「花梨ちゃん、大丈夫?」
「はい、紫姫が作ってくれた造花が効いているみたいです」
「そっか……」
それなら安心だね。
「……よかった。お二人はご無事のようですね」
そう言った泉水の目線の先に、
イサトくんと幸鷹さんがいた。
「イサトくん! 幸鷹さん!」
「来たな、花梨、。そろそろ始めてもいいだろ?
怨霊さえいなけりゃ、京が守れる。それさえわかってりゃ十分だ。
とっとと片づけちまおうぜ!」
“怨霊さえいなけりゃ”っていうのが正しいかは解らないけれど、
今はまずこの怨霊をどうにかしないとね……。
「でも、本当に怨霊だけが悪いのかな……」
花梨ちゃん……
「花梨ちゃん、あなたが『こうしたい』と思うことこそが、
きっとみんなを救うことになるんじゃないかな」
「さん……」
「ここで、ためらってはいられないと思う。
あなたが望む道に進むべきだよ」
「私の望む道……」
きっとそれが、龍神の神子なのかもしれない。
「……私は、すべてを良くする力がほしい。
誰も苦しまない力……彼らを守る力がほしい!」
「……!」
鈴の音……?
そうか、龍神が花梨ちゃんの声に応えたんだ……
「――青龍の命を受けましょう。あなたの願い……
『失うことを恐れぬ』ために私の力をお使いください」
「任せとけ、朱雀。俺がきちっと力を使ってやるぜ!
花梨、お前の願い、『相手の立場で考えること』のため、
俺の力をお前にやるぜ」
「白虎から受けしこの力、必ずお役に立ててご覧にいれましょう。
あなたの願い、『自分を信じること』のために、
すべての力を集めましょう」
「恐れ多いことながら、最後に私が玄武の力をいただきます。
あなたの祈り、『多くに耳をかたむける』ため、力の限りを尽くしましょう」
「花梨ちゃん、あたしも牡丹の姫の力を、この身に宿すよ。
あなたの望みを叶えるため、授かった力をあなたに預ける」
あたしがそう言った直後、辺りが光に包まれ、
またあの鈴の音が聞こえた。
――失うことを恐れぬ、相手の立場で考えること、
自分を信じること、多くに耳をかたむける……
それが花梨ちゃんの願い……そして、望み…………
「あなたの祈りはとても優しく、慈愛に満ちた暖かな光……
四神と八葉に、力を与えます。
その光は力となって、八葉が四神を召喚することを許すのです。
そして今四神があなたの願いに応えます。強い力を捧げることで……」
「私に、力を……!?」
これは……
龍神の力を感じる…………
「新しき強い力は、
あの恐ろしげな怨霊を封印できると思います」
そっか、龍神のくれたのは封印の力なんだ!
「行こう、花梨ちゃん!」
「はい!!」
「花梨ちゃん、今だよ!!」
「はいっ!
めぐれ、天の声 響け、地の声――彼のものを封ぜよ!!」
花梨ちゃんがそう叫ぶと、温かい光が放たれ、怨霊は封印された。
「すごい……」
封印って、近くで見るとこんなに綺麗なんだ……。
「すごい、怨霊が封印できた……!」
「おめでとうございます、神子。我が事のように嬉しいです。
ようございました」
「これでこの怨霊が復活することはないでしょう」
「だね!」
「ありがとうございます、これもみんなのおかげです!
早く帰って、紫姫を安心させてあげましょう」
そうだね、頑張って造花を作ってくれた紫姫にも、
このことを伝えなきゃ!
「ただいま、紫姫!」
「ただいま!」
「お帰りなさいませ、神子様、様」
それからあたしたちは、花梨ちゃんが封印を修得したこと、
その力で院に憑いていた怨霊を鎮めてきたことを紫姫に説明した。
「お札に封印された怨霊は、きっと神子様方のお役に立つでしょう。
神子様や八葉の方々、様が装備されることで、
業が祓え、浄化されるのです」
「え、それってあたしも装備できるの?」
「もちろんですわ、様は牡丹の姫様……
れっきとした、神子様を助けてくださる方のお一人ですもの」
そうなんだ……。
「でも、そっか……
その方が、怨霊にとってもいいことなのかな」
「きっとそうだと思いますわ。
実は私も、今までよりも占う力が強くなったのです。
私たち星の一族の力は、神子様のお力とつながっているからでしょう」
「すごいね、紫姫!」
みんながそれぞれ、確実に成長しているってことなのかも。
「きっと、様のお力も増していると思います」
「え……そうかな?」
「ええ。牡丹の姫様のお力が、
神子様のお力と繋がるものがあるという記録もございます。
ですから、神子様のお力が増したことで様のお力も増しているはず」
「な、なるほど」
自分じゃよく解らないけれど、紫姫が言うならそうなのかな。
「これからも頑張りましょう、さん、紫姫」
「うん!」
「はい、よろしくお願いいたします」
でも、いいこともたくさんあったけど、
ちょっと気になることもあるんだよね……
「紫姫、院に憑いていた怨霊が復活したってことは、
帝に憑いていた怨霊も復活する可能性があるんじゃない?」
「はい、その可能性も十分ございますわ」
「そうだね……気を引き締めなきゃ」
うん、油断はできないって感じ……かな。
「私、また造花を作ってみます。
そうしたら明日も神子様がお出かけできますもの」
「大丈夫?」
「大丈夫ですわ。
それに、コツがつかめたような気もしますので」
「でも、無理しすぎちゃダメだよ?」
「はい、様。
では、今日はこれで失礼いたします。
ごゆるりとお休みくださいませ」
さてと……
「あたしもそろそろ帰るね、花梨ちゃん」
「一人でですか?」
「勝真さんが向かえに来てくれるから平気だよ」
「そうですか、それなら安心ですね」
前に一人で帰ったとき、それが紫姫や花梨ちゃんにバレて
かなり怒られちゃったから……
それ以来は一人で帰らないようにしてるんだよね(苦笑)
「じゃ、またね、花梨ちゃん」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ」
花梨ちゃんも紫姫も、
八葉のみんなも自分なりに頑張ってるよね……
「あたしも負けてられないな!」
牡丹の姫として、精一杯のことをしていこう。
もっともっと、頑張らないとね!