勝真さんが倒れてから、三日が過ぎた。

          もうすっかり元気になったからと言った勝真さんは、
          今日はお仕事しに出掛けていったの。


          あたしはというと、花梨ちゃんにしばらく休むようにと念押しされたため、
          今日はお邸でのんびり過ごすことにしたのだ。





          「えーっと、確かこの辺りにしまったはず…………」


          前に、この世界のことについてまとめたメモ……
          見つからないように、引き出しの奥にしまっといたんだよね。





          「……あ、あった!」


          日記だとか言って書いたやつだけど、
          実際、あの日以来何も書いてなかったり……。





          「とりあえず、ここまでの物語の流れを書いておこう。
           牡丹の姫のことも、少しメモしておこうかな」


          また初めから考えていった方がいいかな。












           「まず、呪詛に使われ捕らわれていた四神を解放した。
            そのとき、同時に八葉全員を探すことに成功」


          おそらく、同じ四神に属する天地の八葉がいなければ、
          四神を解放することは出来なかったんだと思うけど……。





          「それから、院と帝に憑いていた怨霊を退治した」


          あの怨霊たちとは、二度戦ったんだよね。
          一度目は、ただ退治をしただけ。





          「二度目は、花梨ちゃんが封印の力を手に入れることが出来たから、
           もう復活することのないよう、完全に封印できた」


          そして、あたしも牡丹の姫として大きな力を得た。





          「牡丹の姫の術は、姫を選んだ人がこのときだ、
           という瞬間に出せるように、制御していたみたいだったよね」


          それは、牡丹の姫の力を使いこなせるようになったときに、
          完全に姫に与えられる力なんだ。














          「龍神は神子に牡丹の姫を遣わすことにした、か……」


          あたしを選んでくれたのは、本当に龍神なんだろうか。

          ……確かに一番初めに変な空間に飛ばされたとき、
          あたしと話をしていたのは龍神に間違いない。





          「だけど、あのとき…………」


          帝に憑いていた怨霊と、二度目に戦ったとき……



          
牡丹ノ姫ヨ…………



          ……ううん、それ以外のときでも、あたしに話しかけてきた人は

          あたしに力を与えてくれた人は、
          龍神とは別の存在な気がする…………。






          「龍神より、もっとやわらかい話し方だった。
           なんていうか、例えるなら女の人みたいな……」


          誰なんだろう…………


          あたしを選んでくれたのは、
          龍神ではなくてあの人なんじゃないだろうか……














          「…………まぁ、この辺は合ってるかあんまり自信は無いし、
           まだメモするのはやめておこうかな」


          ……っと、それから、院と帝はすっかり元気になったみたいだね。
          (後遺症みたいなものも、見られないらしい。)

          やっぱり、完全に封印したことで悪いものを断ち切ったからなのかも。



          これまで四神を解放する中で、千歳やシリン、和仁親王や時朝さんが
          一連の呪詛なんかに関わっているらしいことはほぼ間違いないよね。

          それから、深苑が千歳側についたり、アクラムが何か企んでいたり……
          前にも言ったけれど、他にも問題は山積みなんだ。






          「…………ま、とにかく、これから目指すのが四方の札だよね」


          八葉に奥義をもたらすのは、この札だって紫姫が言ってた。





          「確かに、この札は
           あかねちゃんのときにも大きな力をくれたと思う」


          この世界でラスボスが誰なのか解らないけど、
          いざというときのために力を手に入れておくことは、いいかもしれない。













          「…………それを悪用されると、また困るけどね」


          シリンや和仁親王だって、あのまま引き下がるようにも見えなかった。
          四方の札を探す過程で、またぶつかるのかもしれない。





          「アクラムの真意も解らないし…………」


          花梨ちゃんには今のところ害は与えてなくて、
          話によると親切なことばかりしているらしい。
          (なんか嘘くさいとあたしは思うけどね。)





          「だけど、あかねちゃんのときにも
           ひどいことばかりした男だし……」


          信じるというのは、やめた方がいいと思う。
          向こうは花梨ちゃんやあたしのことを手駒だと言ってきた。

          あたしたちにそんなつもりは全くないけれど、
          とりあえず今は奴の出方を見ていることが正解なのかな……。










          「…………あれ? 

           でも、どうして百年前にいたアクラムとシリンが
           今もここにいるんだろう」


          鬼って不老不死だったっけ?





          「いや、まさか……」


          それもないような……





          「あー、アクラム嫌いなことがここで響いてくるとは!」


          鬼について全く知らないし!












          「…………とりあえず、引き続き警戒はしないとね」


          解らないことについて考え込んでても、仕方ないと思う。
          だから、あたしは今できることを精一杯やらなきゃ!




          …………。





          「うーん…………」


          それにしても、のんびり過ごすって言っても
          ずっとお邸にいるのもやっぱり暇な気がする……。





          「……そうだ、ちょっと扇を使ってみようかな?」


          いくらこれで攻撃できるとはいえ、
          使い慣れてないなら意味ないもんね。





          「練習しておくって意味でも、
           使ってみるのはいいかもしれない」


          そう思ったあたしは、お邸の庭へ向かった。

















          「ここなら広いし、危なくないよね……」


          辺りにも誰もいないみたいだし、今なら大丈夫だろう。





          「でも、使ってみるとは言ったものの、どうすれば……」


          振ってみるとか?



          
ブンッ


          シュッ!






          「…………え?


          何となく扇を振ってみると、
          その先にあった木の枝が折れ、ぼとりと音を立てて落ちた。





          「…………まさか」


          あたしの力って、こんなにすごいの!?





          「いや、確かに戦向きとは聞いていたけれど……」


          これ持ち歩いてるなんて、
          あたしの方がよっぽど物騒だな……!












          「…………いや、だけど
           力があればと後悔するよりはいいのかな」


          あのとき、ああしていればと、後悔することだけは嫌だから。





          「やっぱり、扇に慣れておくのもいいよね」


          最近は怨霊も力の強いものがたくさんいるみたいだし……





          「まぁ、でもこれ以上ここでは使えないな……」


          そんなことしたら、庭の木の枝が全部なくなっちゃうよ。





          「後で訓練できる場所がないか、勝真さんに聞いてみよう」


          もしくは、頼忠さんもいい場所を知ってるかもしれない。





そんなことを考えながら、あたしは部屋に戻った。