ってもらいたいんだ。
           だから、万事屋をやることにする!』

          『…………ふーん、いいんじゃないの?』








          ……やっぱり“ありがとう”って
          言ってもらえるの、嬉しいよ。

          あたし万事屋で……この町に住んでいて、良かった……。








          「大丈夫か、ちゃん!」

          「怪我は無いかい!?」

          「あ、八百屋さんと肉屋さんのおじさん……」


          来てくれたんだ……






          「すまねェ、俺たちが町の集まりで出払っちまってて!
           ちゃんに加勢することも出来ねェで」

          「そんな……大丈夫ですよ」

          「けど、金物屋も荒れちまったな……
           いっちょみんなで片付けるか!」

          「そうだな! な、ちゃん?」

          「はいっ!」















          「…………あんた、ちゃんとしばらく一緒に住んでるんだろ?」

          「まァな〜」

          「ちゃん、どうだい? 少しは元気になったかい?」

          「…………なったんじゃねーの」














          「ちゃん、それ、こっちの棚だぜ」

          「あ、はーい!」










          「ちゃんはいつも元気だし、
           みんなのために頑張ってくれてるけど、
           やっぱりちゃんが居た頃とは変わっちまったんだよね……」

          「…………」

          「それを必死に隠してるんだろうけどさ、
           あたしたちは解っちまうのさ」











          「そういえばおじさんたち、ご自分のお店は大丈夫なんですか?」

          「あー、心配ねェよ、なァ?」

          「あァ、大丈夫だ」











          「なんとかしてやれねェかって悩んでいたとき……
           ちゃんが向かわせたっていうあんたが現れた。

           ちゃんは、ホントに嬉しかっただろうねェ」

          「…………」

          「最近、あたしらでも見たことのない顔で笑ってるんだよ。
           だからあんた、ここにいる間だけでも、
           あの笑顔を守ってやってくれよ」

          「…………あァ。
           俺は……の、本当の笑顔が……見てェ」





          「…………そうかい。さて、あたしも片付けに行くかね。
           なんてったって、自分の店なんだからさ」







          「…………」


          お前には、人を惹き付ける力があるんだな……。
















          「なァ、ちゃん」

          「あ、おばさん」

          「あの銀髪の男、なかなかいい奴じゃないかい」

          「え……?」


          確かにあたしもそう思いますが……。







          「ああいう人間と知り合ったら、一生大切にした方がいいよ」

          「……! ……はい、解りました!」

          「うん、いい返事だ!」

          「あはは」


          ねェ、銀さん。
          ここに……あたしのところに来てくれて、ほんとにほんとにありがとう。







          「……銀さんに依頼してくれて、ありがとね」


          誰にも聞こえないように、あたしはつぶやいた。















          To Be Continued...「第五話 雨をさえぎる一つの傘