…………あれ?
なんか時間が止まってるみたいになってる……
みんな動かないし……。
「花梨ちゃんは……」
何かと……
ううん、誰かと話をしてるみたいだね……。
「そなたは龍神の神子か? ならば、神子に問う。
勇気とは何か?」
「勇気って……?」
“何かを失うのを恐れないこと”
「……そなたを神子と認めよう。神子の願いを聞き届けよう」
……! この光は……
「……ここは、神楽岡? 私、戻ってきたんだ」
花梨ちゃんがそう言った直後、辺りが光に包まれた。
そして、何か札らしきものが現れる。
「これは青龍の札!」
「青龍の封印を解かれたのですね。
おめでとうございます」
すごい、花梨ちゃん!
やっぱり、龍神の神子はあなただね……
あたしより年下なのに、あたしより立派だと思う……。
「青龍の札? じゃあ、お前たちが言ってた通り、
青龍解放に成功したってわけだな」
「くっ、こしゃくな!」
あたしは牡丹の姫に選ばれた。
だけど、選ばれただけじゃいけない。その役目を果たさなければならない。
「お答え願おう。お前の企みはなんだ」
「企みも何もないさ。愚かな人間同士が勝手に争ってるんだ」
「――無礼な!?」
「だから何さ。
どうせ今に院も帝もなんの意味も持たない世の中になるんだ。
京はやがてあたしたち鬼の一族の支配を受けるようになる」
あたしに出来ることは何?
京を散策するだけ?牡丹の姫について調べるだけ?
「あたしはお館様のため、百年前に果たせなかったことを、
今度こそ実現してみせるよ!」
「鬼の一族……?」
「馬鹿なこと言うな! 百年前に滅びた連中を騙って何が楽しい!」
違う……あたしに出来ることは、そんな事じゃない。
あたしにしか出来ないことが……
何かあるはずなんだから…………!!
「はっ、お前たちなんかと遊んでいたって仕方がない。
そっちが青龍を手に入れようが、神子を殺せば、それで終わりさ!」
「あっ……体が、動かない!」
「ははっ、術にかかったね!
そうだ、こっちへ来るんだよ。あたしの方へ。
アハハ、この邪気の中、他の連中は動けないだろう!」
「(嫌だ、足が……!)」
……え!?
いつの間にやら危険な展開に!!
「おやめください! その方を離してください!」
「ちっ、どうして動けるんだい?
寄ってくるんじゃない、うるさいんだよ!」
泉水、強えぇ……!!
(シリンはああ言ってるけど、普通に動いてるじゃん!!)
だけど、花梨ちゃんを助けようとする泉水を、シリンは弾き飛ばした。
「くっ……!」
「ああっ、泉水さん!」
牡丹ノ姫……アナタノ力ヲ此処へ…………
そのとき、誰かの声が聞こえた
あたしの……力…………
「(苦しいよ……)」
「もう少しだけ、待ってください。――すぐにお助けいたします」
「お遊びは、もう終わりだよ。覚悟おし、一気に片をつけて……」
ザシュッ!!
「さん!?」
「「殿!?」」
「…?」
……だから、名前を連呼しすぎなんだってば(苦笑)
「……くっ! なんだい、あんたは!?」
「あたしは……牡丹の、姫…………」
そう、龍神に選ばれた牡丹の姫…………
「牡丹の姫、!
龍神の神子を傷つける者は、あたしが片付けてやる!!」
いつまでも落ち込んでるあたしじゃないのよ!
様、ふっかーーーーーつ!!
「牡丹の姫? そんな奴、聞いたことないね」
「聞いたことなくて、結構。
だけど、もう忘れられないようにしてあげる」
「体が……自由になった…………」
「花梨ちゃん、無事だね?」
「は、はい!」
よーし、それならOK!
「さん、扇で攻撃できるんですね! すごいです!!」
「それほどでもないよ!」
「つーかお前、その扇は……」
勝真さんが何か言いたげだけど、気にしない!!
「さあ、シリン。
神子を狙うというのなら、あたしが相手になるよ」
「くっ……
(神気を纏っている上に、戦闘向きの小娘か……
厄介だね…………)」
この扇でどこまで戦えるのか……ちょっと試させてもらうよ!!
「力を合わせましょう、殿」
「うん、頼むね、頼忠さん!」
「はい。
この報い、その身でつぐなえ」
「馬鹿におしでないよ!
お前たちに捕まるようなあたしじゃない。今に見といで」
そう言い残し、シリンはさっさと姿を消してしまった。
てか、捨てゼリフ吐いて逃げるなんて、
なんというお決まりなパターンなのよ!!
「き、消えた……!?
じゃあ、あいつは本当に鬼の一族なのか…………」
はい、鬼の一族です。
……とか、あたしが言ったらマズイんだろうなぁ、やっぱり。
「花梨殿、ご無事だったのですね……
よかった…………」
そう言った泉水は安心して力が抜けたのか、その場に倒れた。
「泉水!?」
「泉水さん、大丈夫!?」
「はい、なんとか………
お見苦しいところをお見せして申し訳ありません……」
「ありがとう、助かったよ」
「私、少しはお役に立てたのでしょうか……」
泉水は泉水なりによくやっていたよね。
あたしだって、もっと頑張れたはずなのに……
「ただ……私にもう少し力があれば
あなたをこんな危険な目にあわせなくても済みました……。
そのことを思うと、
自分に何の力もないことがつくづく哀しくなってまいります……」
「そんな、泉水さん!」
「なあ、こいつ本気で言ってるのか?」
「そのようだ。あなたのご協力に感謝します、勝真殿。
先ほどは朝廷に仕える官人のあなたに対し、
礼儀にもとる点があったことをお詫びします」
……あ、なんとか青龍組も少し和解できたみたいだね。
「私はこちらの花梨殿にお仕えしている源頼忠と申します」
「やめてくれ。どうせ吹けば飛ぶような木っ端役人だ。
そんなふうに礼儀正しくされる筋合いもないしな」
「そうですよ、頼忠さん。勝真さんなんて呼び捨てで充分です」
「、お前って奴は……。
……とにかく、 さっきと同じ調子でしゃべってくれたほうがよほどいい」
「……。承知した。では、今後は勝真と呼ぼう」
「ああ、そうしてくれ。俺もお前を頼忠と呼ぶ」
何だかんだ言って、青龍組は仲良しなんだよねー、本当にさ。
頼久さんと天真くんもそうなんだから、まったく!
「では勝真、改めてお前の協力に感謝する」
「礼を言われる筋合いはない。
お前たちとあの女では、どちらが怪しいかというだけの話だ」
「勝真殿が協力してくださったのも、やはり八葉なればこそだと思います」
「ええ、私もそう思います」
そ、そっか!
勝真さんが八葉だって、とうとう発覚したんだった!!
「さっきから八葉、八葉と……何を言っているんだ?」
「八葉とは、龍神の神子を守るために龍神に選ばれた
八名の人間のことです。
私と頼忠も、この方の八葉です」
「ということは……
つまり、こいつが龍神の神子だと言いたいわけだな?
悪いが、俺は神子なんてものは信じられない。
だから、それを信じる院側の人間も信じることはできない」
勝真さん、信じてないんだ……。 …………あれ?
でも、院のおそばにいる神子って、勝真さんの妹じゃ……。
「どうしてもだめですか?」
「お前が悪いヤツだとは思わないが神子だとは信じられないな。
今の俺が言えるのはそれだけだ」
「花梨ちゃんはいい子です、勝真さんの馬鹿」
「…………」
「あ、あの、さん……」
雰囲気を悪くしたことは自覚してますが、
あたしまだ勝真さんのこと怒ってるんだからね!!
「じゃ、じゃあ、協力してもいいという気になったら、来てください。
あなたの力が必要なんです」
「ああ、一応覚えてとく」
「一応じゃなくて、ちゃんと覚えといてください勝真さんの馬鹿」
「さん……!」
花梨ちゃんが焦ってるけど、ここは譲れないからね。
(ごめんね、花梨ちゃん!)
「…………。
そうだ、協力しない代わり一ついいことを教えてやろう。
あの白拍子、最近は白河のぬえ塚によく現れるって話だ。
京職の間で噂になってたぜ」
ふーん……そのぬえ塚って所で、何かやってたのかな。
「じゃあ、俺はもう行く。
念のため、あの白拍子には十分気をつけて帰るんだな」
「…………花梨ちゃん、ごめん」
「え……?」
「勝真さんのせいで嫌な思いしちゃったね……」
止められたはずなのに、あたしは止められなかった。
「あたしが無力だから……」
「さんが落ち込むことじゃないですよ!
私も解ります。勝真さんは、優しい人です」
「花梨ちゃん……」
「それに、さんは私を助けれくれました。
無力なんかじゃないです!!」
そう、なのかな……。
「花梨殿のおっしゃる通りです、殿。
どうか、元気を出してください」
「殿は、戦うことに対して恐怖心はお持ちでないようで……
そこは、あなたの強さで、力なのではないでしょうか?」
「泉水……頼忠さん……」
慰められちゃったなぁ……
あたしは、神子でもない、ただのオマケなのにね。
「……ありがとう、みんな!」
「こちらこそ、ありがとうございました、さん!」
「うん! じゃ、あたしもお邸に戻るね」
「はい」
勝真さんは京職の官衙に寄るのかな?
まぁ、とにかく……
「勝真さんのことは叱っとくからね!」
「え、別に大丈夫ですよ!
いがみ合ってたのは、青龍が呪詛に使われてたせいだし……」
「それでも駄目なの!
どうせ一緒のお邸に住んでるんだから、絶対に叱る!!」
あたしの気が収まらないしね!!
「じゃ、またね、みんな!」
「はい!!」
「お気をつけてください、殿」
「失礼します」
さーて、勝真さんにお説教だ!!
お邸へ帰ろう!!