それから数日後の朝……
お姉ちゃんと将臣くんはクラスで集まりがあるとかで、
早めに家を出て行った。
お姉ちゃんがいないのは分かりきっていたのに、
ちゃんと迎えに来てくれる譲は、素直に優しいと思った。
将臣くんに対する気持ちとは違うけど…
でも、大好き。大切な、あたしの幼馴染……。
「スミレおばあ様の?」
「ああ、形見なんだ。
それが、いつの間にか制服のポケットに入ってて…」
「へえ…不思議なこともあるんだね」
「ホントだよな」
と、そんな話をしながら登校した。
その日、学校に着いたときに嫌な予感がした。
なんだか、あたしだけ置いてかれてしまいそうな……
あたしにとっては、その日はいつもと変わらない普通の日だった。
だけど、将臣くんや譲、お姉ちゃんにとってはそうではなかった。
初めは嘘かと思った。
だけど、譲があまりに真剣に話すから…
本当の話なんだと、理解した。
『ここじゃない、別の世界に行ってたんだ』
譲の話によると、その世界でお姉ちゃんは「龍神の神子」という
お役目を授かっていたらしい。
で、譲や将臣くん…他の六人を合わせて八葉って言うんだとか。
八葉は、龍神の神子を…お姉ちゃんを守る存在……。
なんだか、それだけでもお姉ちゃんとの差を見せ付けられた気がした。
お姉ちゃんは守られるべき存在。
だけど、あたしはそんな大層な存在でもない。
ひどく、胸が痛んだ。
差が、ありすぎる……。
『実は、敵の…平家の総大将の還内府ってのが…兄さんだったんだよ』
それを知らずに、お姉ちゃんや譲は戦っていたと。
知ったときも、一波乱あったそうだ。
譲もあんまり聞いてほしくなかったようで、
それ以上はあたしも追及しなかった。
つまり、それは…
お姉ちゃんと将臣くんは敵同士であって。
それでも、(きっと)それまでのことは和解して
こちらへ戻ってきたのだろう。
そして三人は、何度も厳しい状況の中で生きてきたのだという。
そんな三人に…
お姉ちゃんと将臣くんの間に…
「あたしは…入れない……」
入れるはずもないよ………。
苦しかった。
あのとき、屋上で譲と話したとき…
落ち着けたと思った。…思い込んでいた。
「やっぱり…ダメだよ……」
こんなにも好きなのに……
その気持ちを押し殺すことも出来ない……。
『なんでそうなんだよ。お前ら、話が飛躍しすぎ』
あの一連の会話を聞いたときと同じように……
あたしは、ただひたすら走った。
この真っ暗な道を、ひたすら。
「…はあっ…はあっ……」
あれから、どれくらい走っただろう。
さすがに息も切れてきた。そこで、あたしの足も止まった。
「何も言わずに出てきちゃった……」
どうしよう…
心配、してるかな? それとも…
「あたしは別に…必要ない、かな……」
きっと、みんな…
お姉ちゃんがいれば、それで充分なのかもしれない……。
「…お母さんに…メール、しとこう……」
きっと、最後のメールになるんだろう……。
……ん?
「…この懐中時計……」
ポケットに何か入っていて、それを取り出してみたら
将臣くんが昨日…
クリスマスプレゼントだ、って言ってくれた懐中時計だった。
『蔵で見つけたものだけどな』
そう言って、あたしにくれたんだ。
だけど……
『向こうでね、将臣くんと夢の中で逢ったんだよ!
それで、これももらったの』
そう言ったお姉ちゃんが見せてくれたのは、
あたしがもらったものと同じような懐中時計。
それも将臣くんが自分ちの蔵から見つけてきたものらしい。
だけど……
お姉ちゃんが持っていたものの方が、
あたしがもらったものより綺麗だった……。
「やっぱり、お姉ちゃんに綺麗なものをあげたかったんだよね……」
あたしは、ただのおまけ。
それだけの存在なんだ。
「……苦しいよ、将臣くん………」
もう、嫌だよ……
「大変よ、望美!!」
「どうしたの、お母さん!?」
お母さんが血相を変えてやってきた。
その手には、あまり使い慣れていないケータイが握られている。
「からメールが来て…!」
「そこに何か書かれてたの?」
普段は温厚なお母さんが、そこまで取り乱すなんて…。
そう思って、あたしはお母さんが差し出すケータイを受け取った。
From:
(non title)
○/× 21:33
―――――――
お母さん、勝手
に家を出てごめ
んなさい。だけ
ど、あたしはも
う耐えられない
から。だから…
さようなら
今までありがと
う。大好きだよ
。
これって…!
「私が…私がいけなかったのかしら…?
もし、もしがいなくなったら……!」
「お母さん、落ち着いて!
大丈夫だよ、は必ず見つけるから。
将臣くんや譲くんにも協力してもらおう。ね?」
そう言ってお母さんを慰め、私は将臣くんと譲くんと
を捜すことにした。
「どういうことだよ、がいなくなったって…!」
連絡を受け、ひとまず望美との家を目指す俺と譲。
原因は、その連絡の内容だ。
『将臣くん、譲くん!大変なの、がっ…!!』
が、突然いなくなったという。
しかも、おばさんに送ってきたメールの内容があまりよくない…。
「……兄さん、先輩のところに行く前に、一つ言っておくことがある」
「こんなときに何だよ、譲!
が…
が死ぬかもしれないんだぞ!?」
それなのに、何を言うんだよ!!
「今はそれどころじゃ「今だから言うんだ!!」
「譲……?」
譲が俺の言葉を遮って、叫んだ。
「が…死ぬかもしれない今だから、言うんだ。
よく聞いてくれ」
「…………」
「兄さんは気付いていたのか知らないが…
は兄さんのことが好きだったんだ」
「……!」
が…俺のことを……?
「でもは、兄さんは先輩のことが好きだと思ってる」
「なっ…」
「だから…はずっと苦しんでた。
兄さんのことも好きだし、先輩のことも姉として大好きだったんだ。
だから、だから余計につらくて……」
それは、俺も同じだから…よく分かるんだ……。
「俺は先輩のことが好きだ、だけど、きっと先輩は兄さんのことが好きで…
俺だって、兄さんのこと尊敬してて…大切な家族だよ」
二人とも好きだから…倍、苦しいんだよ……。
「…俺は、本当はいつかこんな日が来ると思ってた。
だけど、だからって、俺がの気持ちを兄さんに伝えても、
何も意味がないだろ!?」
それじゃ、何の意味も持たないんだ…!
「だけど、実際にその状況になってしまった。だから、俺はあえて言った」
俺にとって…は大切な幼馴染で親友で、
先輩に対する気持ちとは違うけど、それでも大好きだ。
「大切な幼馴染を…親友を失くしたくない…。
兄さんはどうなんだ!?
本当に先輩が好きで、のことは何とも思っていないんだったら…」
より先輩を取るというなら……
「兄さんはを捜しに行かないでくれ。は、俺が捜す」
俺は……
俺は…………
「くそっ……!」
……!
「待てよ、兄さん!何処に行くつもりなんだ!!」
「お前は望美のところに行ってろ!!」
「兄さん…!?」
悪い、……
「全部…俺のせいだったんだな……」
くそっ……
間に合ってくれ……!!
「……行っちゃったか」
『…俺たちは、報われないってことになるよな』
あんなことを言ったのは俺だ…
…けど、……
「俺と違って、お前の想いは報われるんだな……」
むしろ、報われないのは俺と……
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