「はぁ…………」


          銀さん、あと三日で江戸に帰っちゃうんだよね……






          「淋しくなっちゃうなぁ…………」




















僕の前に現れた君――第五話 雨をさえぎる一つの傘




























          …………だけど、ずっと落ち込んでなんかいられないよね。
          今日は依頼も来てるから、頑張らなきゃ!







          「銀さん、あたしちょっと仕事行ってくるね」

          「あァ、気をつけて行ってきなさーい」

          「はーい」


          この妙なやり取りにもずいぶん慣れたなぁ……
          …………っと、そろそろ行かないとね。



















          「あ、こっちよ、ちゃん!」

          「あっ! こんにちは!」

          「ええ、こんにちは」


          今日は、二人のお子さんを持つお母さんからの依頼なの。







          「それで、今日はどんな依頼ですか?」

          「えぇ……ちょっと、この子たちの面倒を見ていてほしいの。
           久しぶりに友人みんなで集まって食事でも、ってことになってね」


          なるほど……。






          「その間だけで大丈夫なのよ」

          「解りました、お引き受けしますね!」

          「本当? 助かるわ、ありがとう」

          「いえ」










          「じゃ、二人ともいい子にしてるのよ?」

          「「はーい!!」」


          子どもって可愛いなぁ♪






          「今日はねーちゃんが遊んでくれるの?」

          「うん、そうだよ」

          「おねーちゃん、わたし公園で遊びたい!」

          「僕もー!」

          「よーし、じゃあ公園に行こうか!」

          「「わーい!!」」




















          「ちゃん、ご苦労様!
           ごめんなさいね、少し遅くなってしまって」
 
          「いいえ、大丈夫ですよ!
           あたしも、この子たちと遊ぶの楽しかったですから」

          「そう言ってもらえると嬉しいわ。ありがとうね」

          「はい!」


          喜んでもらえたみたいで良かった!







          「じゃあ、これ、報酬の方ね」

          「あ、ありがとうございます」

          「当然のことだもの、お礼はいらないわ。
           じゃあ、私たちは帰るわね」

          「はい」

          「今日は雨みたいだから、早く帰った方がいいわよ?
           ちゃんの家、ここから少し距離があるでしょう?」


          あ、そういえば雨だって天気予報で言ってたっけ……






          「そうですね、ちょっと小走りで帰ります」

          「ええ。それじゃあね」

          「はい!」


          さてと……







          「ほんとに雲行きも怪しくなってきたし、さっさと帰ろう……」


          いつもは天気予報を見たらちゃんと傘も持って出るのに……







          「今日に限ってなんか忘れちゃったな……」


          なんでだろう…………








           『淋しくなっちゃうなぁ…………』












           「…………」


           銀さんが帰っちゃうこと、考えてたから…………?


 
          ポツ……







          「ん?」



          ザアア……







          「やばっ! 降ってきちゃった!」


          このまま走ってたら濡れちゃうし、雨宿りするしかないよね。







          「でも、止むどころか弱まる気配もないし……」


          どうしようかな…………
















          「ったく、ちゃんは天気予報見てたクセに
           傘忘れるんだもんなァ〜〜」


           え……?






          「ぎん、さん……なんで……?」

          「お前を迎えに来たに決まってんだろ。
           こんな大雨の中、傘が無かったらビショビショだぜ」

          「それはそうだけど……」


          わざわざ来てくれたんだね…………







          「銀さん……」

          「ん〜?」

          「あり、がと…………」


          なんでだろう……すごく嬉しい…………。












          「…………おう。じゃ、帰んぞ」

          「うんっ」


          …………あれ? でも、待って……






          「銀さん……傘、一つしか持ってこなかったの?」

          「…………あ」


          銀さんはあたしのその言葉で“しまった”という顔をした。










          「…………あはは、銀さんって、意外にあわてん坊だよねぇ」

          「そ、そんなことないぞ!
           これはアレだ、と相合傘したくってだなァ……」

          「うそー」

          「ホントですぅー」


          絶対忘れただけだよね……だけど、






          「まぁ、いっか! じゃ、一緒にさして帰ろう、銀さん」

          「……そうだな」


          一つの傘じゃ入りきれなくて、肩も少し濡れて、
          寒いような気もしたけれど、心は温かかった。


          銀さんが……迎えに来てくれたからかな…………。























          「あー、傘さしてたってのに結構濡れちまったなァ」

          「そうだね……すぐにお風呂わかしちゃうから、
           そしたら銀さん、入ってね」

          「あァ……サンキュ」


           この家にあたしがいる。銀さんがいる。

           誰かと一緒に過ごしていること……
           それが本当に嬉しいことだと思うよ。



          だけど、それが永遠ではないと、あたしは解っていた。
          あと少しで、銀さんは帰ってしまう…………











          「嫌だよ……銀さん…………」

















          To Be Continued...「第六話 僕を闇から救う一筋の光