「…………相手がお前だとついつい口がすべるみたいだ」

          「勝真さん、あたしは……」

          「真面目な話なんてやめろよ。
           気分転換のために来てるんだぜ?」


          それはそうかもしれないけれど……





          「でも、あたしは勝真さんのことが気になるんです、
           だから……」

          「話したければ、俺から話すさ。
           そうじゃないから言わないだけだ」


          そんな……







          
『…………俺は、お前を信じて、お前に従おう』






          「勝真さんは……
           あたしを信じてくれるんじゃ、ないんですか……?」

          「…………ああ、お前を信じたい、信じようとは思ってる……
           だが、心の何処かで、信じきれるわけないと諦めてる自分がいるんだ……」


          勝真さん…………





          「……俺は、独りでここに来て京を見ていると、
           何もかも諦められる気がする。
           自分が貴族であることを、諦められる……仕方ない、と」


          仕方ないと……諦める……?





          「まだ何もしていないのに、初めから諦めるってことですか?」
 
          「どうせ俺一人で足掻いたところで、何も変わらないだろ」


          そんなこと……





          「そんなことないです……」


          そんなこと……絶対にない…………!











          「どんなことだって、自分から動いて、
           何かしらやってみなきゃ結果は解らないです」


          それを最初から、何もしないで決め付けるなんてダメだよ。





          「何かしら……何だっていい、自分から動かなきゃ。
           何もしないで諦めるなんて、そんなこと良くないと思うんです」

          「そんな簡単なことじゃないだろう。
           お前は恵まれているから、そんなことが言えるんだ」


          あたしが恵まれているから……?





          「俺は、お前とは全く違う環境で生きてきたんだ。
           自由に生きてきたお前に、俺の気持ちが解る訳がない」


          バシッ!


          ――あたしはいてもたってもいられず、勝真さんの頬を叩いた。





          「っ! 何するん「あたしは!」

          「……!?」


          あたしは……





          「あたしはただ……
           あなたにそんな考え方はしてほしくなくて……」


          そんなの、哀しすぎるから…………。















          「…………あたしも、前にどうしてもつらくて、
           自ら命を絶とうとしたことがありました」


          家族のこと、友達のこと、学校のこと……
          もう、全てが嫌になったことがあった。

          だから、死んでしまおうと思った。






          「だけど、その日、たまたま手に取った本に、書いてあったんです」





          
“あなたはまだ、自分の力を全て出し切ってはいません。
           それなのに諦めてしまうのは、とても勿体無いことです”







          「心を見透かされたようでした。
           そのとき、あたしの中から『死のう』という考えが消え去りました」


          あたしでも、頑張ってみれば切り開けるんじゃないかって……
          その言葉を見て、そう思えるようになった。





          「確かに、上手くいかなくて
           嫌になってしまうことだってたくさんありますよ」


          だけど……






          「だけど、それでもそこで全て諦めてしまったら、
           もう何も切り開いていけないんです……
           そこで、全て終わってしまうんです…………」

          「…………」











          「勝真さんは……あたしを信じたいと、助けてくれると、
           あたしと会えて良かったと言いながら、
           どこか冷めた心であたしを見ていたんですか!?」


          全部嘘だったの……?





          「違う!」

          「でも……!」

          「俺は……本気でお前のことを信じたいと思った!
           助けてやりたいと……会えて良かったとも思った」


          だったら……どうして……?





          「けど、駄目なんだ……
           どうしても諦めることをやめられない自分がいる……」


          勝真さん…………





          「本気でお前の力になりたくて……お前の笑顔が見たくて……
           だけど、俺は心のどこかで諦めてしまっている。
           どうせ無理だ、仕方がないのだと…………」

          「…………」

          「けど、俺はお前の涙だけはもう見たくない……
           だから…………」













          「泣かないでくれ、…………」

          「…………!」




          
『ただ心配だったんだ……無事で、良かった…………』





          あのときと……同じ……

          抱きしめ、られてる…………?











          「かつ、ざね、さ……」

          「お前のために俺がしてやれることなんて、微々たるものかもしれない……
           それでも、俺は……お前を信じて、助けてやりたい…………」

          「…………」

          「俺は……どうしたらお前の涙を、止められる……?
           俺はどうしたらいい…………?」




          
『だけど、俺はやはり心のどこかで諦めてしまっている』




          そんな、そんなこと無いよ…………












          「……ま……て…………」

          「何、だって……?」





          「このまま……こうしていて…………」


          しばらく……このままでいて下さい…………





          「…………解った、しばらくこうしてるから……」

          「はい…………」


          ねぇ、やっぱり。あなたは優しくて、とっても暖かい……

          初めから諦めてるなんて、そんなこと無いよ…………――





















          「………………?」

          「ん……すぅ…………」


          …………。





          「泣き疲れて寝ちまったのか……」

          「すぅ……すぅ…………」

          「…………仕方ないな」









せめて日が暮れるまでは、ゆっくり休めよ…………