「あの子の言ってたお爺さん、今日は蚕ノ社に来てるかな?」


          そうして翌日、あたしと花梨ちゃんは
          年長者である翡翠さんを入れたメンバーで蚕ノ社まで来ていた。





          「おや、これは……。
           なんじゃ、お前さんがた、わしに話があるのかい?

           あいにくわしは眠くてな。あんたたちじゃ面白い話はできそうにないし、
           また出直しておいで。ほっほっほっ」


          そして出来そうにないと決め付けられている……!





          「面白い話ねえ。
           どうやらご老体は退屈しているようだね?」

          「ああ、おかげで眠くてかなわん。一眠りさせてもらえんかな?」

          「一眠りさせてもらえんかって……」


          って、一眠りなんてさせてたまるかぁ!





          「あの、すみません、ちょっとお時間を頂けませんか!?」

          「やれやれ、いったいどうしたんじゃ」


          こっちがやれやれだよ……!











          「なに、ちょっと話を聞かせてほしいだけさ」

          「最近この蚕ノ社の湧き水が
           黒く濁るって話を聞いたんですけど、本当ですか?」

          「なんだ、そんなつまらんことか」


          ちょ、つまらなくないんですけど! 重要事項なんですけど!!
          (このお爺さん、ツッコミどころ満載だな……!!)





          「……それで、本当に黒く濁るんですか?」

          「確かに、どす黒く濁っているがそれがどうかしたのかい?」

          「え、だって大変なことじゃないですか」


          とうとう花梨ちゃんもツッコミ入れちゃったね!





          「なあに、これぐらいたいしたことじゃない。
           水がだめになったら酒を飲めば済むことだわい」

          「うーん、そうかな?」

          「そんな訳ないよっ!」

          「納得するな、花梨。の言う通り問題大ありだ」


          ほら、泰継さんでさえ、とうとうつっこんじゃったし!





          「でも、普通に考えて、
           水が足りなくなったらお酒も造れないと思うんですが……」

          「そうじゃな、これ以上水穢の影響が広がれば、
           酒だって無事では済まんだろう。まったく困ったものだわい」

          「水穢ですか?」

          「ああ、そうだよ。誰かが水の気を呪詛に使っておる」


          水の気を呪詛に……





          「水気の穢れで白虎を縛っているんですね」

          「そうじゃよ」


          そっか……。












          「呪詛の性質を突きとめることができたのは、前進だ」

          「どうやら、本当に呪詛を解除できそうじゃないか」

          「さっすが花梨ちゃんだね!」

          「そんなことないですよっ!
           ……だけど、呪詛を祓うにはどうすればいいのかな?」


          重要なのは、そこだよね。





          「それなら、二つの方法がある。

           一つは青龍の加護を受けた者の力を借りる方法。
           もう一つは白虎の加護を受けた者の力を借りる方法だ」

          「どっちの方法にしようかな……」


          青龍の二人は、今日はどっちも同行していない訳だから……





          「花梨ちゃん、地の白虎・翡翠さんの力を借りよっか」

          「はい、そうですね」

          「ならば、白虎の加護を受けた者と共に、石原の里へ向かうといい。
           そこで『紙』に願文をを書いて白虎へ捧げるといいだろう」


          花梨ちゃんはあたしに文をくれたくらいだもん、
          紙は持っているよね……





          「じゃ、さっそく石原の里へ向かおう!」

          「そうですね! お爺さん、色々とありがとうございました」

          「なぁに、いい退屈しのぎになったわい」


          そして退屈しのぎにされている……!
          (最後までツッコミ入れてしまった……)





          「じゃあ、まあ気楽に頑張っておくれ」





          「気楽に頑張るって、どうすればいいんだろう?」

          「さあね。自分で考えなさい」




















          「石原の里か……。
           ここで白虎に力を送って、白虎の力を強化するんだよね」

          「はい」

          「白虎に願文を捧げるんだったね。紙は手元にあるかい?」

          「はい、ここにあります」

          「どれ、貸してみなさい。……これでよしと。

  

             
西天を司る聖獣白虎よ、御身に願文を捧げまつらん……



          翡翠さんがそう言って願文を捧げた直後、
          辺りが光に包まれる。








          「これは……!」

          「あっ!?」





          「(この丘は……?)」






          「成功したみたいだよ!」

          「どうやら白虎は、自力で呪詛の鎖を断ち切ったようだね」

          「これで白虎を解放することが容易になった」


          またまた前進だね!





          「だが、白虎が封じられた場所は、解らずじまいのようだね」

          「それなんですけど……
           白虎に力を送った時、京を北から見下ろす丘が見えました」

          「それってもしかして、船岡山……?」

          「そうだね、の言う通り船岡山のことだろう。
           では、白虎を解放する日には、船岡山へ行けばいいのだね」

          「花梨、、共に期待しているぞ」

          「「はい!」」





















          「ふぅ〜……」


          今日は白虎解放に向かってかなり前進したよね。
          白虎は呪詛の鎖を断ち切ったし、後は解放するだけだし!





          「お帰り、

          「あ、ただいまです、勝真さん!」


          自分の部屋に向かっている途中で、勝真さんと会った。





          「お仕事終わったんですか?」

          「ああ、とりあえずは」

          「お疲れ様です!」

          「ありがとな」


          勝真さんは、今日はお仕事だったんだよね……
          (だから花梨ちゃんに同行できなかったという、ね)





          「呪詛のことで、何か進展はあったか?」

          「はい、バッチリありました!」


          それからあたしは、今日の出来事と、
          これからのことについて勝真さんに説明した。















          「と、なると……後は来たる日に白虎を解放するだけ、か」

          「はい。その来たる日っていうのは、おそらく、
           これまでと同じように紫姫が占ってくれると思います」

          「そうか」


          その日が解ったら知らせてもらうよう、
          花梨ちゃんにも頼んだから……

          あとは、その日に備えるだけだね。





          「だったら、ひと段落ついたってことだよな」

          「えぇ、まぁ……」


          そうとも言えるかな!











          「なぁ、

          「はい?」

          「明日、出かけないか?」

          「え……?」


          お出掛け……?





          「白虎解放のために前進できた訳だからな。
           明日くらい、気分転換しても罰は当たらないはずだ」


          うーん、確かに遊びに行きたい気もする……





          「解りました、行きましょう!」

          「あぁ」


          勝真さんとお出掛けか……









楽しみだ!