勝真さんは、きっと京職の官衙に寄っていくよね。
          じゃあ、先に館に戻って、帰りを待ってよっと。



          「帰ってきたら絶対お説教してやるんだから!!」











          「……へえ、誰に説教するって?」
 
          「決まってるでしょ、勝真さんだよ!!」

          「そうか、俺に」

          「そうよ、俺に……」


          …………ん?

          あたし今、誰と会話してたの?
          一人で帰ってたはずなんですけど!?


          ところで、“俺”とか聞こえましたけど。
          え、嘘? まさか? 本当に……?











          「か、勝真さん……」

          「人がせっかく待っててやったのに、お前って奴は」


          え、待っててくれたの!?
          官衙に向かったのかとばかり……。





          「勝真さん……



          って、
誤魔化されたりしない!!

         「お、おい、……?」

         「勝真さん!あたしは怒ってるんですからね!!」


          花梨ちゃんに意地悪した(?)こと、反省してもらわなきゃ!!





          「まず、『すみませんでした』と言ってください」

          「なんでだよ」

          「むやみやたらに花梨ちゃんを疑ったからです」

          「…………」


          なんだか、勝真さんは不満なようです。
          (でも引き下がるあたしじゃない!)














          「勝真さん……?」

          「っ……。悪かった、と思ってるさ」

          「はい、それで?」

          「あいつらにも……嫌な思いをさせたとは分かってる。
           けど、俺だって必死だったんだ……!」


          あたしだって、解ってるんだよ。
          あなたが、京のために頑張っていることを。






          「勝真さん……あなたは焦っているんです」

          「焦ってる……?」

          「京のために何かやりたい。
           けれど、京職の仕事はほとんど検非違使に取られてしまった」

          「……! お前、知ってたのか……」


          女房さんが、こっそり教えてくれたから。





          「だから、焦っているんです。けど、それじゃダメなんですよ」

          「じゃあ……俺は何をすればいいんだ?
           俺に出来ることは、何もないのか!?」


          勝真さんが、声を荒げた。
          きっと、相当悩んでいたんだろう。





          「何もないわけないです」

          「だが……!」

          「勝真さんにだって……ううん、勝真さんにしか出来ないことは
           たくさんあるんですよ。それに、気付いてないだけで」

          「……例えば?」


          例えば?
          そうだなぁ……。





          「そうですね、あたしを助けてくれたこととか?」

          「は……?」

          「あたしは、自分の意思に関係なくこの京にやって来ました。
           やって来てしまったのは、変えようのない事実」

          「…………」

          「ここの人間じゃなかったんです。
           けど、やって来てしまった。それはもう、京の人間なんですよ」


          京の人間って言っても、おかしくないの。





          「その人間が、住むところが無くて困っていた。
           それを助けてくれたのは、勝真さん、あなたです」

          「……偶然だろう」

          「偶然だって必然だって関係ない。
           あたしを助けてくれたのは、他でもないあなた自身なんだから」

          「……!」


          京職だから、とかじゃない。
          勝真さんという人が、助けてくれたのだから。













          「ね? 勝真さんにしか出来ないこと、あるんですよ」

          「……ああ」

          「だから、焦る必要は無いんですよ。ゆっくり、ゆっくり行けば」


          確かに、京を救うためには急がなくちゃいけないと思う。
          でも、そうじゃなくて……





          「焦っていては、見えるものも見えなくなりますから」

          「……」

          「だから、落ち着いて進むべきなんです」


          あたしだって、さっきは焦ったよ。
          勝真さんがいつもの勝真さんじゃなくて、取り乱してしまったよ。

          けど、花梨ちゃんが頑張っていた。
          それを見て、あたしもこんな所で泣いてる場合じゃないな、って思ったの。















          「……すまない」

          「え……?」

          「嫌な思いをさせてしまって……悪かった………」


          勝真さん…………。






          「……分かってくれたなら、いいです。
           でも、あたしも偉そうなこと言って、ごめんなさい」

          「いや……お前の言葉はためになる。ありがとな」


          そんなお礼言ってもらえるような事は言ってないけど……!






          「じゃ、帰りましょうか!」

          「そうだな」














          「……あ! そうだ、勝真さん!」

          「何だ?」

          「待っててくれて、ありがとうございます!」

          「……! あ、ああ……」


          あたしが花梨ちゃんと話し終わるの、待っててくれたんだよね。
          お仕事だって、あるだろうに……。





          「さってとー! 今日のご飯も楽しみだな〜〜」

          「…………」















          『……うっ……ひっく…………』











          「俺は……お前に怒られるより、
           お前に泣かれる方が応えるんだが、な…………」













          ……あ、そうだ!
          勝真さんが八葉だって発覚したんだし、伝えておかなきゃ。




          「勝真さん!」

          「ん? 何だ?」

          「あたし、花梨ちゃんを……
           龍神の神子を援助する、牡丹の姫っていうのに選ばれたんです」

          「牡丹の……姫?」

          「はい」


          なんで選ばれたのか、とかは今は置いといて。





          「初めて逢った日に、『何者かは、今は説明できない』と
           あたしは言ったと思います」

          「……ああ、確かに、ってたな」

          「でも、勝真さんが八葉だって解ったから、言いますね」


          隠し事みたいで、嫌だったし……ね。





          「あたしは、龍神に選ばれし牡丹の姫、
           あなたが信じられないという龍神の神子を助ける立場にいます」


          そして、改めて。





          「改めて、よろしくお願いします、勝真さん!!」

          「……ああ、よろしくな、

          「はい!!」


          ありがとう。
          あたしを拒絶しないでくれて、ありがとう。

          龍神の神子に関係する人間だって知れば、
          追い出されるかもしれないと思ったのに……。












          「……おい、もしかして、
           その牡丹の姫とかいう役目があるからあんな風に戦えたのか?」

          「え、あー……そうかもしれませんね」

          「けどお前、扇で戦うって……」


          あ! そーいえば、そうだった……!!






          「ご、ごめんなさいっ!!」

          「何の事だ?」

          「だって……
           せっかく買ってくれた扇で戦うなんて…………」


          なんて最悪な使い方なんだ……!






          「それはもうお前の物だからな。お前がどう使おうと、構わないさ」

          「勝真さん……」

          「使い方がどんな風であれ、使ってもらってるわけだし、
           贈った方としては嬉しいけどな?」


          そ、そうなのかなぁ……。















          「で、でも良かったです」

          「ん?」

          「この扇で戦えること、こないだイサトくんと法勝寺で
           怨霊と遭遇したときに分かったんですが……」

          「……?」

          「戦いに使っても……
          傷がつかなくて良かったな、って…………」

          「……」

          「せっかく勝真さんがくれたんだもの。
                  大切に使いたいですから」


          戦いに使ってる時点で大切に使ってない、
          と言われたら痛いとこだけど……。





          「……ま、でもあんまり無茶するなよ?」

          「はい!」

          「俺だって戦えるから……一人で無茶しないでくれな」

          「……! はい!!」


          あたしの出した結論。






やっぱり、勝真さんは優しい!!