「なんだ、どっか行くのか?」


          いかにも「出かける支度をしています」風なが目に入ったので、
          なんとなく聞いてみる。







          「あ、銀さん。
           ちょっと、散歩がてらその辺を歩いてこようかと思って」

          「は? そりゃあ、なんでまた……」

          「だってほら、昨日も結局は道に迷っちゃったでしょ?」


          だから、今度こそちゃんと地理を覚えるために
          その辺をちょっと歩いてくるから、と続けた。







          「ふーん……
           って、オイ。もしかして一人で行くつもりだったのか?」

          「うん、そうだけど?」

          
「ちょっと待てええェェェい!!!」

























僕らが過ごす日々――第拾話 君の笑顔は僕が守るから






























          「そっか、銀さんもちょうど散歩したかったんだね!」

          「お、おう、そうなんだよなァ〜
           ちょうどたまたま、ホント偶然ね。散歩に行こうと思ってたんだよ」


          いや、ホントは散歩なんで全然行く気なかったけど
          こいつ一人で行かせるわけにはいかねーだろ?

          この近辺だけならまだしも、「地理を覚えたい」っつーくらいだから
          いくらか遠出するはずだしな……








          『道を引き返そうとしたら、変なゴロツキに絡まれちゃって』


          予定していた時間よりも遅く帰ってきた昨日の夜……
          大したことでもないという感じで、はそう言った。


          ……まァよく解んねーけど、どっかの誰かが助けてくれたみてェだし?

          そもそも、がその辺のゴロツキにやられるわけねェのは、
          俺も知ってるけどよォ……







          「やっぱ、心配だろ……」


          昨日の今日でまたゴロツキに絡まれるかって言ったら、んなもん知らねーけど
          ないって言い切れるわけもねェ。




          『俺は……の、本当の笑顔が……見てェ』






          ――そうだ。

          俺はの、本当の笑顔が見たい。
          だから、そのためには……その笑顔を、守らなくちゃならねェ。

          ……守るためには、そばに居なきゃなんねェんだよ。















          「……銀さん? どうしたの?」


          急に黙り込んだ俺が気になったのか、俺を見上げながら問いかけてくる。







          「…………なんでもねーよ。行くぞ」

          「あっ、ちょ、ちょっと銀さん……!?」


          さっさと歩き出した俺を、が慌てて追いかける。
          なんだかそれがかわいくて……

          待っててやっても良かったんだけど、
          そこであえて歩くスピードを上げてやった。
          (ほら、自分で言うのもなんだけど、俺ってドSだからさァ)










          「ぎっ、銀さん! はやっ……速い……!」


          こっそり振り返って、必死に追いかけてくる姿をのぞき見る。








          『銀さん、あたし……

           あたしは、やっぱり……ここには要らない…………?』









          「……!」


          必死に追いかけてくるその姿を見てたら、
          あのときのこいつの顔が突然フラッシュバックして……


          マズイ、と思ってすぐさま体を反転させると、
          俺を追いかけて走ってくるに向かって、俺も走り出した。





          「銀さ、……
           …………わっ!?」


          そしてそのままの勢いでを抱きしめたので、
          (こいつにとっては)すげェ衝撃だったろう。

          頭の隅でそんなことを考えながら、抱きしめる腕に少し……
          ほんの少しだけ力を入れる。















          「銀さん……?」


          俺の名をつぶやいたその声には、戸惑いが混ざっていた。
          けど、たぶん……声の感じからして、泣いてはいない……と、思う。

          それが解ったとたん、自分でも驚くほど安心できた。


          ――良かった……。







          「銀さん? あの……」


          笑顔が見たいとか言ってたくせに、
          二度も泣かせたらシャレになんねェからな……。

          冗談抜きで良かったよ、ホント。








          「銀さん……どうしたの……?」


          さっきと同じように、戸惑いの混ざる声でそう問いかけてきた。
          けど、ホントのことが言えるわけもなく……俺はただ黙っている。






          「ねぇ、銀さん……大丈夫……?」


          あー……いよいよ本気で心配させちまってるようだし、
          これ以上黙っているのも逆にマズイか……















          「あー……悪りィな、
           もう大丈夫だから」


          抱きしめていた体を少しだけ離して、その目を見ながら言った。

          想像していた以上に心配そうな顔をしていたので、
          これはこれでマズかった……と、思わなくもない。
          (でもこんなに心配してくれてんのは、ふつーに嬉しかった。)








          「ほんとに?」

          「あァ、ホントホント」

          「ほんとにほんとに大丈夫?」


          もう一度聞き返してきたに、
          「もう大丈夫だから」と俺も再び答えてやると、
          やっと俺の見たい笑顔が戻ってきた。

          ……いや、マジこればっか言ってるけど、
          ホント、良かった…………。















          「…………」


          ……つーか、こっからどーしよう。

          いろいろと成り行きで抱きしめてるけど、
          
今ここで手ェ離したらぶっちゃけもったいなくね?


          だいたいこいつも全然嫌がってねーし……
          え? これ割といけるんじゃね!?







          「な、なァ、

          「うん?」


          きょとんとした顔で俺を見上げ……


          ……いや、ちょっと待てその顔はダメ!
          かわいすぎだから! 反則だから!!







          「、俺……」

          「うん」

          「俺な……お前が
「ほあちゃア!!!」

          「グハアァァ!!」


          せっかく一大決心(?)をしてに伝えようとした直後……

          なんかものすげェ衝撃を食らった。
          (あとなんか、聞き覚えのある声が聞こえた気がした















          「そこまでアル、銀ちゃん!!」


          予想通り、そこには怪力チャイナ娘の姿がある。







          「か、神楽ちゃん!?」


          神楽が登場して早々俺を蹴り飛ばしたことに、動揺する

          いや、つーか……それより先に俺を心配してくれ、……。







          「いってーなァ〜、なーーにすんだ神楽ァ!!

          「それはこっちのセリフヨ! 
男の風上にも置けないネ!!

          「あァ? どーゆー意味だそりゃァ」

          「白昼堂々、しかもこんな往来で
           女性にセクハラ行為をするのはどうなのか、って意味ですよ」


          俺のその問いに答えたのは、神楽じゃなかった。
          人間を掛けた眼鏡……もとい、新八だ。







          「あァ? 何言ってんだ、セクハラなんてしてねーだろ」

          「してたネ! に!!」

          「してねェよ!
           ちょっと抱きしめてただけだろ!!」

          「いや、それがセクハラだと言ってるんです僕らは」


          なんだよコイツら、うるせェな
          せっかくのとのデート(仮)が台無しじゃねーかよォ!!














          「だいたい、も全然嫌がってなかっただろ。
           セクハラは相手がどう思うかが重要だからねコレ」

          「違うヨ、は銀ちゃんがかわいそうで我慢してただけヨ!」

          「それだったらとっくに振り払ってんだろ!」


          冗談抜きで、もしホントに嫌だったら俺も今頃フォークでグッサリ……
          だったと思うんですけど。マジで。







          「問答無用ですよ、銀さん!!」

          「覚悟するアル!!」

          
「おわっ!?」


          唐突に振り下ろされた新八の木刀と神楽の番傘のせいで、
          俺はのもとを離れることを余儀なくされた。

          ……まさかコイツらがに当てるとも思えねェが、
          そばに居たままじゃ危ねェし……







          「って、
このままじゃ俺が危ねえェェ!!!

          「待つアル、銀ちゃん!」

          「銀さん、逃がしませんよ!」


          
オイイイィィ!! なんだコイツらのこの執念!!
          なんでこんなときだけ(?)息ピッタリなんだ!?




















          「……!」


          逃げてる途中で、ふと思い出した。

          ――そーいやぁァ、は……?



          慌てて後ろを振り返ると、何が何だが……というような顔をして
          ぽかんと立ちすくんでいるの姿があった。







          「……オイ
           悪りーけど今日のところは帰んぞ!!」

          「えっ……」

          「道案内だったら、これからいくらでもしてやっから!」


          “だから、また一緒に散歩しよーな”



          最後の言葉は声には出さなかったが、は理解してくれたようだ。
          一瞬目を見開いたあと、すぐに俺の好きな笑顔を見せて頷いた。








          
「銀さん、覚悟ォォ!!」

          
「死ねェェアルぅぅぅ!!!」


          いや、百歩譲って「覚悟」は解るとしても「死ね」って何!?
          もうなんなのこの子たち反抗期ィ!?

          ……と、とにかく、
          どうにかしねーとこのままじゃマジで俺がもたねェ……!




















          「新八くーん! 神楽ちゃーん!
           一緒に夕ご飯の材料でも買いに行かないー!?」

          「行くネ!」 「行きます!」


          少し離れたところから、のそんな声が聞こえてきた。

          すると、先ほどまでものすげェ形相で俺を追っかけていたはずの二人が、
          いつの間にかのそばまで戻っているのが見える。







          「って、
オイィ!!!


          なんなんだよ、コイツら!
          鶴の一声ならぬの一声かァ!?

          今までのやり取り(蹴り飛ばされたこととか、追いかけ回されたこととか)
          全く意味なかったじゃねーか!!








          「ったく、俺ばっか痛い目見てんじゃねェかよ……」


          なんなんですかコレは。
          銀さんマジで何一つ得してねーよ損ばっかだよ。
          (アイツら覚えてろよ……!)







          「まァとにかく、俺も行かねーと置いてかれる……
           ……ん?」


          既に前を歩いている三人に目を向けると……

          二人の後ろを歩く形になっているがふとこちらを振り返り、
          口パクで言った。


          “ありがとう、銀さん”








          「…………また、その顔が見れたな」


          ――俺の大好きな、お前の本当の笑顔が。


          そんなことを考えながら、俺もようやく歩き出した。



















          To Be Continued...「エピローグ