和仁親王が作った呪詛の礎を崩した日の翌日、
          再び花梨ちゃんからの文が届けられた。

          そこには、白虎解放には
          天地の白虎の力を借りなければならないこと、
          十一月四日に白虎を解放することが書かれていた。


          そして今日……十一月四日、
          とうとう白虎を解放する日はやってきた。























          「…………」


          もう少しで船岡山だよね……





          「花梨ちゃんには昨日の朝、文を出したし……」


          先に行ってることも知っているはず。















          
……俺は京職の官衙に行かなければならないから、
           今日はお前と一緒には行けない』

          『はい』

          『……気をつけて行ってこいよ』

          『はい、解ってます!』










          「勝真さん……」


          今日ここで白虎を解放すれば、
          四神の全てが花梨ちゃんに味方することになる。

          そうすれば、かなり前進できるよね。





          「さーて、頑張らないと!」











          「おや……殿」

          「幸鷹さん! 
           花梨ちゃんたちと一緒じゃないんですか?」

          「あなたこそ、お一人でこちらへ?」

          「は、はい……なんだか気になっちゃって、
           花梨ちゃんより先にここに来ておこうかと思いまして」


          先に調査しておけば、
          花梨ちゃんにおよぶ危害を減らすことが出来るかもしれないしね!





          「そうですか……ですが、あなたも女性なのですよ。
           どうか、お一人で危険なことをするのはおやめ下さい」

          「は、はい……ごめんなさい」


          また女の子扱いされた……
          (この世界の男の人ってみんなこんな感じなのかなぁ……)











          「と、ところで、幸鷹さんも一人で?」

          「はい……私も宮様の行動が気になりまして、
           紫姫の邸には寄らずに直接こちらに参りました」

          「なるほど……で、和仁親王は現れましたか?」

          「先ほどこちらにいらっしゃいましたよ。
           ですがまず、神子殿たちを待ってからにしましょうか」

          「そうですね!」






















          「みなさん、いらっしゃいましたね」

          「こっちだよ、花梨ちゃん、彰紋くん、翡翠さん!」

          「さん、幸鷹さん! いよいよ白虎解放ですね」

          「うん、頑張ろう!」


          ここをクリアすれば、一つ課題をクリアするわけだし!





          「さっそく行きましょうか、幸鷹さん!」

          「ええ、そうですね」





















          「玄武は奪われたが、私の手にはまだ白虎が残っている。
           白虎の呪詛を強化すれば、玄武の穴も十分に埋められるはずだ。
           …………」














          「(何をしてるんだろう……)」

          「……花梨ちゃん、もしかして呪詛を強めているのかも」

          「……! 
           ……和仁さん、何をしてるの?」

          「なんだ、お前か。
           お前のような下賎は娘には関係のないことだ」


          “関係ない”で済まされる問題じゃないんだよね。





          「兄上……どうか教えてください。
           何をなさっているのですか?」

          「なぜお前がここにいるんだ、私を見張っていたのか!?
           なぜ私がいちいちお前なんかに報告しないといけないんだ!!」

          「兄上……」

          「お前など、本当は少しも東宮にふさわしくないくせに!
           なぜ、お前みたいな鬼子などが東宮なのだ!」


          鬼子って……!





          「ちょっと、その言い方は無いんじゃないの!?
           あなた、彰紋くんのお兄さんなんでしょ!?」

          「うるさい、お前のような下賤の娘に言われる筋合いは無い!!」

          「宮様……殿のおっしゃる通り、
           いくら親王様とは言えあまりに不敬です。どうぞおやめください」


          そうだよ、そんなこと言ったら彰紋くんだって傷つくよ……










          「和仁親王、あたしたちはあなたが呪詛をかけているのならば、
           それをやめさせないといけない」

          「うるさい! 私は大きな力を得たのだ……
           お前なんかの指図は受けない」

          「大きな力……?(それって……?)」

          「そうだ、私は怨霊を思いのままに操る強き力を得たのだ」


          えっ……?





          「怨霊を操る……力?」

          「そうだ、お前たちには決して得られぬ強き力。
           鬼の一族にもらった力だ!」


          てか、それって明らかアクラムのことじゃん!
          やっぱアイツ、この一連のことに関与してたんだ……!






          「……そんな力をいったい何に使うの、和仁さん」

          「お前たちや帝のように私の邪魔をする者をこらしめ、
           ひれ伏せさせるのだ」

          「何言ってるの? そんなことしていいはずがないよ」


          そうだ……
          そんなこと、していいはずがない。





          「和仁親王……あたしは、あなたを止める」

          「僕も……皇族として京を守ります。だから……」

          「この鬼子め……お前など皇族を名乗れるはずもないだろう!
           私と一緒にするな、私に説教など許さない!
           お前たち、私にたてついたことを後悔しろ」



          
ゴオォォ





          「……!」


          ものすごい邪気……!
          何をする気……?










          「お前のような生意気な娘は打たれるべきなのだ!」



          
ビュンッ


          和仁親王がそう叫んだ瞬間、あたしに向かって攻撃が放たれた。





          「……!」

          「さん!」


          だけど、あたしもそれをすんでのところで相殺する。






          「さん、大丈夫ですか!?」

          「うん……あたしは平気だよ」


          良かった、扇でギリギリ防げた……。











          「くそっ……忌々しい娘だ! 
           今度こそお前を打つ!!」

          「……!」

          「さんっ……!」



          
ゴオォォ


         そして和仁新王は、
         再びあたしに向かって攻撃を仕掛けようとする。





          「さん、危ないっ……!」

          「神子殿、おさがりください。
           あなた方を守るのが私の役目です」

          「でも、幸鷹さん、さんがっ……!」

          「我々にお任せ下さい、神子殿。
           ……翡翠殿、力を貸してください。
           これ以上宮様に力を使わせてはいけません」


          ――そのとき、またあの音が聞こえた。






        「これは……」

        「鈴の音……?」


        綺麗な鈴の音が……
















          「――宮様、どうぞお覚悟を。
           京を守る者として、これ以上は許せません!」

          「人を好んで傷つけようとするのは、いい趣味とはいえないよ。
           報いを受けねばならないね」


          鈴の音とともに、何か清浄な気が広がっていく気がした。





          「な、なんだ、これは……私の術の力が消えてゆく!?」












「天地の白虎の心が合わさった。その力に応えよう」