「花梨ちゃん!」


          また時間が止まってるみたいになったたけど……
          花梨ちゃんはきっと、今までみたいに白虎と話してたんだね。





          「ここは船岡山……戻ってきたんだ。
           ……これは白虎の札!」

          「最後の四神を取り戻したのですね。おめでとうございます」

          「頑張ったのだね」


          やった!





          「くっ……玄武だけでなく、白虎までも奪われたか。

           だが勘違いするな、私の力はこんなものではない。
           四神はなくとも怨霊はすでに十分に陰の気をたくわえた。
           もはや誰にもとめられるはずはない! 覚悟しておくのだな」


          力は蓄積されてる……?














          「…………」

          「彰紋様、元気をお出しください。
           一つ、よい知らせがありますよ」


          よい知らせ……?





          「幸鷹さん、そのよい知らせって……?」

          「はい、宮様の言う怨霊の居場所はすでに解っているのです」

          「もう調べてあるのかい、さすがは有能な検非違使別当殿だね」

          「……応天門です。昨晩、検非違使庁の部下から
           大規模な呪詛の跡が見つかったと報告がありました。

           応天門の近くに宮様が頻繁に現れるとも聞いています」


          和仁親王が頻繁に現れる、か……





          「怨霊の居場所が応天門っていうのは、間違いないようですね」

          「そうだね、だが我々が今日できることはここまでだ」

          「はい……今日はもう帰りましょうか」

























          「ただいま、紫姫!」

          「白虎の呪詛も解くことができたよ」

          「おめでとうございます、神子様、様。
           これで、すべての四神を手に入れられたのですね」

          「うん!」


          少しずつ、確実に前進していってるよね!






          「…………」

          「彰紋くん、さっきからどうしたの?」

          「あの、僕……あなたやさんに申し訳なくて……
           ごめんなさい」

          「ええっ! どうしたの?」


          これは彰紋くん……また気にしちゃってるな?












          「彰紋くん、あなたの考えてること、また当ててあげようか」

          「え、あの……」

          「自分は何も役に立てていないって思ってるんでしょ?」

          「……!」


          またビンゴみたいだね。





          「あなたが何も出来ていないなんてこと、ないよ」

          「さん……」

          「目に見えて何か出来ていることだけが、重要じゃないと思う」


           物理的じゃなくて、
           目に見えないところで力になれることだってあるし。





          「花梨ちゃんだって、解ってくれてるはずだよ。 ね?」

          「はい。 彰紋くんは、いつも私を助けてくれてるよ」

          「花梨さん……。……なぐさめてくださるんですね。
           本当にあなたやさんをお助けできていればいいと思います。
           そのためにも、もっと頑張らなくてはなりませんね」


          うん、今度もまた立ち直ってくれたみたいだね。





          「あなたは東宮として立派にやってらっしゃいますよ。
           公正に見てそう思います。

           支持する方が違っても、
           京を思う気持ちは同じだと信じることができます」


          こんなに頑張ってるんだもの、何も出来ていないはずないよね!














          「後は大内裏に巣くう怨霊を退治するだけですね」

          「そうですよね……」

          「それについてはもう少しお待ちくださいませ。
           大内裏の怨霊は、兄様が調べに行っております」


          そっか、深苑が行ってくれてるんだ……。





          「紫、今戻った」

          「兄様、何かわかりましたでしょうか?」

          「応天門だ。強大な怨霊がひそんでいた」


          それからは、応天門に潜んでいる怨霊について、
          深苑から一通り説明してもらった。

          どうやら、その怨霊は朝廷に強い怨みを持っているみたいで、
          応天門に放火した罪を着せられて地方に流された人なんだって。





          「やっぱり、怨霊と戦うには
           造花の力がたまるのを待ったほうがいいのかな」

          「そうですわね。造花の花弁を使い切り、力が完全にたまるまであと三日。
           怨霊を退治するのは十一月七日までお待ちくださいませ」

          「十一月七日までに、
           京をめぐり五行の力を高めることも忘れるでないぞ」


          そんなわけで、怨霊を退治するのは十一月七日、
          そしてそれまでは五行の力を強める、という流れになり……

          その日は彰紋くん、そしてもちろんあたしも行くことになった。











          「じゃあ、あたしも帰るね」

          「はい、さんも今夜はゆっくり休んでくださいね!」

          「うん! それじゃ紫姫も、またね」

          「お気をつけてお帰りください、様」


























          「牡丹の姫様!」

          「……?」


          勝真さんのお邸を目前にしたところで、誰かに呼ばれた。
          (あの人は、確か紫姫のお邸で働いてる人……)





          「追いつくことが出来て良かった……」

          「どうかしたんですか?」

          「それが先ほど、
           神子様からの文を預かり申し上げまして……」

          「あたし宛てですか?」

          「ええ」


          何だろう……紫姫が何か言い忘れたこととか、かな?





          「とにかく、わざわざありがとうございました!
           確かに受け取りましたので、お伝えください」

          「はい、確かにお伝え申し上げます。
           それでは、私は失礼致します」

          「ご苦労様です!」


          さてと……





          「ちょっとお邸に入る前に読んでおこうかな?」


          そこには、花梨ちゃんの物忌みのことについて書かれていた。
          その日は誰か八葉を呼んで、一緒にいてもらうといいんだって。

          でも、牡丹の姫でもあるあたしでも大丈夫みたいってことで、
          今回はあたしを呼んでくれたみたい。





          「とにかく、明日はが紫姫のお邸に向かえばいいわけだね」


          何も予定はないし、大丈夫。














          「……あら、お帰りなさいませ、様」

          「ただいまです、女房さん!」


          あたしがお邸に入ると、女房さんが声をかけてくれた。





          「勝真さんは帰ってますか?」

          「いえ、まだお帰りになっておりませんが……
           今しばらくお待ちになっていれば、お帰りになるかと」

          「そうですか……」


          じゃあ、勝真さんが帰ってきてから今日のことについて話そうかな。





          「勝真様がお帰りになりましたら、
           お声をお掛け致しますわね」

          「はい、お願いします!」




















          そして、官衙から帰ってきた勝真さんに今日のこと、
          さらに明日は紫姫の館に行くことを説明した。





          「そうか……いよいよって感じだな」

          「はい」


          気を引き締めていかないといけないよね……





          「……あ、そういえば、勝真さんも七日は来れますか?」

          「あぁ、俺もその日は行けると思う。
           ……共にいなければ、お前を守ることも出来ないしな」

          「勝真さん……」


          そうやって嬉しいこと言ってくれるんだからなぁ、もう……。





          「とにかく、明日は花梨についててやるんだよな?」

          「はい、そうです!」


          正直、あたしがきちんと花梨ちゃんの力になれるか
          疑問なところだけど……

          でもあたしはあたしなりに頑張ろう!


          牡丹の姫に選ばれたからには、やり遂げようと思う。










今まで通り、あたしはあたしなりにね!