『今日は、ちょっと厄介な仕事なんだ。
          だからお前を連れては行けない。悪いな』


          ……と、先ほど勝真さんに言われてしまい、
          なんとなく暇を持て余したあたしは、一人で京の町を歩いていた。





          「こーゆーとき、神子じゃなくて良かったと思うよね〜」


          神子だと一人で外出なんて、なかなか許してもらえないよね。
          なんでみんなは、あんなに過剰に心配するんだろう……?





          「あかねちゃんなんて、大変だったんだろうなぁ……」


          八葉も最初から彼女のこと、大切にしてたし……。
          あー、牡丹の姫でちょうどいいな、あたしには。うん。



          『よろしいですか、様。
           お一人でお出掛けになるのは、おやめくださいませね?』



          …………あれ?
          そういえば、紫姫にそんなこと言われたような……

          ……ま、いっか!
          あたしがそれほど重要人物とも思えないしね。












          「……ん?」


          この景色は……





          「神楽岡、かな……?」


          神楽岡も、けっこう景色が好きなんだよね。
          藤棚が素敵!













          「なんと言われようと構いません。
           私は、この方をお守りいたします」


          あれ?これって、泉水の声じゃ……。
          (しかも、何だか珍しく声を荒げているような……?)





          「……あ、やっぱりいた!」


          花梨ちゃんと知らない人と……
          いや、でもこの顔どこかで……

          ……ってか、勝真さんも一緒?












          「花梨ちゃーん! 泉水ー! 勝真さーん!」



          「さん!」

          「殿!」

          「!?」


          いや、そんなに名前を連呼しなくても。







          「こんにちは〜。何してたの?」

          「え、えっと、その……」

          「……?」

          「「「……」」」


          なんか、雰囲気が良くないな……
          もしかして混み合った話でもしてたのかな……?





          「えーっと……何か大切なお話をされてたみたいですけど、
           その前にそちらの方、お名前をお聞きしても?」

          「……はい、私は源頼忠と申します」


          そっか、この人が頼忠さん!





          「初めまして、あたしはと申します。
           どうぞ、よろしくお願いします」

          「はい」


          さってと……












          「話の腰を折ってしまってごめんなさい。
           いったい何の話をしていたんですか?」

          「さん、それが京職にたれこみがあったんだ」

          「え?」


          たれこみ……?





          「龍神の神子を騙る女が、京を滅ぼそうとしていると」

          「な、何ですか、それ!?」

          「……事の真偽はともかく取り調べは必要だからな。
           官衙まで同行してもらうところだったんだ」


          花梨ちゃんが京を滅ぼそうとしてるっていうの?






          「勝真さん、この子は……
           花梨ちゃんは、そんなことする子じゃないです。

           そんな、取り調べなんて受ける必要はありません」

          「……お前がそう言ったって、取り調べは必要なんだ。
           俺は京職として……それをやり遂げなければいけない」


          勝真さんが、京職として何かやらなきゃって思ってることは知ってる。
          この間のことでも、それは理解したつもりだよ。

          けど……






          「だけど、これはおかしいです!」

          「この天災続きが、この女が元凶だとしたら。
          京のためにも引き渡すべきだ」

          「待ってください、勝真さん!
           そのたれこみとやらに信憑性はあるんですか!?」

          「殿のおっしゃる通りだ。
           密告一つでそのような疑い、無礼極まりない」


          そうだよ、これって何かおかしいよ!!











          「証拠隠滅は、お前たち源氏一門の得意技だろう?」

          「……!」

          「聞き捨てならぬ」


          勝真さん……
          なんでそんなこと言うの…………?

          いつもは、もっと優しい人なのに…………






          『ほらよ』

          『あ、ありがとうございます!!』



          扇を買ってくれたときの勝真さん……
          すごく優しい顔して笑ってたのに…………











          「あの……私の疑いが解ければいいんでしょうか」


          しばらく黙っていた花梨ちゃんが、話し出した。





          「へえ、いい覚悟じゃないか」


          違う……





          「でも、一体どうすれば
          この誤解を解くことができるのでしょうか」

          「とりあえず、取り調べだけは受けてもらうぜ」


          違う…………













          「こんなの……いつもの勝真さんじゃない…………」

          「さん……?」
 
          「どうしたんですか、勝真さん!
           いくら京職のお仕事だからって、おかしいです!!」


          いつものあなたは、そんな無茶なことは言わないのに……






          「初めて会ったあたしを院のおそばまで案内してくれたり、
          お邸に住まわせてくれたり……あなたは、もっと優しいはずです」

          「え!?
          じゃあ、さんがお世話になった帝側の人って……」


          そうだよ、もっと優しいはずなのに……






          「どうして……
          そんなことを言うの…………?」

          「殿……」

          「勝真さんの馬鹿!!」


          そんなこと言うなんて……






          「……うっ……ひっく…………」

          「お、おい、……」


          勝真さんが口を開こうとした瞬間、何かが光りだした。





          「……! なんだ、これは!?」

          「この感じは………」

          「なんだ、この玉は!?
           俺の体に、いつの間にこんな玉が?」


          な、に………?














          「この光……間違いない。勝真さんも八葉なんだ」
 
          「ということは、勝真殿はひょっとして地の青龍……?
           はっ、もしや」


          泉水……?





          「花梨殿、朱雀解放時のことを覚えておいでですか?」

          「あっ! そういえば確か朱雀が操られていたせいで……」

          「同じ方法が有効がどうかわかりませんが、
          とにかく試してみます」


          何だろう……朱雀解放時に何かあったの………?






          「殿、どうか落ち着いてください。
           勝真殿は、あなたのような心優しい方のお世話をしてくださった方」

          「あのね、あたしなんかよりよっぽど、
           勝真さんは本当は優しい人なんだよ……」

          「あの方は、おそらく地の青龍です。
           青龍が操られているせいで、天の青龍である頼忠と、
           はからずもいがみ合っているのでしょう」


          えっ……?





          「ほ、んと……?」
 
          「ええ、ですからご安心を。
           用は、お二人に心を落ち着けて頂ければよいのです」


          そ、そっか……






          「ありがとう、泉水……」

          「いえ、大したことはしておりません」

          「泉水さん、お願いします!」

          「はい、花梨殿」


          そして泉水は、笛を取り出してそれを吹き始めた。











          「さん、泉水さんを信じていれば大丈夫ですから」

          「花梨ちゃん……」


          花梨ちゃんが、あたしを抱きしめてくれた。












          「この笛の音は……?」

          「俺は、一体どうしてたんだ……?」


          ……! 二人の様子が変わった……?














          「勝真さん、聞いてください。
           あなたは、京を守る四神を知ってますよね?

           そのうちの青龍と朱雀は、何者かの手によって捕らえられ、
           京を呪う呪詛に使われていたんです」


          あたしを抱きしめたままで、
          花梨ちゃんはまくし立てるように説明する。





          「なんだと!?」

          「私たちはこの間、四神の一つ朱雀を解放いたしました。
           今日ここへ参ったのは、同じように封印されている
           青龍を解放するためなのです」


          そっか、だから頼忠さんと勝真さんが関わるイベントなんだ……!












          「――待て。話は後だ」


          頼忠さんが突然、泉水の話を遮った。

          もしかして……誰か、いる……?






          「女、隠れても無駄だ。姿を現せ」


          やっぱり!






          「くっ……まったく忌々しい笛の音だね。
          頭痛がするったらありゃしない」

          「あ、れ……?」


          この人、どこかで……。






          「なんだ、たれこみの当人がこんなところで、
          何をこそこそしてるんだ?」

          「シリン! やっぱりあなただったのね!」

          「……!」


          そっか、シリンだ!
          あかねちゃんのとき……もとい、遙か無印でも出てきたよね。

          鬼の一族のシリン……!!















          「この女を知っているのか?」

          「朱雀を操ったのも、この女だと聞いている」

          「じゃあ、こいつは青龍を封じ込めておくため、俺を利用したっていうのか!?」

          「ふん、ばれちゃしょうがない。
           せっかく京職といういい手駒を見つけたと思ったのにさ」

          「――そうかい。じゃあ、落とし前をつけないとな」


         そのとき、前にも一度聞いたあの音が聞こえた。

          これは……鈴の音……





         「手を貸す。こちらも黙ってはおられん」



          
天地の青龍の心が一つとなった。
        その力に応えよう。




          そして、その鈴の音が何度も聞こえてきた。

          そんな中、花梨ちゃんがつぶやく。









「また、不思議な声が…」