「さってと! 今日も散策してこよう!!」


          だけど、ただの散策じゃないよ?
          怨霊が悪さしてないか見に行くんだからね!!











          「? 何処か行くのか?」

          「あ、勝真さん!」


          お邸の玄関前で意気込んでいると、
          勝真さんが声をかけてきた。





          「はい、まだ行ったことの無い場所に行くつもりです!」

          「そうか……じゃあ、俺も行く」


          え?





          「で、でも、お仕事はいいんですか……?」


          てっきり、シリン探しとかするのかと思ってたけど……。





          「ああ……今日は休んだ」


          ええ!





          「なんでですか!?」

          「いや……お前に行きたい所があるなら、
           一緒に行こうと思って、な」

          「勝真さん……」


          昨日のこと、気にしてるのかな……?











          「じゃ、じゃあ、一緒に行きましょう。
          案内、よろしくお願いします!」

          「ああ、任せておけよ」


          わざわざ休んでくれたんだな……
          どうしよう、何だかすごく嬉しい…………。



















          「わぁ! すごく見晴らしがいい!!」


          そんなこんなで、何処かの山にやって来ました!!





          「ここは船岡山と言うんだ。ここから京全体が見渡せる」

          「すごいですねー!」


          頑張って登ったかいもありますよ!
          ってか、船岡山だったら知ってるし!!





          「これが……京、なんですよね」

          「ああ」

          「勝真さんが生まれ育った場所……」

          「…………」


          それから……






          「それから…………今の、あたしの居場所」


          はからずもここにやって来たけれど。
          今は本当に、救いたいと思っているよ。

          優しい人がたくさんいる、この世界を。
          この、京を。


          そして、おそらく同じことを考えている花梨ちゃんの、
          助けになってあげたいよ……。













          「……!」

          「おい、。どうかしたのか?」


          この気配は……






          「勝真さん! 近くに怨霊がいます!!」

          「何だって!?」


          間違いないよ!
          法勝寺にいたとき感じたのと同じだし……!






          「……!」

          「コイツか……!」


          って、探そうと思ったとたんに怨霊の方から出てきたし!?






          「と、とにかく! コイツを倒しましょう、勝真さん!!」

          「ああ……けど、無茶はするなよ!」

          「解ってます!!」



          
牡丹ノ姫ヨ……言ノ葉を音ニシテ…………




          また、この声が……







          「でも、言の葉って……?」




          
浮カンデクル言ノ葉ヲ……音ニシテ…………




          浮かんでくる……言葉…………















          「…………牡丹……乱舞……!!」



          ザアアッ…!!






          「おい、! この風は……!」


          よし、上手くいったみたいだね……













          「! 、危ねぇ!!

          「……!」


          あたしの攻撃を受けた怨霊は、
          苦しみながらも再びこちらに向かってきた。

          一瞬のことで戦闘態勢に戻りきれなかったあたし。
          向こうに居た勝真さんが、弓を放って助けてくれた。












          「…………危なかったな」

          「あ、ありがとうございます、勝真さん……」


          やばいやばい……
          攻撃が決まったからって、油断してたら駄目なんだよね……。





          「お前、イサトに無茶するなって言われなかったか?」

          「え……?」


          確かに言われたけど……なんで解るんだろ?






          「アイツ、ああ見えてけっこう心配性だからな。
           無茶する奴には絶対に『無茶するな』って釘をさすんだよ」

          「はぁ……ってことは、勝真さん的に
           あたしは“無茶する奴”と見られているんでしょうか?」

          「そういうことだ」


          なるほど……

          って、何それ!!






          「あたしは無茶なんてしてませんよ!!」

          「充分してるだろ?」

          「してません!!」


          ちょっと、扇で攻撃しただけだもん!!











          「ま、そういう事にしといてやってもいいけどな」

          「なんだか突っかかる言い方ですねー……」


          この人のことだから、わざと言ってるんだろうけどね!
          ときどきすごく意地悪だし!!






          「何にしろ、少しは俺を頼れよ?」

          「……! 
           ……はい、ごめんなさい」

          「解ったなら、それでいい。さ、行くぞ」

          「は、はい!」


          もう、意地悪なのに優しいなんて、卑怯だよ……。

















          「…………ん?」

          「どうした?」

          「いえ……ただ、あそこにウサギがいるので……」

          「ウサギ……?」


          可愛いかも!






          「餌でもあげてみるか」

          「お菓子なら持ってますけど……食べてくれますかね?」


          なんで持ってるのかって?
          いやお菓子は必需品だからね、本当に。






          「食べるかもしれないな」

          「じゃあ、あげてみよっかな。
           ほら、お菓子だよ〜」


          ぱくっ





          「あ!」

          「食べたな」


          可愛いーー!!

          ウサギを抱っこしたいな、なんて思っていたとき、
          何か優しい感じがした。






          「えっ……?」


          何、これ……





          「それ……札、か?」

          「は、はい……」


          あ、これってもしかして……!















          「具現化……!」

          「具現化? なんだ、それは」

          「え、えーと……龍脈の力を、目に見える形にすることですよ。
           お札という形にしたんだと思います、この場合……」


          あかねちゃんがやってたよね!!
          神経衰弱っぽい事やってたよ確か!!





          「これも、牡丹の姫の力なのかな……」

          「……そうかもな」


          え……?





          「勝真さん……信じてくれるんですか……?」


          あたしを拒絶しないではいてくれたけど、
          てっきり、“牡丹の姫”の事は信じてないものかと……。





          「初めは信じてなかったが……
           さっきの技を見せられたら、な」

          「あ、怨霊と戦ったときに……」

          「それに……なんだかお前の言うことは、信じたいと思う」


          勝真さん……















          「あたし……すごく嬉しいです…………」

          「お、おい、なんでそこで泣くんだ」

          「だって……」


          信じてもらえたことが、すごく嬉しいんだもの……。





          「ったく……お前は強いんだか弱いんだか解らないな……
           (それに、お前の涙には敵わないから、苦手なんだ…………)」


          そんな事を言いつつも、勝真さんはやっぱり優しい。
          だって……





          「早めに泣きやめよ? 暗くなる前に帰るからな」

          「はいっ……」


          あたしが泣き止むまで、抱きしめてくれてたんだから……。






















          「じゃあ、帰るか」

          「はい!」

          「……ああ、そうだ」

          「……?」

          「ほら」


          え、何だろう?
          手……?






          「帰りは、時間短縮のためにさっきより少し険しい道を行くからな。
           転ばないように、手をつないで行くぞ」

          「えっ!? でも……!」


          なんか恥ずかしいんですけど……!





          「いいから、ほら」

          「あ、あのっ……!」


          な、なんか、あたし、おかしい……!





なんでこんなにドキドキしてるの……?