「(時朝さんはいなくなったけど……
           でもすごく……体がだるい…………)」





          「花梨ちゃん、しっかり!」

          「駄目です……。
           時朝殿が去ってもお顔の色がよくなりません、どうしたら……」

          「かなり強い穢れだな。邪気の元が去っただけでは消えぬ。
           泉水、手伝え。花梨の穢れを祓うぞ。
           お前と私の気を合わせればこの邪気も清められよう」

          「……解りました。
           神子をお助けするために私の気をお使いください」


          泉水……やっぱり八葉の一人だね。
          ちゃんと、やるべきことを理解している……。





          「、お前は舞を舞え」

          「へ?」
 
          「神子に、お前は扇で戦うと聞いた。
           ならば、その扇は神気をまとっているはずだ。
           その扇で泉水の笛に合わせて舞え」

          「そ、そんなこと言われても、あたし舞なんて出来ませんよ!?」


          3の朔ちゃんじゃないんですから……!





          「お前が牡丹の姫なら出来るはずだ」

          「……! ……解りました」


          泰継さんが言うんだ、信じてやってみよう……












          「えーと、扇は……」


          …………あれ? 無い!?
          どどど、どうしよう……!





          「何やってんだ、。ほらよ」

          「あ!」


          あたしの扇!





          「今朝急いでたから気づかなかったろ。
           館を出る寸前で落としてたぜ」

          「そうだったんですか……。ありがとうございます、勝真さん!」

          「ああ。それより……早く花梨を助けてやれ」

          「はい!」


          正直、舞なんてこれっぽっちも解らないけど……

          やるしかない……!













          「泉水、やれ」

          「はい。……龍神よ、我が笛の音に力を……。
           神子の穢れをお清めください……」


          泉水の奏でる、綺麗な笛の音が辺りに響きわたる。






          
牡丹ノ姫ヨ……言ノ葉ヲ音ニシテ…………




          「また、この声が…………」



          
浮カンデクル言ノ葉ヲ……音ニシテ…………



          …………。








          「我は龍神の神子に仕えし者、牡丹の姫なり。
           我の気を清らかな笛の調べに乗せ奉らん」









          「さん、本当に舞は初めてなのでしょうか……?」

          「おそらく、な……」







          「……なんて綺麗に舞うんだ…………」



          また……あの鈴の音が聞こえる……








          「陰陽の理よ、清らかな舞を乗せた笛の音の調べと力を借り今、
           邪気の道を絶て!」





          「(嫌な感じが消えていく……
            これが泉水さんと泰継さん、そしてさんの力なの……?)」












          「天地の玄武の心が合わさった。その力に応えよう」


          この声は……?





          「……!」


          この感じは、前にも……











          「……また、不思議なところに来たみたい。
           ここで四神と会えるといいんだけど」






          「――気を感じる」

          「誰……? 誰かいるの…………?」

          「強い神気を持つ娘。そなたは龍神の神子か?」

          「そう呼ばれることもあるけど……あなたは誰なの?」

          「我は、玄武。龍神に仕えるもの。
           そなたが龍神の神子ならば、我が問いに答えよ。『賢さ』とは何か?」

          「賢さって……」


          …………。





          
“多くの声に、耳を傾けること”


















          「…………」


          前と同じで、時間が止まったみたいになってるんだ。
          やっぱりみんなも動かないし……。





          「おそらく花梨ちゃんは……」


          今度は、玄武と話をしている…………。



















          「神子、正しき道を行け。
           そなたの歩む道が常に光に満ちておらんことを。

           我もささやかながら、そなたの道を照らそう。そして……」

          「……?」

          「本当に困ったときには、牡丹の姫の力を借りるが良い」

          「さんの……力……?」





















          「ここは……朱雀門。戻ってこられたんだ」

          「お帰り、花梨ちゃん」

          「さん! ……あ、これが玄武の札!」


          玄武も花梨ちゃんのこと認めてくれたんだね!





          「おめでとうございます、神子。玄武も取り戻せたのですね」

          「穢れは消えたようだな。お前の存在が我らの心をひとつにした。
           お前こそ真の龍神の神子かもしれぬ」

          「三人とも、本当にありがとう」

          「あたしは大したことしてないよ」


          舞ってただけだしね。
          (しかも初心者だってのに……。)





          「花梨さん、無事に玄武を取り戻せてよかったですね」

          「これであの二人が呪詛に関わっているのは間違いないな」

          「もう疑いようも無いですしね……」

          「あのお二人が玄武を呪詛に使っているのだとしたら……」

          「帝を呪っているのは和仁と時朝であろう。
           和仁は東宮の地位を欲している。そのために帝を排したいのだろう」


          その和仁親王って人、一度会って話をしてみたいかもな……。
          (まぁ無理のように思えるけれどね)









          「兄上……それほどまでに東宮の地位が欲しいのですか……。
           僕などが東宮にならなければ、
           兄上は帝を呪うことなどなさらなかったでしょう……」

          「……彰紋くん?」

          「何でしょう、さん……」


          ああ、もうすっかり落ち込んじゃってるな……。





          「彰紋くんが思ってること、当ててあげようか?」

          「え……?」

          「帝が苦しんでるのは自分のせいだって思ってる」

          「……!」


          ビンゴみたいだね。





          「和仁親王って人が東宮の位を欲しがってる。
           でも実際に東宮に就いているのは彰紋くん。

           だから彰紋くんを東宮に選んだ帝を呪うってのも、
           なんとなく構図としては解るよ」


          だた、それが正しいと言うつもりは無いけれど。





          「結果として彰紋くんのせいみたいになってるけれど、
           でも実際はそうじゃないよね」

          「殿のおっしゃる通りです。そのようなことは断じてございません」

          「どんな理由があろうとも、人を呪うなんてこと絶対にしてはいけない。
           あたしは、そう思うよ」


          誰かを苦しませてしまうから、ってのもある。

          だけど、泉水が言っていたことを踏まえれば、おそらく、
          それは自分にも返ってくることだから。












          「……みな、彰紋様が東宮でよかったと心から思っています。
           帝も……もちろん私もです」
 
          「そうそう! だから、もう一人で落ち込んじゃダメだよ。
           何か悩みがあったら、あたし、聞いてあげるから!」

          「どうか自分を責めないでください、彰紋様」

          「殿、泉水殿……。すみません、僕……取り乱してしまって」


          よし、なんとか立ち直ったみだいだね。





          「ううん、いいんだよ! それより、そろそろ館に戻ろうか」

          「ああ、花梨の身が心配だ」

          「そうですね、無理は禁物です。
           お二人のおっしゃるとおり今日はもう帰りましょう」

          「そうですか。私は穢れが残ってないか確かめてから帰りますね。
           どうぞ、お気をつけてお帰りください」


          そ、そっか!後始末(?)も大切なんだよね!





          「泉水、あたしも手伝うよ!」
 
          「いいえ、殿もお帰りください。
           慣れない舞でお疲れでしょうから」

          「う、うーん……」


          確かに疲れてる気もするけれど……。






          「お気持ちだけ頂きます」

          「そ、そう? じゃあ、あたしも先に帰るね」
          
          「はい」

          「泉水殿、後はよろしくな」

          「ええ」







 「じゃあ、帰りましょう、勝真さん」
 
 「そうだな」