「早く目が覚めちゃった……」


          ――ふと、花梨の耳に、幾度となく聞いている鈴の音が届く。





          「…………あれ、何か……なんだろう?
           庭の方かな?」












          「ほう。気づいたか、神子」

          「アクラム!」

          「ようやく八葉もそろったな。信頼は得ていないようだが。
           そのような調子では何もできぬぞ。京を救うことも、帰ることもな」

          「(アクラムは何を考えているんだろう?
           わからないことが多くて信じられない)」





          「フフ、睨むか。悪くないぞ。強くあれ、神子。
           ――それがすべてを導くだろう」

          「……あなたは、私の敵なの? 味方なの?」

          「お前は私の手駒……。
           私はお前の動きしだいで敵にも味方にもなろう」





          「待って、アクラム!


          どういうこと? 私が、手駒……?」





















          「……!」


          この気配……まさか……。





          「? 何処に行くんだ?」

          「か、勝真さん!」


          なんというタイミング!!





          「あ、あの、ちょっとお邸の周りを散歩してきますね!」

          「一人でか?」

          「大丈夫です、本当にすぐ近くですから!
           朝ごはん前には帰ってきますねー!」


          だだだっ





          「あ、おい、……!」


          ごめんなさい、勝真さーん!!













          「はぁっ、この辺のはずだけど……」





          「ほう、気づくのが早かったな、牡丹の姫」

          「アクラム……」


          やっぱりいたか……。





          「あたしは嫌いな奴の気配はすぐ察知するんだよ」

          「フッ……お前の力は元より強い。
           好き嫌いなど関係無いのだよ」


          あー、うるさい奴だな、もう!!





          「それで? ここにいるってことは、
           花梨ちゃんじゃなくあたしに用なんでしょ? 一体何の用なの?」

          「神子には今しがた会ってきた」

          「え……」


          花梨ちゃんに……?





          「ちょ、ちょっと、アンタ!
           花梨ちゃんに危害は加えてないでしょうね!?」


          こんな朝早くだと、八葉のみんなはまだ来てないはず……
          花梨ちゃんを守ってくれる人が誰もいないよ……!





          「心配はいらぬ。神子は私の手駒だ。
           必要である以上、危害は加えぬ……今はな」

          「……その言い方だと、いつかは危害を加えるってことだね」

          「さあな……それは神子、そしてお前次第だ、牡丹の姫」

          「…………」


          こいつ……何考えてるんだろう……。









          「……いや、何を考えているにしろ、
           どーせアンタが考えてるんだからロクなことじゃないでしょ!」

          「心外だな」

          「うるさい!
           とにかく、今ここであんたを倒せばいいだけだよ!」


          あたしは、自分の武器である扇を取り出した。





          「また同じことを繰り返すか」

          「あたしは学習するんだよ」

          「……その扇で、私に敵うと?」

          「そのつもりだけど?」


          前にも思ったけど、さすがだな……

          こっちは武器を構えているってのに余裕だし、
          けれど全くスキがない…………。





          「フフ……今ここでお前を葬ることも一興だが、
           まだお前には働いてもらわねばならない」

          「何、言って……」

          「神子同様、お前も私の手駒なのだよ」


          手駒……?





          「そんなものになった覚えはない!」
    
          「お前にその気がなくとも、
           既にお前は私の手駒として動いているのだ」

          「そんなこと無い!」

          「お前は解らなくとも、それでよい。
           私の思い通りに動いてさえくれれば、な」


          あたしがこいつの手駒? 冗談じゃない!!










          「手駒なんかになってたまるか!
           やっぱり今ここで倒す!!」


          だけど、肝心のアクラムはあたしの前から姿を消してしまった。





          「また……」


          一体どこに…………?





          「牡丹の姫よ……お前はさらに強くなれる。
           今よりもさらに……強くなれ…………」










          「…………」


          アクラム……

          本当に、あいつは何を考えているんだろう。
          あたしと花梨ちゃんを手駒だって言ってた。





          「……でも、きっと良くないことを引き起こすつもりだろう」


          そういう奴だったから、ね。
          あかねちゃんのときから……。





          「人の性格ってのは、そうそう直るもんじゃないんだよ」


          だから、あいつが改心したとか、そーゆーのも考えにくい。
          やっぱり、何か企んでると見て間違いないよね……。


          …………。










          「……なんかお腹すいたかも」


          早くお邸に戻ろう。
          勝真さんとの会話、無理やり断ち切って来ちゃったしね……。




















          「やっと帰ってきたか、

          「あ、勝真さん……」


          どうしよう、また心配かけちゃったかな……。





          「……女房たちが、朝餉の支度をして待ってるぜ」

          「え、本当ですか! 今すごくお腹すいてるんです!」

          「じゃあ、食いに行くか」

          「はい!」


          ご飯、もしかして冷めちゃったりしてないかな?
          女房さんたちに悪いことしたかも……!

          で、でも、女房さんたちのご飯は
          冷めても美味しいから大丈夫だよね!!












          「……ははっ」

          「え、ちょ、何笑ってんですか、勝真さん!」

          「いや、百面相してるな、と思って」

          「あたしの顔見て笑ってたんですか!?」


          ひどい!!





          「だって面白いだろ?」

          「面白くないです!」
 
          「けど……」

          「……?」





          「やっぱり、お前は笑顔が一番だな。
          こっちまで笑顔になれる」

          「……!」


           …………。






          「どうかしたか、

          「な、なんでもないです……」

          「……?」


           そのセリフと顔は反則だよ、勝真さん…………。





          「ほら、行くぞ、

          「は、はいっ」


          どうしよう……







やっぱり好きだよ…………