そんなわけで、
勝真さんの案内によりあたしは泉水のいる所までやって来た。
……が、しかし。
「位とか持ってないあたしが、入ってもいいのだろうか?」
普通に駄目な気がするんだけど……
「どうしよう〜……」
勝真さんとは、さっき別れちゃったし……
「あの……何かお困りなのですか…………?」
この声は……!
「私で良ければ、お力になりますが……」
泉水、発見!!
……ふふっ、しかしテンションに身を任せ
名前を口走っちゃうなんて事はしないあたしよ。
さすが!
ここは演技をするのがいいよね。
「あの……私はと申します。
源泉水殿を捜しているのですが、お顔を存じ上げていなくて……」
我ながら、ナイスな演技!
だてに二十年も生きてないです。
「そうでしたか……
私が源泉水です。それで、どういった御用で……?」
「単刀直入にお尋ねしますね。
あなた、先日……
星の一族に“龍神の神子”だと祭り上げられた子と出逢いましたよね?」
「……!」
泉水の表情が一転した。
やっぱり、会ったんだね……。
「……龍神の神子は、
院のもとにいる方だと院を初め皆がそう思っております」
「そのようですね」
「しかし……先日北山でお会いした方を……
星の一族の方は、龍神の神子だとおっしゃるのです」
はいはい、なるほどね。
院のもとにいる神子を、泉水は信じてるわけだ。
まぁ、院側の子だし当たり前か。
「しかし、なぜあなたは……殿は、
花梨殿のことをご存知なのですか?
まだ内密にされているはず……」
それは、最もな意見だ。
「……私は、花梨殿と似たような立場にいるので」
「え……?」
「それは、おいおいお話します。
それより、花梨殿にお会いしたいのですが、居場所をご存知ですか」
「は、はい……。
彼女は今、星の一族である紫姫の館に身を寄せています。
ですから、そちらをお伺いすれば……」
星の一族の紫姫……確か、双子だったよね?
よし、その子にも聞きたいことはあるし一石二鳥な感じでいいね。
「泉水殿……大変申し訳ないのですが、
その紫姫の館まで案内して頂けないでしょうか?」
「え……?」
「私は京に不慣れなので、地理にも疎いのです。
ここに来るにも、とあるお方にご案内して頂いた次第ですので」
「そ、そうなのですか……解りました、ご案内致しましょう」
「ありがとう、助かります」
泉水も優しい人みたいだね……
とりあえず、花梨ちゃんに対して嫌悪感は持ってないみたい。
……ただ、龍神の神子だって信じきっていないようだけど。
そんなことを考えつつ、
あたしは泉水に案内してもらい紫姫の館とやらに向かった。
「まぁ、泉水殿。どうなさいました?」
「それが……こちらの殿が、花梨殿をお訪ねになって……」
「まぁ、神子様を……?」
おぉ! 藤姫に次ぐ星の一族の姫だ!
ちょー可愛い!!
「……初めまして、紫姫。と申します。
高倉花梨殿にお会いしたいのですが」
「は、はぁ……あなたは、どういったお方なのでしょうか……?」
「私は……“牡丹の姫”、と言えばご理解頂けますか」
「……! 牡丹の姫様……!?」
紫姫、ナイス! やっぱ一族について勉強してるんだ……
“牡丹の姫”が何者なのかも、何となく解っているみたい。
「……解りましたわ、神子様のもとへご案内致します」
「紫姫、その……このお方をご存知なのですか……?」
「いいえ……ですが、牡丹の姫様なら多少は存じております」
「牡丹の姫? それは、一体……」
泉水はわけが分からなくて混乱してる。
……まぁ、無理もないか。
「とりあえず、花梨殿にお会いしたら私からもご説明します。
泉水殿が八葉なら、関係のある事ですから」
「……解りました」
さてと! やっとこさ、花梨ちゃんとご対面だね!
「神子様、お客様をお連れしました」
「客……?(って、誰だろ……?)」
「こんにちは、花梨ちゃん! あたしは!!
あなたが元々いたのと同じような世界から、
この世界にやって来た者です!」
……あ、なんかみんな固まってる。
さっきとまるで話し方が違うからかな?
「ほ、本当ですか!?」
「うん、本当だよ。
ケータイとかテレビとかある世界から来たの」
「うわーっ!
良かった、私一人で心細かったんです……!」
同じような人間を見つけて安心したのか、
花梨ちゃんが抱きついてきた。
「一人で怖かったよね……でも、もう大丈夫だよ。
あたしもいるし!」
「え??」
「じゃあ、そこから説明するね」
花梨ちゃんはもちろんのこと、泉水も状況が分かってないし……
ここで一度、整理しないとね。
「まずは、“牡丹の姫”という存在について説明するね」
「は、はい」
「紫姫も、少しは知ってるよね?」
「はい、多少は……」
「良かった」
あたしって説明が下手だから、
補足してもらえると助かるんだよね……。
「泉水も、こっちに来て一緒に聴いて」
「は、はい!」
自分は焦っていないつもりだったんだけど、本当は焦っていたのだろうか。
いつの間にか、敬語を使っていなかったことに、後で気が付いた。
「じゃあ、よく聴いて」
―――これが、牡丹の姫―――