「おはようございまーす!」
昨日花梨ちゃんから手紙をもらったあたしは、
次の日、朝から紫姫のお邸に来ていた。
「おはようございます、様」
「おはよう、紫姫! 花梨ちゃんはもう起きてる?」
「ええ、もうお目覚めだと思いますわ。
ご案内いたしますわね」
「うん、お願い」
「おはようございます、さん!」
「おはよー、花梨ちゃん!
今日は物忌みで、一日出かけられないんだよね?」
「はい、そうなんです……。
それで、八葉の誰かと一緒にいるといいみたいなんですが、
紫姫がさんでも大丈夫だって言うんで、さんにお願いしました」
やっぱり“牡丹の姫”だからあたしでも大丈夫なのかな?
「ちょうどさんに聞きたいこともありましたし……」
「聞きたいこと?」
「はい!」
な、なんか花梨ちゃん、やけに楽しそうだな……
(何を聞くつもりなんだ……!)
「それでは、私は失礼いたしますわね、神子様、様」
「うん、案内してくれてありがとう、紫姫」
「紫姫もゆっくりしてね」
「はい」
「さてと……」
「……?」
花梨ちゃんがすごくニヤニヤしてるんですけど……!
(何故!?)
「じゃあ、もう単刀直入に聞いちゃいますけど!」
「……??」
「さんって、勝真さんのことが好きなんですか!?」
え……?
「ええっ!?」
「ふふ、さん、顔赤いですよ」
「ちょ、ちょっと花梨ちゃん!」
もう絶対あたしのことからかってる……!!
「だってー、前に青龍が操られてて頼忠さんと勝真さんが
言い合いしてたときも、すごく哀しそうでしたし、」
「だって、それは……」
「勝真さんと一緒にいるときのさん、すごく楽しそうですしね」
「ええっ!」
そ、そうだったの……!?
「それで、勝真さんのこと好きなんですよね?」
「ううぅ…………」
花梨ちゃんには勝てないよー……
「そう、です…………」
「わーっ、やっぱり!」
がくっとうなだれるあたしとは裏腹に、
花梨ちゃんはテンションを上げていた。
(なぜ負け越しなんだ、年上のあたし……!)
「勝真さんのどんなところが素敵だと思います?」
「えっ……どんなところって……」
てか、花梨ちゃん、わくわくしすぎです……!!
(あたしはさっきからツッコミ入れてばっかりです……!)
「え、えっと……」
「はい」
「……優しいところ、かな」
うん、やっぱり……そうだよね。
勝真さんという人こそがあたしは素敵だと思うけど、
あえて答えるとしたら、ね。
「初めて会ったとき、あたしを泉水のところまで案内してくれた、
そして路頭に迷うところだったあたしを住まわせてくれた」
それって、優しさが無かったら出来ないことだと思うの。
「ただ、あたしに同情したんじゃないと思う。
そのときの勝真さんの思いは、あたしには解らないけれど……」
解らない、けれど…………
「やっぱり……優しいんだろうな、って思うよ」
「さん…………」
そうとしか思えないんだ。
「…………さんは、勝真さんのことよく解ってるんですね」
「そんなことないよ。
あたしが知ってるのは、ほんの一部だろうし……」
『話したければ、俺から話すさ。
そうじゃないから言わないだけだ』
たぶん、あたしは……
まだ完全に信頼してもらえていないから……。
「勝真さんも、何か抱えてるみたいなんだ……
まだ、あたしにそれを話してはくれないけれど、
いつか話してくれたらって思う」
「…………」
あたしも……あなたの力になりたいから…………
「……さんなら、いつか話してもらえますよ」
「そう……かな?」
「はい! 私、さんと初めて会った日に、思ったんです。
この人なら、きっと力になってくれるって」
「花梨ちゃん……」
「ちゃんとした理由なんて、聞かれても答えられません。
ただ、ふと、思ったんです。この人なら、って」
「……!」
『明確な理由を聞かれたら、答えられませんよ。
花梨ちゃんに会って、ただ“力になりたい”と思ったんです』
花梨ちゃん……あたしと同じことを…………。
「花梨ちゃん……ありがとう」
「えっ……?」
「あたしを信じてくれてありがとう」
やっぱりさ、人にとって自分以外の存在を心から信じるってことは、
すごく難しいことだと思うんだ。
それでも、あたしを信じてくれる人は元の世界にもたくさんいた。
「あたしは、あたしを信じてくれる人を裏切ることは
絶対にしないよ」
「さん…………」
「あたしの、“牡丹の姫”の役目って、
実際どんなものなのか正直まだ解らない」
だけどね……
「自分なりに、こうだと思ったことをやり遂げようと思う」
自分の進もうとしている道を、信じてゆきたい。
「花梨ちゃん……頑張って京の平和を取り戻そう!」
「はい、さん!」
それからあたしたちは、
他愛もない話をしながら一日を過ごした。
「けっこう日が暮れてきたね……もう大丈夫かな?」
「はい、大丈夫だと思います。
今日はありがとうございました、さん!」
「どういたしまして!」
あたしも久々にたくさんしゃべって楽しかったしね!
「それじゃ、あたしはそろそろ帰るね」
「はい、気をつけてくださいね」
「うん!」
「…………やっぱりさんってすごいなぁ」
なんて言うんだろう……
普段は明るくて可愛いなって感じだけれど、
やっぱり年上の人なんだなぁって、そう思うの。
「考えだって、しっかりしてるしね……」
私も見習わなきゃ!
「ふぅ〜」
花梨ちゃんに変わったところはなかったし、
ちゃんと物忌み出来てたってことでいいのかな?
「それにしてもー……」
勝真さんが好きだということ、バレてしまった……!
(とゆーか、もともとバレてたのか……?)
「…………まぁ、いっか。
花梨ちゃんも教えてくれたし」
『私は……泉水さんのことが好きなんです…………』
「なんかそうかなーとは思ってたけどね……
雰囲気的に……」
だけど、そっか……
「あたしも花梨ちゃんの恋を応援しないとね!」
京の平和だってもちろん重要だけど、
あたしは、花梨ちゃんに普通の女の子として恋する資格だって
もちろんあると思うんだよね。
「よーし…………」
頑張ろう!!