「あっ、おはようございます、勝真さん!」

          「あぁ、おはよう


          朝、いつもご飯を食べる部屋に向かっていると、
          同じく部屋に向かっている途中だったらしい勝真さんと遭遇した。





          「今日も花梨のところに行くのか?」

          「はい、そのつもりです。勝真さんはお仕事でしたっけ?」

          「あぁ、今日も官衙に行くことになってる」

          「そうですか……」


          まぁ、勝真さんに限らず、
          みんな他にもやるべきことがあるもんね。

          いつもいつも八葉の仕事をやってもらうわけには、
          いかないんだろうなぁ……


          あたしがそんなことを考えていた、そのとき。
          何かが倒れたような、ものすごい音がした。





          「……!」


          今の今まで普通に会話していた勝真さんが、
          なんと目の前で倒れている。





          「かっ、勝真さん……!!」
























          「はぁー……」


          あれから、女房さんや邸に仕えている人に協力してもらって、
          勝真さんを部屋まで運んだ。

          お医者さんにも見てもらったけれど、どうやらいわゆる風邪らしい。





          「安静にしてれば大丈夫みたいだし……」


          良かった…………。

          あたしに出来ることは少ないかもしれないけど、
          とりあえずとそばについてよう。





          「今日は花梨ちゃんに同行できないね……」


          もちろん京を救いたいとは思ってる。

          だけど、あたしにとって勝真さんという人は、
          すごく大きな存在だから…………。





          「……すみません、
           この文を紫姫の館まで届けてもらえませんか?」


          いつも文を運んでくれる人に、あたしは声を掛けた。




















          「神子様、様から文が届いておりますわ」

          「さんから?」

          「はい」


          …………。





          「様はなんと?」

          「うん……なんか、勝真さんが倒れたんだって」

          「そんな……勝真殿はご無事なのでしょうか」

          「軽い風邪だから、安静にしてれば大丈夫みたいだよ」





          「でも、さんは勝真さんについていたいから、
           今日は来れないみたい」

          「そうですか……様がいてくだされば心強いですが、
           こればかりは仕方ありませんものね」

          「そうだね。
           じゃあ今日は、幸鷹さんと翡翠さんと三人で神護寺に行ってくるね」

          「はい、神子様。お気をつけてくださいませ」























          「……ふぅ」


          勝真さん、さっきまで苦しそうだったけど、
          今はけっこう落ち着いてきたみたいだな……。





          「…………?」


          あたしがなんとなく庭に目を向けていたとき、
          ふと声が聞こえた。

          先ほどまで眠っていた勝真さんの方を見やると、
          その目がうっすら開かれている。





          「勝真さん!」


          あたしは、急いで勝真さんのそばまで寄った。





          「勝真さん、気分はどうですか?」


          さっきよりは落ち着いてきたとは言っても、
          まだ熱もあるし、きっとつらいよね……。





          「あぁ……そんなに悪くない」


          そう言って勝真さんは少し笑ってくれたけど、
          やっぱり少しつらそうだな……。










          「俺は、倒れたのか……?」

          「はい、それはもう突然に」

          「…………悪かったな」


          笑わせるために少し皮肉ってみたんだけど、
          そんなに効いてない……

          ここは、さすが、って言うところなのかな?
          まぁ、あんまり心配しすぎることもないのかも。





          「女房さんが、食べやすいご飯を作ってくれてるみたいなんです。
           それを食べて、ゆっくり休んでくださいね」

          「あぁ……」
  
          「じゃあ、あたしはちょっと桶の水を換えてきます」


          ぬるくなってきちゃったしね。













          「…………


          あたしが部屋を出ようとしたら、勝真さんに呼び止められた。





          「……? どうかしましたか?」

          「いや……
           お前、花梨のところには行かなかったのか?」

          「あ、はい」


          もしかして、気にしてるのかなぁ……。





          「勝真さんの看病もしたいし、今日は行かないことにしたんです。
           花梨ちゃんにはちゃんと文で知らせておきました」

          「だが……はりきってたじゃないか。いいのか?」


          勝真さんは、あたしが花梨ちゃんのところに行けなかったことを
          やっぱり気にしているようだった。

          …………でも、正しくは“行けなかった”じゃなくて
          “行かなかった”だから。





          「だって、勝真さんのこと、心配ですもん。

           それに、花梨ちゃんはあたしが居なくても、
           八葉のみんなと力を合わせて頑張れる子ですよ?」


          きっと、こんなこと言ったら怒られちゃうかもしれないけれど、
          あたしにとって一番は……勝真さんなんだよ。










          「それとも、勝真さんはあたしがそばにいたら嫌ですか?」

          「そ、そんなことは無いが……」


          焦った勝真さんって、ちょっと可愛いかも(笑)





          「あたし、花梨ちゃんのこと信じてますから。
           きっとお札を見つけるための、道を切り開いてくれます」


          別に、花梨ちゃんに丸投げしてるわけじゃないけどね!
          あたしだってやるときはやるよ?





          「解ったなら、大人しく寝ててくださいね。
           起き上がったらダメですよ!」

          「……あぁ」


          さてと、さっさと水を換えてこないと!
 

















          「…………全く、には敵わないな」


          その笑顔に、無邪気なところに、
          だけど心に響く言葉を持つ芯の強いという存在に、
          何度癒され、何度救われたことだろう。


          それを、アイツは解っていないよな。
          まぁ、それもいいところではあるんだろうが。





          「狙ってやってることじゃない……」


          だからこそ、救われる。
          俺は、そんな気がするんだ…………。




















          「様、文が届いていますわ」


          その日の夜。

          少し元気になった勝真さんと部屋でおしゃべりしていたら、
          女房さんが花梨ちゃんからの文を持ってきてくれた。





          「なんて書いてあるんだ?」

          「ちょっと待ってください、えーっと……」


          おそらくは、今日の成果が書かれてると思うんだけど……。

          その予想は正しく、お札を探すために今日やったこと、
          そして新しく得た情報などを、花梨ちゃんは文で教えてくれたのだ。



          紫姫と泉水の占いをもとに神護寺へ行った花梨ちゃん、
          白虎の二人は、大威徳明王と話をしたんだって。

          そして、神子と天地の白虎が札を手にする人間に値するか見極めるため、
          課題を出されたんだとか。



          天の白虎は、本当の強さがどこから生まれるかもう一度見つめ直す。
          花を手に入れ、その後で神子と天地の白虎で神泉苑へ向かうみたい。

          地の白虎は、人にとって真に価値のあるものとは何かを知る必要がある。
          香を手に入れた後、神子と天地の白虎で図書寮に向かうようだ。
 


          二人とも課題を成し遂げたら、お札が封じられている祠への道を
          一日だけ開いてくれるんだって。





          「じゃあ、明日から課題を成し遂げるために動くのか?」

          「そうみたいですね」


          文に書かれていたことをあたしが説明すると、
          勝真さんは確認するように言った。





          「でも……」

          「何だ? 他にも何か書いてあるのか?」



          “
さん!
           勝真さんも体調が悪いみたいですし、
           しばらくお邸でゆっくりしててください。

           大威徳明王の課題は、私と幸鷹さん、
           翡翠さんでクリアしますから!







          「花梨ちゃんが、しばらく来なくていいって……」

          「なんでだよ」

          「あたしたちが疲れてるだろうって、
           気を遣ってくれてるみたいです」


          なんだか、前みたいに
          全然手伝えない感じになりそうで微妙だけど……

          やっぱり、勝真さんに無理してほしくないしね。
          明日はお休みだって言ってたから、花梨ちゃんに同行しそうだし。
          (今日は急きょお休みもらったみたいなんだ)









          「まぁ、神子が言うんだから仕方ないですね。
           というわけでしばらくお休みしましょう!」

          「本当にいいのか……?」

          「いいんですよ! 
           ほら、勝真さんはまだ本調子じゃないんだから、
           もうさっさと寝てください!」

          「お、おい、!」


          あたしが勝真さんを布団に押し込めると、
          ちょっと焦ったような声が聞こえた。

          でも、しばらくお休みかぁ……







色々と考えたいこともあったから、ちょうどいいかもしれないね。