「あれ、勝真さん。何処かに行くんですか?」
「ああ、京の見回りをしてこようと思ってな」
そっか……
「あたしも一緒に行ってもいいでしょうか?」
「……構わないぜ。じゃあ、行くか」
「はい!」
「ここは……」
勝真さんと初めて逢った……
「羅城門跡だな。
そういえば、お前と初めて会ったのもここだったか」
「はい……あれからそんなに経っていないのに、
なんだかかなり前のことみたいですね」
「ま、怨霊だとか呪詛だとか、これだけ色々あればな」
確かに、毎日かなり中身の濃い時間を過ごしているような……
(でもいいことだよ……ね?)
「おい、、止まれ!」
「え……?」
ガツンッ
「わわっ!」
何かにつまづいた……!
転ぶ……!
そう思って反射的に目をつむったんだけれど……
予想していた衝撃や痛みはなかった。
「……あれ?」
痛くない……
「……ったく、前くらい見て歩いてくれ」
「は、はい……すみません……」
どうやらあたしは、
転ぶ寸前で勝真さんに抱きとめてもらったみたいだ。
それにしても……
「なんでこんな所に小石が積み上げられてるんだろ?」
「さあな……子どもが遊んでたんじゃないのか」
「そうですかねぇ……」
まあ、小石を積み上げたところで何に使うのかって感じだし……
「お前たち、今、何をした!」
「えっ……?」
「和仁親王……」
ええっ! この人が和仁親王!?
「羅城門跡で呪詛が見つかるといいけど……
あれ? 誰かいる……」
「勝真と殿……それに和仁様か!?」
「わ、私の石が……積み上げた私の石が……。
おのれ、よくも……よくも私が築いた石の山を崩したな!」
「ちょっと何なの、その言いがかりは!
小石が積みあがってた山を崩しただけじゃん!」
「、ちょっと黙ってろ」
「勝真さん……」
「……申し訳ありません、足を滑らせてしまいまして。
ですが、私は宮様のお怒りに納得できませぬ。
なぜ路傍の小石の山を崩したくらいでかようにお怒りなのです」
そうだよそうだよ!
「宮様のような方にとってこのような石山は、
さほど大切なものとは思えませぬが」
「くっ……!
お前には関係ない! この私に口答えする気か!」
「口答えじゃないよ!」
「殿、おやめ下さい! 宮様に対して無礼でございます」
え?
「頼忠さん!?」
「なんでお前がここに? ……いや、そんなのはどうでもいい。
お前は俺たちが悪いと言いたいのか?」
「お前や殿の不注意で、宮様がお怒りになっておられる」
えっ、あたしたちの不注意……?
「なんだよ、それ。
こんな道端の石の山に、いちいち注意して歩けるわけないだろう。
それに、はその石山のせいで怪我するところだったんだぜ?」
「…………」
「おい、黙ってないで
言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ」
勝真さんがあたしのこと心配してくれたのは嬉しいけど、
このままじゃ良くないよね…………
「(どうしよう、勝真さんと頼忠さんの間が険悪になりそう……
それに、さんも気にしちゃいそうだし…………)
二人ともやめてください!」
「……!」
花梨ちゃん…………
「花梨……そうだな。頼忠、少し言いすぎた。
大事にならないようお前がとめてくれたってのに、カッとなっちまって」
「いや、私もはっきりと言わなかったからな。お互い様だ」
良かった……。
やっぱり、花梨ちゃんってすごいなぁ……
「……ところで兄上、
この石の小山は兄上がお作りになったのですか?」
「だとしたら、どうするつもりだ?
お前になど関係のないことであろう。
私はもう帰るぞ。まったくお前たちのせいでせっかくの礎が……」
あ、行っちゃった……。
「なんなんだ、あの宮様は。
石の小山を崩したくらいであんなに怒って……」
「本当に、親王様だったら石山の一つや二つ、
どうってことない気がしますよね」
「どうして和仁さんがあんなに怒ったのかって……」
崩されたら困る理由があるってこと?
「もしかして……あの石の小山は呪詛に関係していたとか?」
「ああ、なるほど! あの石山が呪詛に必要だったってこと?」
「はい」
「花梨さんのおっしゃることは正しいと思います。
兄上は、殿に呪詛の礎を崩されたのでお怒りになったのでしょう」
「呪詛の礎だと……?」
そうか……。
「あの小石に邪気を込めたんだね」
「はい、そうだと思います。
あのような石山を礎にした呪詛の話を、泰継殿から聞いたことがありますから」
でも、そうすると呪詛をかけられた対象が存在するはず……
「彰紋くん、誰か呪詛の影響を受けたような人がいたの?」
「はい……どうやら宇佐使が呪詛をかけられたようなんです」
「昨日京を発ったあれか……」
これでますます和仁親王と時朝さんが怪しくなってきたね……。
「しかし東宮様、それではまるで……」
「その通りです、頼忠さん。
帝を呪っているのは和仁親王と時朝さんみたいなんですよ」
「宮様と時朝殿が……?まさか……」
“絶対”と言い切ることは出来ないかもしれないけれど、
状況証拠も揃っているから、まず間違いないよね。
「……充分ありえるぜ。宮様は東宮位を欲しがっている。
宮様が東宮になるためには、帝は邪魔になるからな」
「ええ……そんな兄上にとって、
帝の回復を願う宇佐使は邪魔に思えたのでしょう。ですが……」
「あたしが呪詛の礎を崩しちゃったから、呪詛も解けちゃったんだね」
「はい」
「でも、前に青龍を解放した時のような大きな気の流れは感じなかったぜ」
そういえば確かに、大きな力が加えられた感じはしなかったかも……。
「石の山を使った呪詛は小さな力しか持たぬ者でもしかけられるそうですから。
多分、兄上は大きな呪詛をしかける力はお持ちでないのでしょう」
「じゃあ、帝への呪詛は……」
「……きっと兄上は、時朝殿を利用して帝への呪詛をしかけてるのだと思います」
そうか、そういうこと……。
「和仁さんは時朝さんの力を利用してる?
じゃあ、悪いのは時朝さんを利用している和仁さんじゃない」
「そう……なのでしょうね。
時朝殿は兄上に忠誠を尽くしています。
兄上の命ならなんであっても従うはずでしょう」
「和仁親王だって、そのことを知ってるんだよね?」
「はい、そのはずですのに、なぜ……」
「彰紋くん……」
ほんとにどうして和仁親王はこんなことを……。
「……あっ、すみません、いろいろ考えていても仕方ありませんね。
勝真殿に殿、今日は本当にありがとうございました。
あなた方のおかげで無事に宇佐使への呪詛を解けました」
「いや、あの石の山を崩したのは本当に偶然だと思うぜ」
「そうだよ、お礼なんて必要ないよ!」
本当に、たまたま崩しちゃっただけだし!
「じゃあ、俺たちは先に失礼するぜ。帰るぞ、」
「はい、勝真さん。
花梨ちゃん、彰紋くん、頼忠さん、またね」
「気をつけて下さい、さん」
「うん!」
偶然とは言え、呪詛が解けてよかったよね!