そして、とうとう銀さんが明日帰ってしまうという日が来た。

          その日の夜、あたしはなかなか寝付けないでいたんだけど、
          やっと眠れると思って意識を手放したとき……


          あたしは夢を見た。




















僕の前に現れた君――第六話 僕を闇から救う一筋の光





























          『銀さん……帰っちゃうんだね…………』

          『あァ。じゃあな、

          『う、うんっ…………』


          嫌だ……行かないで…………







          『銀さん! 銀さん、待って!!』

          『…………』

          『銀さん、待って! 行かないで!!』

          『…………』







          『銀さん…………』


          振り向いてすらくれないっ…………











          『嫌だ……行かないで…………!!』






























          「…………!!」


           な、に……今の…………






          「夢…………?」


          あたし……なんでこんな夢…………







          『嫌だ……行かないで…………!!』









          「…………」


          銀さん…………







          「…………まだ、起きてるかな……」


          あたしは、そのまま銀さんが眠ってる部屋に向かった。




















          「銀さん……? 起きてる…………?」


          …………なんて、起きてるはずないよね……







          「…………か?」

          「あっ、ごめん……起こしちゃった……?」

          「いや……起きてたから気にすんな」


          そっか……良かった……。






          「どうかしたのか?」

          「う、うん……」

          「……?」









          『嫌だ……行かないで…………!!』









          「…………」

          「…………?」


          銀さん…………







         「銀さん……一緒に……寝ても、いい…………?」

         「…………は?」

         「あの、ね……怖い夢、見て……
          どうしても、一人じゃ眠れなくって…………」


          銀さんがいなくなっちゃうこと考えると……
          眠れなくなるの…………






          「…………」

          「突然……ごめん、なさい…………」


          でも…………






          「でも怖いの…………」


          あなたがいなくなってしまうことが……
          すごく、怖い…………




          『…………ごめん』





          あたしはまた……一人になってしまう…………!

















          「…………解った、一緒に寝るか」

          「……! いいの……?」
 
          「あァ、銀さんは優しいからなァ〜〜」


          少しふざけているような感じだったけれど、
          これがこの人の優しさなんだと解った。












          「銀さん……」

          「んー?」

          「明日……とうとう帰っちゃうんだね……」

          「あァ……そうだな…………」


          “行かないで”なんて、あたしに言う資格は無いんだ……
          だけど…………







          「銀さん……あたし…………」

          「……?」

          「行かないで、ほしいよ…………」

          「……! …………」


          確かに、が江戸に行ってしまった頃よりは、淋しくはない。
          だけどやっぱり、一人じゃ淋しい人間なんだ、あたしは……


          誰かと……一緒にいたい…………










          「あたしは……そんなに強くない……
           みんなが思ってるより強くない…………」

          「…………」

          「けどっ……それを知られたくも、ない……
           あたしは弱いのだと、悟られたくない…………」


          あたしは矛盾しているんだ。
          だけど、もう、自分じゃどうにもならないんだよ…………







          「助けて……銀さんっ…………」

          「…………」


          銀さん……行かないで…………

















          「…………

          「な、に……?」

          「一人でいるのが嫌なら、俺のところへ来い」

          「えっ……?」


          銀さんの、ところ……?







          「それって、江戸……?」

          「あァ、そうだ。故郷を離れるのは嫌かもしれねェが、
           ここに一人でいるよりは、淋しくないはずだ」

          「…………」

          「、俺と一緒に江戸に来い。
           そうすればとも頻繁に会える」


          とも、会える……。






          「だ、けど……銀さんに迷惑は掛けられないよ」

          「迷惑なんかじゃねーよ」

          「でも……でもっ…………!」


          あたしは…………!















          「…………だったら、俺はお前に依頼する」

          「依頼……?」

          「あァ、そうだ」


          依頼って……何を……






          「神楽の話は前にしたな?」

          「う、うん……」
        
          「住み込みで、神楽の遊び相手をしてくれ、
           だから、俺と一緒に江戸に来いよ」

          「……!」


          住み込みで……















          「…………あたしで、いいの……?」

          「お前がいい」

          「……!」


          銀さん…………






          “お前がいい”







          銀さんっ…………












          「…………銀さん、あ、たし……
           一緒に……江戸に行くよ…………」


          もう……一人は嫌だから…………















          「じゃあ銀さんからの依頼、受けてくれるんだな?」
 
          「う、ん……」
 
          「そこでちゃんに注意することがありまァーす」

          「……?」


          何だろう……?






          「俺の依頼以外の仕事をやるのは構わねェ。
           ただし、遅くなるときとか、メールしろよ?」

          「……うん」

          「あと、銀さんいつでもの力になるから。
           一人で背負い込むな」

          「…………はい……」


          ありがとう……






          「ありがとう……銀さん…………」


          あたしを一人にしてないでくれて……
          依頼してくれて、ありがとう…………
















          「…………じゃ、そろそろ寝るか」

          「うん……」


          あたしは銀さんの隣で、今度こそ意識を手放した――……























          『一人でいるのが嫌なら、俺のところへ来い』




          「…………」


          何言ってんだよ、俺ァ……







          「けど…………」


          あんなを見ているのが耐えられなくて、
          頭で考えるより先にそんなことを口走っていた。







          『俺は……の、本当の笑顔が……見てェ』





          そうだ、俺は…………







          「こいつの、本当の笑顔が見たくて……ただ、それだけだ」


          それだけであんなこと言ったんだ…………。






          『なんで帰りたくないって思ってんだよ、俺は…………』



          なんで帰りたくないって思ってるだと?







          「そんなの決まってるじゃねェか……」

  
          俺は…………











          「俺は……が好きなんだ…………」


          だから帰りたくないと思った。
          笑顔が見たいと思った。

          泣いているところをこれ以上見たくないとも思った。



          だが、俺はここにはいられねェ……

          を一人にしないためには、こいつを……
          江戸に連れていくしかねェんだよ…………。








          「……一緒に江戸に行こう」


          すっかり夢の中にいるに、俺はそうつぶやいた。




















          To Be Continued...「第一章 エピローグ