――時は末法の世。
御仏の教えが失われ、この世の終わりが近づいたと噂されるようになりました。
それを裏づけるように起きた、落雷や地震などの天災、怪異、たびかさなる火災と飢饉。
この数年とみにひどくなり、人々は恐れ、おびえ、そして恐怖に疲弊しておりました。
「京が浄土のごとくならぬ限り滅びるしかない、みな死ぬしかない」
浄土とは、清められた聖域、すべてのものが救われる土地。
御仏の加護を約束された場所。
京が現世の浄土――今浄土にならなければ、京は滅びるしかない。
……そんな思想が、ゆるゆると京に蔓延しておりました――。
滅びが迫っていると占いにはあらわれている。
神子様をお呼びしなくてはならないのに。
でも、私たちにはそんな力がない…………。
「――何?
まがまがしいものが、京を覆わんとしている……」
「紫!」
「兄様?
どうなさったのですか、そのように慌てなさって……」
「紫、お主は一人で神子を招来したのか?」
「いいえ。そのようなことは決してございません」
「だが、龍神の神子が現れたと、京の町ではもっぱらの噂になっておる。
一人の異形の白拍子が院のもとに、龍神の神子をおつれもうしたと……」
――そのとき、鈴の音が響き……
「龍の宝玉はまだ輝いておりませぬ。兄様、ご覧になりますか?
ほら、龍の宝玉はここに――」
紫が言い終わる前に、龍の宝玉が光りだした。
「まぁっ、龍の宝玉が…!!」