「おはようございます、勝真さん!」

          「あぁ、おはよう……
           今日はやけに早いな、お前」

          「えへへ!」


          だって……





          「お出掛けが楽しみで、早起きしちゃいましたよ!」

          「そう、か……」

          「はい!」

          「(本当にこいつは……)」


          ん?





          「勝真さん? どうかしましたか?」

          「あ、いや……なんでもない。
           お前が嫌じゃなければ、今日は馬で行きたいんだ。
           俺も、最近乗ってなかったからな」

          「わぁ、馬に乗せてくれるんですか! 嬉しいです!!」


          すげー!

          乗馬とか楽しそうだけど、一人じゃ怖いなーって思ってたし……
          勝真さんが乗せてくれるなら、安心だよね。






          「いい返事だ。じゃ、お前の好きな船岡山まで行こうぜ」

          「やった!」


          勝真さん、あたしが船岡山お気に入りなの、
          覚えててくれてたんだなぁ……

          えへへ、本当に嬉しいな!





















          「どう、どうっ!」


          そんなわけで、あたしと勝真さんは船岡山までやって来ていた。





          「さ、降りられるか?」

          「あ、ありがとうございます……」


          勝真さんが先に下りて、あたしに向かって手を差し出してくれた。
          な、なんか女の子扱いされている感じで照れるんですが……!





          「よ、っと……」

          「馬をつないでくるから、ちょっと待ってろ」

          「はい」


          うーん……ずっと同じ格好をしてたから、少し体がこわばったかな?
          待ってる間にストレッチでもしとこう……





          「疲れたか? 俺にしがみついてたが、怖かったのか?」


          ちょ、なんでわざわざ口にするかな!
          思い出すと恥ずかしいんですよ、もう……!






          「い、言っとくけど、怖かったわけじゃないですよ?」

          「本当か?」

          「本当ですよ!
           ってか、しがみついてないと絶対落ちちゃうでしょう!」


          そんな痛い思いはごめんです!!





          「ま、やせ我慢でもそのくらい言えれば上等さ。
           強がれるのも強さのうちって言うからな」


          てか、やせ我慢じゃないんですが……!

          そうも思ったんだけど、
          あんまり反論すると本当にやせ我慢みたくなりそうなので
          それ以上は何も言わないことにした。















          「馬で走るのは気持ちいいもんだろう?
           お前にも、この気持ちを味わってもらいたくて、な」

          「そう、だったんですか……」


          ちょっと嬉しいな……。





          「だが実は、女を馬に乗せるのは初めてだったもんだから、
           俺も少し緊張したな」

          「え、そうなんですか!?」


          今まで一度も、女の人を後ろに乗せたことないってこと……?

          ちょっとどころじゃない、かなり嬉しい……!





          「ああ。京の女は、普通、馬に乗ったりしないからな。
           いつも屋敷の奥にいるもんだ……そこが俺には理解できない」


          あ、そういえばそういう風習なんだよね。
          (あたしは、大学ではいわゆる古典を勉強してるんですよ)
          むしろ、ここだとあたしや花梨ちゃんみたいな子が特殊……。





          「歌や楽合わせ、それから噂話に花を咲かせていれば
           満足ってのがわからなくてさ」

          「でも、あたしもおしゃべりは好きですよ」

          「だけど、お前はよく出掛けるだろ?」

          「まぁ、そうですね」


          だって、出掛けないと花梨ちゃんの手伝いも出来ないし、
          具現化だって出来ないでしょ?

          それに、いくら元の世界で引きこもり気味なあたしでも
          たまにはお買い物とか行ったりしないと、つまんないと思うんだよ。











          「いつも同じことばかりして、
           よく飽きないなとイサトとよく、話していたもんさ」

          「イサトくんと?」


          二人とも、活発っぽいしな……なんか、そういう風に考えそうだよね。

          …………えーと、乳兄弟なんだよね、確か?
          小さい頃は一緒にいたのかな……。





          「……俺とイサトのこと、話したことなかったか?」

          「は、はい、詳しくはあんまり……」

          「イサトの家族は以前、俺の家に勤めてたんだ。
           あいつの母親が、俺の乳母でさ。
           親父さんも家人をしていたし、あいつとはガキのころ一緒に遊んでたんだ」


          そっか、やっぱり一緒にいたんだ……。





          「ここ何年か、会ってなかった。元気そうでよかったよ」

          「……こないだ、一条戻り橋で会いましたよね」

          「あぁ」


          イサトくんのこと、大切に思ってるんだな……

          イサトくんにとっても、勝真さんが大切な存在だといいな。
          ……ううん、きっと、そうだよね……。











          「ああ、悪い。なんか変な話をしたか」

          「……そんなことないですよ」


          勝真さんのこと、少しでも知ることができて嬉しい。

          あたしばっか自分のことしゃべってて、
          勝真さんはあんまり教えてくれないし、ね……。





          「この船岡山はさ、
           イサトと会わなくなってからよく来るようになったんだ。

           お前も気に入っているようだし、馬で来るにはちょうどいいだろ。
           あいつは馬には乗ったことがないからさ」


          そうなんだ……。





          「それに、ここにはめったに人が来ないから、
           考えごとにはちょうどいいんだ」


          確かに、前に二人で呪詛のことについて相談したのも、
          この場所だったものね。





          「京の町が全部見えるし、ゆっくり出来ますよね」

          「ああ。少し京から離れたって感じがするだろ。
           独りだと特にそう思える」

          「京から離れた感じ……?」


          京の町が見通せるからそう感じるの? 
          それとも…………











          「……。でも、やっぱり景色もよくて気持ちいい場所ですよね!」

          「ああ、じゃあ連れてきて正解だったな。
           どうせ行くなら、お前が気に入っていて、
           俺も好きな場所がいいかと思ったのさ」


          あ、勝真さんもこの場所が好きなんだ……
          (知らなかった…………)





          「お前が牡丹の姫であることを一時でも忘れられれば、息は抜けるだろ。

           俺はここに来ると、貴族や身分がどうこうってことを忘れられるから。
           忘れるのは一瞬だけなのも、解っているんだがな」


          忘れられるからここに来ているの……?





          「貴族や身分のこと……忘れたいんですか?」

          「…………しゃべりすぎたな。気にしないでくれ」

          「…………」












                                                





勝真さん…………?