ピンポーン
「はーい!」
「こんにちは、土方さん」
「……よォ」
「どうぞ、上がってください」
「あ、あァ」
僕らが過ごす日々――第八話 紙一重の優しさと厳しさ
今日は、この間の調査で入手した白い粉がどんなものだったのか、
土方さんが説明してくれるんだ。
いつもあたしに来てもらうのは悪いから、
今日は万事屋まで自分が行くって言ってくれて。
……でも、屯所はそんなに遠くないし
あたしは別に良かったんだけど、
土方さんってけっこう頑固みたい……。
「さん、土方さん、お茶が入りましたよ」
「ありがとう、新八くん!」
「……悪りィな」
ってか、ここはあたしが用意するべきところじゃ……。
「……じゃあ、さっそく本題に入るぜ」
「はい」
「まず……あの白い粉の分析結果がコレだ」
そう言って、土方さんは一枚の紙を差し出した。
ええと……。
「薬の名称はA−MAT……
服用した場合、おかしは言動・行動をし、
何かに怯えたりする……」
これって……。
「やはりアレは、麻薬だったみてェだな」
「じゃあ、あの天人たちは麻薬の密輸を?」
「そういうこった」
そっか……。
「それで……逮捕もするんですよね?」
「もちろんだ。だが、それは俺たちの仕事……
お前の仕事はココまでだ」
「は、はい」
「今回も助かったぜ。これが報酬だ」
「ありがとうございます」
依頼はちゃんとこなせたみたいだね。
「……なァ」
「はい?」
「この後、空いてるか?」
この後?
「は、はい、空いてますが……」
何だろう?
「お前に聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと、ですか?」
「高杉のことだ」
「……!」
晋助の……。
「…………」
「場所を変えようと思うが……構わねェな?」
「……はい」
あたしが晋助と顔見知りってこと、
やっぱり土方さんも気付いたよね……。
「あの……銀さんに出かけてくるって伝えたいので、
ちょっと待っててもらってもいいですか?」
「あァ」
「銀さーん」
「どうしたァ?」
「ちょっと、土方さんと出かけてくるね」
「え、なんで?(仕事してたんじゃねーの?)」
「うん、ちょっとね(笑)」
銀さんには、晋助のことは話しづらい……
ごまかしておいた方がいいよね。
「すぐ戻ってくるから」
「あっ、オイ、!?」
「行ってきまーす!」
「! オーイ!!」
ごめんね、銀さん……。
「お待たせしました、土方さん」
「それじゃ、行くか」
「はい」
「あの……それで、どこまで行くんですか?」
万事屋を出たあたしは、土方さんが乗ってきたのであろうパトカーに
乗せられたんだけど……
さっきからけっこう走ってるのに
どこかに止まる気配も無いんだよね……。
「話はここでする」
「えっ?」
「どっかで話すより、車ん中の方が意外に話しやすいんだ……
特に、人にあんまり聞かれたくないことはな」
「……!」
そういうことだったんだ……。
「それで……
お前は、以前にも高杉に会ったことがあるな?」
「…………はい」
「(やはり……)」
初めて会ったのは、あの日……
『よォ……スパイとは、ご苦労なこったな』
「土方さんとに依頼されて倉庫を調べた日、
晋助に初めて会いました」
「…………。
(の言った通りだったか。)」
「晋助は、なぜかあたしの調査に協力してくれたんです」
「協力……だと?」
そう……考えれば考えるほど、あのときの晋助が
協力してくれたこと、不思議でならない。
「そして、二度目に会ったのがターミナル……
この間の、調査のときです」
「……そうか」
「はい……。
そこでも晋助は、あたしに協力してくれました」
「奴が二度も?」
「はい」
あたしは調査が無事に出来て良かったと思う。
でも、晋助には得することなんて一つも無いのに……。
「…………なァ」
「はい?」
「一度目に奴に会った後、なんで何も言わなかった?」
「……!」
それは……
「それは……」
「…………」
『忘れんじゃねェぞ』
「また……会う気がしたからです」
「奴とか?」
「……はい」
晋助が何を考えてあたしに協力してくれたのか、知りたかった。
だからあたしは、また会わなければって、
そう思っていて……。
「あたし、アイツの真意が知りたいんです」
「…………。
(こうも言い切られると反論しにくいな……)」
これは予想でしかないけれど、
おそらくきっとまた会うと思う……。
「……お前にはお前の考え方があろうだろうから、
ガミガミ言うつもりはねェよ」
「…………」
「だが、奴ァ危険だ。だから無茶はするなよ」
「……!」
土方さん……
心配してくれた……?
「それから……奴と会ったら、俺にも一言言ってくれ」
「……解りました」
もしかして……咎めるためじゃなくて、
心配だったから、こうやって聞き出そうと……?
「……連れ回しちまって悪かったな」
「いえ、いいですよ」
確かに車の中って、内緒話に適してるし(笑)
「万事屋まで送ってく」
「ありがとうございます」
「元はと言えば、俺が連れ出したんだ。
礼なんていらねーよ」
「……はい」
土方さんって、ただ厳しいだけじゃない……
優しいからこその、厳しさなんだね。
「……あ、」
「どうした」
「あの、ここで降ろしてもらってもいいですか?」
「万事屋までは、まだしばらくあるぞ」
「はい、でもここでいいんです」
土方さんが“何故だ”と言わんばかりの顔をしたから、
あたしはもう一言付け加えた。
「スーパーでお買い物していくので、ここでいんです」
「そういうことか……」
「はい」
解ってくれたみたい。
「……よし、解った」
そう言ったから、スーパーの入り口で降ろしてくれるのかと思いきや。
土方さんは、パトカーを駐車場に停めてしまった。
「あ、あの、土方さん……?」
どうして……。
「“万事屋まで送ってく”と言った以上、
お前を放り出して帰るワケにはいかねェんだよ」
「でも……」
「いいからさっさと降りろ。買い物して帰るぞ」
「は、はい……ありがとうございます!」
「…………あァ」
やっぱり、この人はただ厳しいだけじゃない。
あたしは、改めてそう思った。
To Be Continued...「第九話 疾き剣の使い手」