「様、お目覚めですか?」

          「はい! おはようございます、女房さん」

          「おはようございます。
           今朝は昨夜の雨により、草木もきらきらしていて綺麗ですわ。

           宜しければ、朝餉のお支度が出来ますまで、
           庭に出てご覧になってみてはいかがでしょう?」


          そういえば、夜中に雨が降っていたみたいだよね。





          「そうですね、じゃあ見てきます!」

          「朝餉のお支度が整い次第、お呼び致しますね」

          「はい、お願いします」

          「それでは、私は失礼致します」

          「はい!」


          よーし……





          「じゃあ、早速お庭探険だ!」


          うわぁ〜、ほんとにキラキラしてて綺麗……!





          「……あ、このピンクの花、可愛いな」


          そのとき、誰かが塀の向こう側を歩いてる気配がした。





          「お客さんかもしれないな……」


          とにかく、門のところまで行ってみよう!
















          勝手に開けるのもどうかと思ったんだけど……

          やっぱりさっきの足音がこのお邸の前で止まった気がしたから、
          あたしはその扉を開いてみることにした。すると……





          「あ、あなたは……」

          「頼忠さん!」
 
          「おはようございます、殿」

          「おはようございます!」


          頼忠さんだったんだ!





          「こんなに朝早くからどうしたんですか?」

          「はっ……昨日(さくじつ)、神子殿より殿宛ての文をお預かりしました。
           遅くにお伺いするわけにも行かず、今朝こうして届けに参ったのです」
 
          「あ、なるほど」


          って言っても、きっとそれってあたし的に「遅く」じゃない気がする……
          なんとなくだけど……。
          (この世界的には「遅く」なんだろうけど)





          「こちらがその文でございます」

          「ありがとう、確かに受け取りました」

          「それでは、私はこれで失礼致します」

          「お疲れ様です!」


          そうして頼忠さんは帰っていった。





           「文かぁ……何が書いてあるんだろう?」


          朝ごはんが出来るまでは、もう少しかかりそうだね……
          よし、花梨ちゃんからの文を読んで待ってよう!





          「なになに……」


          ……。

          …………。




          ……!




          「これって……」


          なんだかまずそうだな……。













          「?朝餉の用意が出来たらしいぜ」

          「あ、勝真さん! 今日、お仕事はお休みですか!?」

          「あ、ああ、休みだが。どうかしたのか?」

          「ちょっと相談したいことがあるんです!」

          「相談?」

          「呪詛のことです」

          「……!」





















          そんなわけで、朝ごはんを食べ終わったあたしと勝真さんは、
          船岡山まで来ていた。

          お邸の中だと誰かに聞かれちゃいそうだし……ってことで、
          なんとなく人気の無さそうな船岡山をチョイスしたの。







          「で、呪詛がどうかしたのか?」

          「それが……花梨ちゃんからの文によると、
           彰紋くんのお兄さんの親王様?が、
           何らかの形で呪詛に関わっている可能性があるみたいなんです」

          「何だと? 和仁親王が……?」


          彰紋くん、気にしてないといいけどなぁ……。





          「……だが、そうすると色々とややこしくなってくるぞ」

          「その和仁親王って人は、
           どちらかと言えば院側の人なんですよね?」

          「ああ……もし、和仁親王が呪詛をしかけているとすれば、
           院が仕向けたものだと見られてもおかしくない状況だ。

           それが真実でも、そうでなくともな」

          「そ、そんな……」


          そしたら、今度は泉水たちが気にしちゃうよ……。





          「……真実がどうであれ、
           何だかあまりよくない状況ってことですよね」

          「そうなるな……」


          うーん、どうしたものか……。










          「けど、なんで和仁親王が呪詛に関わってるって思ったんだ?」

          「文によると、彰紋くんが何か嫌なものを感じ取ったからだそうです」


          彰紋くんだって八葉だからね……
          そういうことに、敏感なのかもしれない。





          「そうか……」

          「とにかく、十月二十二日に玄武を解放しに行くそうなので、
           もしかしてそのとき真実が解るかもしれませんね」

          「その可能性が高いな」


          その日はあたしも付いていこう……。





          「……だが、ここで考え込んでいてもしょうがないからな。
           今日はもう帰るか」

          「そうですね!」


          真剣に考えてばっかりだと疲れちゃうからね。
          たまには気を抜くことも大切だよ!
          (でも、やるときはやるよ!!)


















          「……あ、」


          あのお店でお饅頭売ってる! おいしそう……!





          「食べたいのか?」
 
          「ええっ!なんで解ったんですか!?」

          「だってお前、食べたいって顔に書いてあるぜ」

          「嘘!?」


          私はそんなに解りやすかったわけ!?
          いやいや、でも自分としてはポーカーフェイスだったんだけど……

          まさか、出来てなかったとか!? そんな……!!





          「は解りやすい方だろ。……ほらよ」

          「わあ! 買ってきてくれたんですか、勝真さん!!」

          「まあな」


          あたしが色々と(?)考え込んでる間に、
          勝真さんがお饅頭を買ってきてくれたみたい! さすが!!






          「ありがとうございます!」

          「気にするな」

          「いただきまーす!
           ん〜……おいしい〜!」


          甘いものって、ほんと食べると幸せになるよね!
          (あれ? でも、砂糖って無かったんじゃ……)

          ま、いっか!おいしいし!





          「饅頭ごときで幸せになれるなんてな」

          「むっ! いいじゃないですか!」

          「誰も悪いとは言ってないさ」

          「それならいいですけどー……」









          「……ただ、無邪気だなって思ったんだよ」







その無邪気さが、きっと俺の救いになっているのだろうから。