「じゃ、お姉、トシが来るまでここで待っててよ。
は別の仕事で出てくるから」
「うん、解った」
この間調査を任せてもらった攘夷志士たちが、どうなったのか……
その後の状況を教えてもらえるということで、
あたしは真選組屯所に来ていた。
僕らが過ごす日々――第二話 いつかあなたの助けに
「…………」
「おう、トシ」
「……」
「お姉、もう来てるよ」
「あ、あァ、解った」
『高杉の?』
『あァ……昨日、お姉が調査結果の報告に来ただろ?』
『あァ』
『その時にな……トシが来る前、
見せてやったんだよ、高杉及びその一派のデータを』
奴らのデータを……?
『どういうことだ?』
『さァね。
詳しいことは教えてくれなかったけど、おそらく……』
『……?』
『お姉は、高杉に会ったんだろう』
『……!』
まさか……。
『まァ、怪我も無いようだし?
戦ったりは、してないんだろうけど』
『…………』
『……トシ、お姉は天然だがバカじゃない。
高杉一派のデータを見直したということは、』
…………。
『奴と再び会うと思ったからだろう』
『……!』
『お姉のこと心配だと思うなら、
次に依頼するときは一緒に調査してみたらいーんじゃない』
『…………』
アイツが、高杉と会った……。
「…………」
もしそうだとしたら、聞き出さなきゃならねェな……。
シャッ
「あ、こんにちは、土方さん」
「あァ……待たせたな」
「いえ、大丈夫ですよ」
……無邪気な奴だな。
こっちは、テメーと高杉のことで心配してるってのに……。
「あ、あの……
それで、この間の攘夷志士たちはどうなりました?」
「奴らは滞りなく逮捕することが出来た。
お前の正確な調査のおかげだ、礼を言う」
「そんな……お役に立てて嬉しいです」
俺はお世辞だとか、そんなことを言えるほど器用じゃねェ……
つまり、コイツの腕は本物ってことだ。
確かに、が勧めるだけのことはあったな。
「それで、だ」
「はい」
「その腕の見込んで、またお前に依頼したい」
「えっ」
初めはコイツを全く信用しちゃいなかった俺が、
重要な調査を二度も依頼することになるなんてな……
我ながら、笑っちまうぜ。
「今度は、ターミナルからよく出入りしている
ある宇宙船を調べてもらう」
「……もしかして、また密輸ですか?」
「その可能性が高いな」
調査の腕もさることながら、勘もけっこう鋭いみてェだな……。
「……解りました、お引き受けします」
「助かるぜ。……あァ、それと」
「……?」
「今回は俺も共に調査する」
「えっ……」
『お姉のこと心配だと思うなら、
次に依頼するときは一緒に調査してみたらいーんじゃない』
次のコイツが高杉と会うかどうかなんて、解らねェ……
だが、会わないとも言い切れねェからな。
それなら、共に行動する価値はあるだろう。
「あの、土方さん……」
「何だ?」
「あたし一人には任せきれませんか?」
「なっ……」
何言ってんだ……?
「あたし一人では、役不足でしょうか……?」
「…………」
コイツ……
俺が共に行動するのは、
自分の力が足りないせいだと思ってやがる。
勘が鋭いと思いきや、こういうトコは鈍いのかよ……。
「あー……さっきも言ったが、」
「はい」
「俺ァ、お前の腕を見込んだから再び依頼してんだ」
「……!」
役不足だと思ったら、二度と依頼なんてしねーよ。
「ただ……今回の調査では、ターミナル内に入ることになる。
前回より簡単に忍び込めねー分、めんどくせェんだ」
「…………」
「それに、お前もまだターミナル内に詳しくないだろ。
だから俺とお前で協力して、
調査をスムーズに行えるようにっつー考えなんだよ」
万が一高杉と遭遇したとしても、
そばにいれば守れるしな……。
「そう、だったんですか……」
「解ったか?」
「……はい!」
ったく……
お前は余計なこと考えずに、そーやって笑ってりゃあいいんだよ。
「本格的な調査は明日やることにすっから、
今日はもう帰っていいぞ」
「はい、解りました。
じゃあ、あたしはこれで失礼します」
「あァ……」
シャッ…… ピシャン
「…………はァ」
自分で言うのも何だが……
アイツが来てからの俺ァ、いろいろおかしいよな。
少し落ち込むとこを見ただけで、「笑わせてやりてェ」とか
思っちまう始末だし、
「調子も狂わされっぱなしだしよ」
だが、それもいいかもしれねェと思ってる自分が
一番おかしいんだろうな。
「ふぅ……」
何故かは解らないけれど、
土方さんはあたしに対する警戒を、完全に解いてくれたみたい。
「でも、嬉しい……」
きっと、これからも付き合いがあるだろうし、
いつまでもギクシャクしてたら良くないからね。
「……ん?」
あれは……
「総悟くん?」
向こうの縁側で寝てるの、総悟くんだよね?
変なアイマスクで顔はあんまり見えないけれど、
あのサラサラの髪の毛はおそらく……。
「ちょっと近くまで行ってみようかな?」
起こさないように、そーっと…………
「誰ですかィ?」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
起こしちゃった……!?
「…………さん?」
「う、うん……
ごめんね総悟くん、起こしちゃって……」
「別に……狸寝入りだったんで」
「そ、そっか」
そう言って総悟くんはだるそうに起き上がり、
さっきまでしていた変なアイマスクを外した。
……あ、
「総悟くん、ちょっとそのまま座ってて」
「……?」
えーと、確か今日も持ってきてたはず……
…………あ、あった!
バックから櫛を取り出したあたしは、
この間と同じように総悟くんの髪を梳かしてあげた。
「はい、できた♪」
「…………。(また髪を直してくれたのか……)」
「寝転がってたから、クセがついちゃったのかもね」
「……ちゃんと直りましたかィ?」
「うん! すごくかっこいいよ」
でも、梳かしただけで直るなんて羨ましい……。
「……ありがとうございやした」
「どういたしまして。
じゃあ、あたしは帰るね」
「…………お気をつけて」
「うん!」
総悟くんも、土方さんほどじゃないけど
あたしのこと警戒してるんだよね……
「でも……」
総悟くんのは、どう接していいか解らない、って感じだから、
あたしのほうは接しやすいかな。
「お、ちゃん! トシとの相談は終わったのか?」
「はい、近藤さん。本格的な調査は明日で、
今日はもう帰るところなんですよ」
「そうか、気をつけてな」
「はい!」
「うーん」
お姉も、ウチの連中とさらに打ち解けたみたいだね。
「ま、その方がいいけどさ」
できるだけたくさん、
信頼できる人を作っておきな、お姉。
「そうすれば、助けになってくれるだろうからね」
そんなことを考えながら、
報告書をまとめるためは自室に戻った。
To Be Continued...「第三話 調子を狂わせるひと」